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37.いつもの惨事と紫蝶の短剣

「くたばりやがれ!」

「ああ!?死にてえのか!」

「「「お前らうるせぇ!」」」


ドガァ! ガシャーン!


「おい、賭けの邪魔するな!」

「メシにゴミが入った!一発殴らせろ!」

「「「うるせえって言ってんだろ!」」」


バキィ! パリーン!


「怪我人を回復する!」


ガーン!! ゴーン!!


「「「一番うるせぇ!!」」」


この騒々しい所は、ギルド【黒爪】の飲食スペースである。

最近大人しくしていたが、ついに喧嘩が始まった。

ここに、喧嘩を止める者、賭けの為にそれを更に止める者が入り混じる。


怪我人を回復しているのは、歓迎会でアピールしてきたオージュだ。

天使の鐘という音楽スキルで回復しているのだが、うるさすぎて注意を引いてしまい、乱闘に巻き込まれている。

もはや飲食スペース全体が乱闘スペースに変身している。


「平和になったと思ったのに…俺の店が…」


厨房で膝をつき、絶望する者も居る。


「敵か!?」

「いや、でも殴り合ってるのは、見た事ある顔よ…」

「ここだけは逃げても良いと思います」


パペット三人組は食事を取ろうとしたのだが、それどころではない。

困惑している間にもヒートアップしていく。


「グランドスラッシュ!」

「フラム・ブレイド!」

「て…天使の…」

「アシッド・レーザー!」

「エイミングショット!」


オージュは完全に被害者なのだが、まとめて薙ぎ払われる。


パペット三人組は逃げ出そうとしたのだが…

妙に高レベルなスキルの応酬に見入っている。


「俺も練習すれば、いずれ出来るのか…?」

「あれ便利そうね!」

「なるほど、防具を溶かせば…」


【黒爪】の低レベル勢は、こうやって技術を伝授してもらうのだ。

もちろん喧嘩している者は、そんな事まで考えていない。


この状態が放置されるわけもなく、やがてフェイリアとクオが現れる。


「…最近大人しくなったと思った所にこれですか」


表情は変わらないが、殺気が滲み出ている。

【黒爪】のギルド収入はとんでもないのだが、損失もとんでもない。

喧嘩による修理代は支払って貰うのだが、損失がなくなるわけではない。

結果としてあまり儲かっていないのだ。


「ふふん、こういう時の止め方ってものがあるわけ」


クオが自信満々に言うと、乱闘スペースへ向かって発言する。


「速報!マーカが男連れて散歩中!」

「「「「…は?」」」」

「手も繋いでた!」


急に静かになる乱闘スペース。


マーカというのは、【黒爪】所属であるのに他のギルドショップに在籍している女性だ。

ゆるい雰囲気で親しみやすいので、人気がある。

主にここで生産されたアイテムを優先的に買い取り、ショップに流す役だ。

最近はバレても首を切れる者が居ないため、大っぴらに取引している。


「どうよ?止まったでしょ?」

「なるほど、そのような手がありますか」


特に意味のない決めポーズをとるクオに対し、フェイリアは素直に驚く。


「一つ貸しってことで!」

「ふふっ、ありがとうございます」


フェイリアが感謝の言葉を発しながら、クオをハグする。


「大げさだなーってあれ?も、もう良いでしょ!」

「以前、施設を破壊した後、足音を偽装して逃げましたね?」

「チッ、逃げ…力つよ!」

「それでいて一つ貸しとは良い度胸です…あなたも含めて"刑"を与えます」

「あ、あががが!」


パペット三人組は、観客になっていた事を咎められないように、こっそり逃げ出した。


-------------------------------------------


「あら?短剣が落ちてる」


依頼カウンターのあたりまで逃げてきた三人だが、紫に鈍く光る短剣が落ちていることに気付く。

一番近くのリコラディアが拾い上げる。


「綺麗ね…」


美術品のような気品がある短剣に、思わず魅入っていると…


『アナタ見る目があるじゃない?』

「「「喋った!?」」」


この短剣いわく、新たな持ち主を探しているのだという。


『綺麗なだけじゃなく、魔法を強化するステキな力もあるのよ』

「欲しくなってきちゃった…」


そうこうしている内に、"持ち主"が現れる。


『お、遅かったか!』

「新人さん!?その短剣をすぐに捨ててください!」


現れたのは、呪剣使いのシルヴィア…と呪剣だ。


「これシルヴィアさんの?じゃあ返すわ」

「あれ、くっついて取れない…この!この!」


短剣を離そうとするが、凄まじい力で張り付いて取れなくなっていた。


『ウフフ…もう遅い。久しぶりの生贄はどんな味かしら』

『吸血!』


シルヴィアは絶望した表情になる。

しかしリコラディアは何ともないようで、首をかしげる。


『…血が無い。何なのこの子!』


この呪剣は魔法強化の力を持っているのだが、使用者の血を吸い上げる。

通常の者であれば、すぐに死亡してしまうほど強力な呪いだ。

リコラディアはパペットなので血など無く、ノーリスクだ。


隙が出来た所で、シルヴィアが短剣を掴む。


『や、やだ!こんな快適状態…耐えられ…』

『…』


無力化を確認したところで、リコラディアの手から離し、回収する。


『人基準で言うとだな、アレは快適過ぎて見せられない顔になっている』

『寝起きの顔よりひどいぜ?』


呪剣は状態が分かるようで、人に例えて伝える。


『それはそうと、あれは呪いが強すぎて、武器合成で消せないから困ったな』

「放っておくのも危険となると…火山にでも放り込んでみますか?」


どうやら破棄前提で話が進んでいるようだが、待ったがかかる。


「待って!あの短剣と話させて!」

「ふむ…では私の部屋を使いましょう。前に居ますので何かあれば呼んでください」


引き留めたのは被害者であるリコラディアだ。

装備者には呪剣の意識が流れて来るのだが…思う所があるようだ。

シルヴィアの部屋を借りて短剣と話す…


『はっ…まだ何か用?』

「ゆっくり話してみたいの。実はさっき意識が流れて来て…」

『フン!だったら、どうなのよ』

「実はわたしも…」

『うそ…』

「それで…」





数時間も格闘して、リコラディアが部屋から出て来る。

手には例の短剣を持っている。


「大丈夫でしたか!」


シルヴィアが駆け寄るが、何やら短剣の雰囲気が違う。


『この子は死なせないわ!傷付けるやつは呪い殺す!』

「「「一体何が…」」」


どうやら、お互いに共感出来る所があったらしい。


『どれどれ…?』


#########

品名:紫蝶の短剣

特性:

 <呪い> 全属性魔法攻撃力上昇、常に大量の血を捧げる

 <紫蝶> 魔法使用時のコスト低下、呪いの効果上昇

 <一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない

 <通話> 自身の意識を他者へ伝えられる

 <誓い> リコラディアの為なら盾にもなる

#########


『よし、その短剣は任せた!』


厄介な物を押し付けるチャンスと踏んで、意見が出る前に決めてしまう呪剣。


その後フェイリアにも許可を貰ったので、正式に装備出来る事になった。





そして気の合う者と物は、【きらきら屋さん】へ赴く。


『アナタ本当に見る目があるわぁ』

「すごいの持ってきちゃったね!」


短剣の手入れに必要な物を見に来たのだ。

刃の汚れを落とす砥石代わりの鉱石、保護のオイル等…

いわゆる"化粧道具"のようなものだ。

短剣の好感度はすぐに振り切れる事になる。

ゲームでも登場する紫蝶の短剣ですが、装備した瞬間に、装備者が死ぬというものです。

シルヴィア編をクリアすると他の者が装備出来るのですが…

血がない存在のみ装備できる設定を誰にも見つけてもらえず肥やしにされていました。

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