32.黒爪歓迎会
ついに歓迎会の日がやって来た。
ギルド【黒爪】正面入り口に立つのは、森の魔女であるフィーリと、パペット三人組である。
リコラディアはいつも通りの服装なのだが、男性陣は着替えている。
機能性重視がここで仇となるのだ。
「「ようこそ、【黒爪】へ!」」
待っていたフェイリアと、もう一人の者が笑顔で挨拶を交わすが…
『ヤ、ヤメロォォォ!』
側に立てかけてある剣が苦しそうに喋る。
もう一人は、呪剣使いのシルヴィアだ。
前回のかわいさを押し売りした衣装が、強化されている。
"刑務"を回避した呪剣は刑を追加されたのだが、それはシルヴィアに行き…
無意味なバッグを追加したうえ、スカートがミニになった。
「「あれは一体…」」
クエラセル、グリンはシルヴィアの元の姿を知らないので、剣の方が気になっている。
リコラディアは横に立ち、足の長さを比べてダメージを受ける。
「どうぞ中へ。飲食スペースが会場です」
とても苦しむ剣を置いて一行は会場へと進む。
…
「「「「ようこそ、【黒爪】へ!」」」」
会場に辿り着くと、先ほど聞いたセリフで歓迎される。
なんと、歓迎会開始の挨拶はこれで終わりである。
あとは終わるまで自由行動だ。
豪華な料理に手を付ける前に人だかりが出来る。
「「まずは俺を生物鑑定しろ!」」
「「おい、俺が先だ!」」
早速濃いメンツが現れた。
まずはグリンが犠牲になる番だ。
「えっと…はい…」
満足させれば開放される。グリンは学んでいるのだ。
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種族:魔王 Lv150
状態:設定中
技能:
<キャラ作成> 所持している【設定】を追加できる
<種族設定> 鑑定結果の種族を変更できるが、ステータス低下
<病弱設定> 会話中に血を吐けるようになるが、ステータス低下
<色設定> 自身の体全ての色を細かく変更できるが、ステータス大幅低下
<外見設定> 自身の外見を細かく変更できるが、ステータス大幅低下
<キャラ削除> 【設定】を取り外し、逆の追加効果を付与する。
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「魔王…?」
「我が名はザウド。蘇りし魔王なり!」
真っ黒なマントをはためかせる。
「邪魔王、マントどかせよ!見えねえ!」
「とっちまえ!」
「貴様ら…!ちょっと…それ高いから…」
ザウドと名乗った男性は、高いマントをしまうためにスキルを解除し…
どこにでも居そうな青年に変わる。
しかし勢いは収まらず人の波に飲まれる。
気を取り直してもう一方の鑑定結果を見る。
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種族:堕天使 Lv90
技能:
<不安定な魂> 所持スキルによりステータスと種族が変わる
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<天使の鐘> 全体回復魔法 Lv110 大音量
<進撃の歌> 全体補助魔法 Lv70 攻撃力アップ 大音量
<音量設定> 音に関係するスキルの効果と音量を大幅上昇
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「堕天使…?」
「オージュだ。…趣味は音楽」
種族を見て欲しかっただけなので、後の事は考えていない。
全員ノリで行動している。
人だかりを捌いていると、部屋の隅に奇妙なオブジェがあることに気付く。
なんと、正座した状態で足を石化させられているクオだ。
ピンポイントに口も石化している。
自身に指を差してアピールするので鑑定アイテムを使うと…
何かを掴むような動作をした後、笑顔になる。
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種族:美人 Lvうふふ
技能:
<愚痴 1/100> ねー聞いてよ、あの後...
<愚痴 2/100> って事があって、おか...
<愚痴 3/100> 別によくない?人の勝...
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「うわ…鑑定結果を見たくないと思ったのは初めてです…」
グリンはわざと人だかりを形成する…
…
「マグマ・ゴーレム」
「し、しまったぁ!」
「あれ?それはフロスト・タイタンで引き分けじゃないか?」
「本当だ」
「新人、やるじゃん」
クエラセルは謎の娯楽に混ざっている。
魔力を感じる紙のような物で勝敗を決めている。
ダンジョン産の魔法アイテムと言えば聞こえはいいが、ハズレ品で…
絵柄、謎の記号、数字があるので、せめて娯楽に使おうとしたのが始まりだ。
魔力が切れるまでは絵柄が動く…ただそれだけだ。
「おう、新人。こんなのもあるぜ」
「これは、コインか?」
「ちょっと特殊な娯楽アイテムで…うわっ!」
人だかりが決壊して娯楽場が台無しになる。
クエラセルは苦笑いしつつ、料理の存在を思い出して取りに行く。
…
「ちょ、ちょっと休ませて…」
リコラディアは女性メンバーに取り囲まれている。
最初は話すだけで良かったのだが…酔いの回ったメンツが出る事で一変した。
べたべた触られるうえに、ダンディボイスを使わされるのだ。
お姉さま方には大変好評だ。
「髪サラッサラ!どうやったらこうなるの!」
そして止める気が無い。
話をそらそうとしても、何者かによって結局ループされるのだ。
「そろそろ何か食べたいなーって…」
「じゃあ取ってきてあげる!」
「飲み物…」
「持って来てあげたわ」
「あっちの楽しそうなやつ…」
「私も持ってる。やりましょうか」
「…」
「料理持ってきたよ!食べさせてあげる!」
自分だけは大丈夫だろう…そう思っていると大抵酷い目に合うのだ。
しかし今回は瀕死直前で助かる。
「おーい、リコラディア来てくれー」
「呼ばれてるから!呼ばれてるから!」
強調するように連呼し、人だかりから逃げ出す。
呼び出したのはクエラセルだ。
新人同士ならしょうがない…といった感じで諦める女性陣。
「た、助かった…死を覚悟したわ…」
「何があったんだ…一応連絡だが、もうすぐ帰る時間だぞ」
一応、健全な時間に帰る設定をしてあるのだ。
当面は今までの住居に住み、"裏世界"を借りて移動する事になった。
クエラセルは先に帰る事を伝えて来ているので、お土産を貰っている。
娯楽で使っていた紙だ。
良いタイミングなので、リコラディアは帰る事を女性陣に告げる。
すると、凄まじい量のお土産と…
ラスト・ハグなる攻撃を多数から受けて解放された。
グリンは言葉巧みに囲いを突破し、お土産を貰って普通に歩いて来る。
宝箱のようなものにキャンディーが入っているようだ。
「いろんな物が見れたな」
「死にそう…」
「濃い人ばかりでした」
感想は様々だが、フィーリと合流して住居に戻る。
「そういえば、中でフェイリアさんを見かけませんでした」
「…厨房よ」
"食べ専"ばかりなので、フェイリアも料理を作っているのだ。
影の苦労人に感謝しつつ、帰路につく…
作中に出て来た紙は、本当に用途の無い品です。
どこぞで書いた、絵画のように意味ありげな素振りだけです。
イベントでドラゴンの紙が手に入るのですが…これも意味のない品です。