36.報告会ときらきら屋さんの品揃え
数日の間、ギルド【黒爪】で活動していたパペット三人組だが…
今日は【迷いの森】、魔女の住居に集まっている。
今回は森の魔女、フィーリと、その横にもう一人居る。
最近の情報共有がメインだが、新入りを紹介したいとの事で連れて来ている。
「この子は"試験"を最速で突破した、カラニグラよ」
「よ、よろしく」
この者は、奴隷パペット化計画の対象となった者である。
薪割りが出来ると言っていた男性なのだが、思わぬ特技を身に着けた。
小鬼族の拠点に見学に行った時、小鬼族と意気投合し…
その後共同で"新兵器"を作る事に成功したのだ。
現在は小鬼族のアイテム開発担当として活動している。
元の人生では上下関係がとても厳しかったためか、"先輩"の前で落ち着かない。
パペット三人組も名乗ると、何とか落ち着きを取り戻す。
「当面は小鬼族の所に通うから、用があったら拠点に行った方が早いわ」
今回は顔合わせのみだったらしく、紹介が終わるとあっさり帰されるカラニグラ。
勢いよく小鬼族の集落の方へ向かうので、新たな生を満喫しているようだ。
「さて、次はあなた達の活躍を聞かせて」
数日分の濃い出来事を話して行く。
…
「予想以上に良い経験をしたみたいね?」
フィーリは嬉しそうに言うが、心臓に悪い日々である。
個別で確認したい事があるようなので、答えていく。
「【夢幻の湿地】に行ったとき、濃厚な泥の臭いがしなかった?」
「帰る時に臭いがした気はするが…正直それどころじゃなかった」
妙な質問に、グリンが気になって追加質問する。
「泥の臭いがすると何かあるのですか?」
「マッド・ゴーストという泥の高レベル生物が居るんだけど…」
「それが発生した時に、濃い泥の臭いがするの」
細かく聞いていくと、Lv200台の個体とのことだ。
地中から音もなく近寄り、獲物の足元を軟化して地中に引き込み、捕食する。
特定の時期しか現れないため、警戒していれば問題ない相手だ。
ボルテック・フォクシーはこれを警戒して逃げていたのだ。
「一応、フェイリアにも警戒するように伝えておくわ」
【黒爪】では、毎回発生時期になると注意報が出る。
これによって被害件数は大幅に減っているのだそうだ。
一般ギルドはそのような情報を持っていないため、金に困った者が向かい栄養源となる。
「それにしても、【メテオリット砂漠】に依頼が発生するなんて、何だか複雑な気分だわ」
「実はあそこ、フェイリアと本気で喧嘩したら、あんな状態になっちゃったの」
「「「はあ!?」」」
秘密よ、と言われたが、言われなくても喋れる内容ではなかった。
必死に砂漠の隕石を探している者は人生を無駄にしているのだ。
【黒爪】の依頼に存在するのは、毎回依頼登録料を取れるからという理由だ。
これは昔、気性が荒かった二人がぶつかった結果なのだという。
当時は氷魔法メインだったフェイリアのスキルで、砂漠が凍土化している。
その時はフェイリアが勝ち、邪神についてのくだりを話して協力関係になった。
なお、やりあった後の惨状に気付いた二人は、自重することを憶えた。
「さて、この後はみんなでトリナムにお出かけよ」
どうやら、【きらきら屋さん】が出来たようで、このメンツで様子を見に行くようだ。
------------------------------
「いらっしゃーい!」
店自体はそこまで大きくはないが、中に入ると、所狭しとアイテムが並べられている。
魔法石や珍しい鉱石素材等を扱っており、店名の通りキラキラしている。
本当に店長になっているピナが、出迎える。
「思った以上に凄い事になったようね…」
フィーリも驚く品揃えのようで、青く輝く鉱石をみている。
良い意味の溜息をこぼしている。
「さすがお目が高いね!無傷のアクアジルコン、1800万アグラでーす!」
何気なく手に取ってみていた、パペット三人組の動きが止まる。
「な、なあ…これは?」
「高純度トスカリエント媒体、300万アグラだね!」
「これ欲しいと思ったけど…いくら…?」
「炎獄蝶の鱗粉、220万アグラだね!」
「じゃあこれも…?」
「究極爆砕の魔法石、それは…時価でーす!」
以前、クオが凄まじい勢いで稼いできた金額が120万アグラである。
その意味不明な金額ですら一つも買えない品揃えだ。
三人が自力で稼いだのは520アグラで、買う事を検討してはいけないレベルだ。
無表情になり、今までにない慎重さで棚に戻す三人。
「ちゃんとお安いのもあるよっ!」
ピナが、バスケットのようなものを幾つか取り出す。
中には色々な鉱石がたくさん詰まっているものや…
魔法石が入っている物など、色々用意されている。
札には、"どれでもひとつ30アグラ"と書かれている。
一般人が入りやすい工夫をした高級店のような感じだ。
ひとしきり見て満足すると、ピナが声をかけて来る。
「今日は、みんなにママの作品を見て欲しいの!」
カウンターの内側から繋がっている部屋の一つに案内される。
「これがその作品でーす!」
私室のような所の家具と一緒に、謎の装置がある。
丸い鏡が斜めにセットされたようなものに、台座が付いている。
ピナはどこから取り出したのか、スプーンを持って前に立つ。
「これですくって、こね…こね…はい!」
鏡がスプーンで抉り取られ…すくった物を手でこねると輝いた物が出来る。
「そ、それ…魔法石じゃない!」
リコラディアが感付き、声を上げる。
普通は質の良い魔石に、術者が属性魔力を長時間込めて作られるものだ。
「そう!マナと材料があれば、簡単に量産できる装置なの!」
「それでね、ママからの伝言があって…」
「"悔しかったら、あの世まで追いかけて来る事だね"」
「…だって!よく分からないけど伝えたの!」
フィーリは小さく笑うと、「あの子らしい遺言ね」と呟く。
実は、この装置の原案はあったのだが…どうしても作る事が出来なかったのだ。
ピナの母親は、いつの間にか先を越し、勝ち逃げしていたのだ。
「お土産に、これあげるね!」
全員分の魔法石を作り、渡してくる。
どれもLv100を超えている品のようで、パペット三人組はまた固まる。
入店するたびに心臓にダメージが行きそうなお得意先が出来た。
ゲームでは、超高いかわりに超性能の物を取り扱う店です。
レア素材なども売っているので、面倒な時は使います。
まともにやると簡単に買えない値段なので、金策システムをフル活用する必要があります。
作中は、話の都合で安い品を追加しました。