31.お菓子の代償とシール
「えっと…ごめんなさい!」
いきなり謝っているのは、ギルド【黒爪】のメンバー、ティスラだ。
ここは【迷いの森】にある魔女の住居である。
パペット三人組が客人をもてなしているのだが、何やら人数が多い。
ティスラは交流も兼ねて定期的に遊びに来る事になったのだが…
普通に移動すると遠いので、フェイリアの"裏世界"を使わせてもらっている。
それを嗅ぎつけた者が乱入したようだ。
「お菓子うまーい!」
「「「誰だろう…」」」
全く遠慮のない素振りで、来客用の菓子を平らげる人物が居た。
今まで居なかったタイプに、パペット三人組は困惑している。
「普段好き勝手やってる俺も、ここまでは無理だわ」
「恥さらしめ」
それだけではなく、今回は更に追加で居る。
ティスラは申し訳なさそうに紹介する。
「凄い勢いでお菓子を食べているのが…サブマスターのクオさんです」
「「「これが!?」」」
手と顔がべたべたで、そこら中にゴミを撒き散らしている。
子供なら親に酷く叱られるであろう事を、大人がやる。
そんな者がサブマスターだと言うのだ。
「そして…この大きい人がボルドーさんです」
「挨拶より先に謝らせてくれ。すまない」
ボルドーは付いて来る気が無かったのだが…クオに連れて来られた。
クオに"いい加減にしとけ"と視線を向けているのだが反応しない。
「その隣の人がデスピオさんです」
「デスピオだ。まずこいつを至急どうにかする」
デスピオもやはりクオに連れて来られた。
後ろから締めて大人しくさせるつもりだったが、見ていないのに回避される。
手間取っていると…
「扉が開けっ放しで…」
フェイリアが現れた。
フェイリアは固まって動けない。
「ただいまー」
森の魔女が現れた。
フェイリアは困惑している。
クオは逃げだした!
…
「も、もういいから…ほら、立って」
「しかし…」
パペット三人組は、フェイリアの土下座シーンという貴重な映像を見ている。
事のまずさを察知したのか、他のメンツも一緒に土下座する。
その横に、縛られた状態で顔以外を凍らされ…地面に顔を付けているクオが居る。
逃げ出したは良いが、"慣れている"フェイリアの手であっさり捕まったのだ。
死んでしまったかのようにピクリとも動かない。
「あの子、大丈夫なの?」
「大丈夫どころか…恐らく逃げ出す機会をうかがっています」
そう言うと、氷が割れ、勢いよく起き上がるクオ。
そして顔から滑り込むようにして土下座の体勢になる。
「あのお菓子が美味しすぎて…ただ働きするから!許してください!」
"これ以上は死ぬ"というラインを見極めた熟練のコンボである。
ただ、お菓子を一つでも多く食べたいという思いだけでここまで体を張る者なのだ。
普段はギルド依頼のただ働きで帳消しなのだが、今日は違った。
起き上がったフェイリアが森の魔女であるフィーリに耳打ちし…何かの許可を取る。
その後一行は森の中を移動する。
…
「これから、クオさんには"りふじん"に潜ってもらいます」
「なにそれ…?」
「非常識な罠と敵を全て回避しないと死ぬダンジョンです。以上」
「え、ちょっと!待っ…」
フェイリアが投げやりな説明をすると、光が発生し、クオの姿が消える。
実はこれ、森に作るダンジョンの試作品だ。
やさしい、ふつう、りふじん の三種用意している。
他のメンバーは交流しながら待つが…たった数分でクオが戻ってきた。
まだ一階分しか無いとはいえ早い。
「はあっ、はあっ、バカなの!」
なぜかびしょ濡れになって、全身ボロボロだ。
手には金属製の小箱を持っている。
「何で開始地点が、光も壁も無い水中なのさ!」
「しかもそこに巨大な溶岩塊が無数に落ちて来るし、超高速で攻撃してくる魚も居るし」
「時間掛けると溶岩で熱湯になるし…もう、ほんとバカなの!」
相当に腹が立ったのかダンジョンの仕掛けに文句を言う。
魔女たち以外は、何で生きてるんだこの人と思った。
「それで手に入れたのが、こんな箱一つだけって…」
とりあえずは箱の中身を確認する。
「続きが出来たら呼んでね!」
「「行くんかい」」
良い物を手に入れたようだが…?
ボルドーとデスピオが突っ込み役になるほど自由奔放なサブマスターであった。
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フェイリアとクオはギルドに戻るようだが…
他の【黒爪】メンバー三名は時間が余ってしまったので、残って会話している。
ティスラが何かを思いついたように呟く。
「氷の槍が使えたらなぁ…」
クエラセルが魔法剣の話をしていたので、タイムリーな話題である。
ただ、属性装備と魔法剣は似て非なるものだ。
ティスラは自身のスキルで実体のある武器を持てないので、氷の槍は使えない。
「俺は属性を一つも使えないから、羨ましい悩みだ」
「いや、普通に使えるだろ?」
「まあ術者が必要ではあるがな」
クエラセルが素直な意見を言うと、ボルドーが疑問を投げる。
そして珍しくデスピオも賛同する。
「「「???」」」
両者の"常識"が正反対なので混乱する。
「そうか、もしかして見た事が無いのか。だったら…」
ボルドーはデスピオの方を見ると、デスピオも頷く。
「あのバカのせいでイメージが最悪だ。ここは挽回チャンスだろうな」
パペット三人組はよく分からないまま座っている。
ボルドーがよく見ているように言う。
「フリーズ・シール!」
デスピオが見た事のない魔法を使うと、ボルドーの大剣が光る。
ボルドーはそれを勢いよく振り下ろす。
「氷結剣!」
「「「これは!」」」
剣撃の発生地点から先が凍り付いている。
「へへ、こんなもんよ」
「フリーズ・シールは氷属性付与だが、同様に他の属性も使える」
知識に貪欲な状態になっているパペット三人組の質問攻めによって、
この二人は夜まで付き合わされることになるが…悪い気分ではなかったという。
ティスラは、最初に隠しておいたお菓子を食べ、のんびりしている。
ゲームでは"りふじん"ダンジョンでとても酷い目に遭い、投げ出したプレイヤーが多数出ました。
心をへし折る前提だったのですが、やりすぎたようです。
解を知っていれば普通にクリアできますが…
10階しかないのに初見クリア率は驚異の0%です。