40.厄介な素材
大抵の領には中央都市が存在し、その領を取り仕切っている。
イスカ領の場合はサブストルという都市が中央に存在する。
【迷いの森】やトリナムから見える程の距離だ。
今回は、ダンジョンから生還したメンツがその都市で素材売却を行うようである。
「よう、マーカ。俺の手に負えない物を持って来たぞ」
「へぇ?"天空龍の涙"でも拾ったのかしら?」
「何と言うか、別の意味でもっとやばいやつだな」
「自分でハードル上げちゃって…ガッカリしたら責任問題よー?」
いつもながらのやり取りで、窓口の女性と喋るのはフラックだ。
天空龍の涙というのは、最近人気の演劇で出てくる伝説のアイテムだ。
「これなんだが」
フラックが、他の者に見えないように、赤い破片を出す。
マーカと呼ばれた女性は、固まり…
器用に指先だけ動かして、奥の部屋に来るようにサインする。
…
「お、おい…目が怖いぞ」
フラックは突き刺すような視線で見られている。
しばらく経った後、問い詰められる。
「これの持ち主を倒したんですか?」
「倒したというか、勝ちを譲ってもらったというか」
「…一応鑑定結果を見せておきましょう」
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品名:炎羅の外殻破片 Lv360
材料:アーグスト鉱石
用途:魔法石や各種火属性合成など
産地:魔神【炎羅】
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「寝ぼけていた説は否定されちまったな」
ジェイドの魔神化状態と戦っていたフラック達は、見慣れない破片が落ちていることに気付き、持ち帰った。
このアイテムをギルドの者に鑑定して貰っているのだが…
鑑定者自身も信じられない結果に不安を覚えていたので、ここに来たのだ。
なお、ジェイドの魔神化は実物の魔神の力を弱めて呼び出しているので、Lv140くらいだ。
しかし素材だけは実物なので、ある意味お得な戦闘だ。
「それで、こいつは買い取ってくれるのか?」
「四百万アグラまでは出せます」
「びっくりな額ではあるが、意外とそんなもんか」
「今の状況では、それ以上捻出出来ないので…」
「ふむ…まあ、世話になってるからな。それで手を打とう」
フォレスト・ダンジョンにはまだまだ奥がある。
生きていれば更なる素材を手に入れられると考え、先に恩を売っておく。
マーカは交渉決裂すると思っていたのだが、あっさり成立する。
すぐに支払いを行い、破片を"最重要物倉庫"にしまう。
その他素材は高額な売却でないため、まとめて支払われる。
処理が終わり部屋から出ると、マーカはいつもの調子に戻る。
いつもと違い、今日は何か追加の用件があるようだ。
「ねえ、この後二人きりになれない?」
「物を預けた後は空いてるぞ」
「じゃあ、一時間後…都市の南口で待ってるわ。絶対来てねぇ」
目的が読めなかったが、フラックはとりあえず用を済ませる…
…
予定通りマーカと合流したフラックは、都市の南口から外に出ている。
会話もなく暫く歩き…人気のない辺りまで来ると、マーカが止まり振り返る。
「今だから言うけど…私、あなたの事…」
「お、おう?」
今までにない雰囲気に緊張するフラックだが…
息をのみ、次の言葉を待つ。
「ずっと鍛えたいと思ってたの!」
「何でだよ!」
どうもフラックは"育てたくなる顔"をしているようだ。
少し期待していた何かは砕け散った。
しかし、本気の空気を感じ、フラックは距離を取り、戦闘用の構えに入る。
「自分で言うのもなんだけど、面白い戦術だと思うわ」
マーカは持参していたバスケットのような物から、液体の入った入れ物を取り出す。
フラックは先に鑑定アイテムを使う。
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種族:人間 Lv30
技能:
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<魔道合成> 魔法と道具を合成し、【魔道弾】を作成できる
<魔道分解> 【魔道弾】を魔法と素材に戻す事ができる
<魔道銃士> 【魔道弾】を使うスキルの威力と発射数増加
<バレットダンス> 弾を使うスキルの発射数増加
<資源回収> 使用した弾を素材に戻す
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「鑑定スキル無し…どういうことだ?」
「ギルド【黒爪】、レベル詐欺のマーカ…行きます!」
フラックは疑問を後回しにして見据える。
マーカは、持っていた液体を空に撒く。
「アイアン・バレット!」
「魔道合成 フリーズ・バレット!」
液体が多数の弾丸になり、冷気の魔力を帯びる。
僅かの間をおいて、全てフラックの周辺に目掛けて飛ぶ。
魔道合成に使う魔法は、保持しているシャドウ・ウィザードの物を使用している。
「嘘だろ!?あぶねぇ!」
アイアン・バレットは低レベルの攻撃魔法だ。
鉄素材から一発分の弾丸を生成し、飛ばすだけの魔法なのだが…
マーカのスキルにより、発射数大幅増加、更に氷結効果まである。
ただし、コストは発射数分要求される。
実は空に投げた液体は、金属を特殊な素材で液状化したものだ。
フラックが逃げている間に、もう一つの液体を空に投げる。
「次!シルバー・バレット!」
「魔道合成 サンダー・バレット!」
見ているだけで視界が閉ざされそうな、輝く弾が出来る。
先程の弾が地面に当たり、凍った部分からも光が反射する。
「光の反射で視界を潰すか?見破った!」
フラックはチャンスと思い、ギリギリ回避できる軌道で走り、距離を詰める。
「魔道分解 サンダー・アロー!」
「うおっ!?」
飛んできた弾から電気が抜け、矢となって軌道を変え、飛んでくる。
これには予想外で、体勢を崩す。
「アーグスト・バレット!」
「魔道合成 フレイム・バレット!」
フラックが見た事のない銃弾が出来上がり、燃え上がる。
「な、なんだ…あれはまずい!」
妙に不安定で狙いも甘く、フラックが走り出す前の位置に落ちようとする弾丸。
「戦闘は中止だ!間に合え!」
フラックは必死の形相でマーカの方へ走る。
そして勢いを付けたまま飛び掛かり、抱き着く格好になって地面に転がる。
「ちょ、ちょっと何を…」
言いかけた瞬間、先程まで居た場所は、巨大な火柱に包まれる。
直撃は避けたといえ凄まじい熱量で、フラックの背中は焼けている。
火はすぐに消えたが、円形の荒野が出来上がる。
「うっ…なんて物を作ってやがる…」
「動かないで!背中が…」
実は、先ほどの魔神素材を弾丸にしたのだ。
いくらアイテムに精通していると言っても、即魔神素材を使いこなせる程甘くはない。
フラックは途中で尋常でない雰囲気を察知し、何とか死者を出さない事に成功した。
マーカは念のため、効果の高い回復薬を持ってきているので、フラックに使う。
火傷も問題なく治療できるようだ。
…
治療は終わり、落ち着いたところで、マーカが話し始める。
本気で心配していたようで、涙を堪えながら喋っている。
「ご、ごめんなさい…私のせいで…」
「あー…その…」
幸い体に問題は無く、周囲に人の気配はない…が、気まずい。
こういった雰囲気に慣れていないフラックは誤魔化す作戦に出る。
「俺だって、最初はファイア・アローが指に刺さった事がある」
「今回は誰も犠牲になっていない。次はそれを繰り返さないようにするだけだ」
フラックは起き上がり、素材に戻った破片を拾い上げ、マーカに渡す。
同時に、子供扱いするようにマーカの頭をポンポンする。
「また、いつものように素材を買い取ってくれよ」
「…!」
円形の荒野を見なかった事にして、都市に戻る二人。
"急に怖くなった"マーカの希望で手が繋がれている。
…
『何見てるんですか?死にたいんですね?』
「「「!?」」」
…
「あれ?クオさん。こんな時間にどうしました?」
「こいつら治してやって。肉体的にも、精神的にも」
魔道シリーズは元々誤植の直し中に思い付いたものです。
ダンジョンの名前に良さそうとか思ってたんですが、既にあるので…
結局、道具との合成に行きつきました。
ゲームでは…マーカは居ますが、一生独り身のショップ店員です。
ある稼ぎポイントで得られる汚水を大量に買わされたり、色々と可愛そうなのでストーリーを増やしました。