27.新たな体と新たな装備
今度の舞台は【迷いの森】に存在する、魔女の住居だ。
見慣れないパペットが歩き回っている。
奴隷パペット化計画を進めているのだが、まず最初のグループ分を実施したのだ。
この計画は、他領のまともに働けない奴隷に五体満足の体を与え、
代わりに仕事の手伝いをしてもらうものだ。
人ではない存在になってしまうが、それ自体に拒否する者はいなかった。
まずは問題なく動けることを確認する。
「まさか、再び歩けるようになるとは!」
「光が見える…木が見える!」
大体の者は大事な部位を失っているため、素直に喜んでいる。
"意識だけある"ような、重篤な症状だった者は、
信じられないのか泣き崩れて落ち着かない。
暫く待った後、集合の号令が掛かり、パペット達はぎこちない動きで集まっていく。
集まるのを待って、森の魔女が挨拶し…今後について話していく。
もちろんタダで体を渡す慈善事業ではないのだ。
事前に了承は取っているが、"体の持ち逃げ"をしようものなら、物理的にお別れである。
「まずみんなには、勉強期間を与えます」
「その後試験して成果が出れば合格。その体は自分の物よ」
「成果が出ない時は土の養分になっちゃうから、気を付けてね」
割とゆるめの口調で説明する。
しかし要約すると、貢献出来ないか、する気が無い者は不要という事だ。
「一体何が出来れば良いのですか?」
「私は読み書きくらいしか出来ませんが…」
「俺なんて薪割りだけが取り柄だぞ」
第一回目のグループは、出来る事を洗い出していく。
チャンスを掴もうとするようだ。
そこで魔女が続きを話す。
「至ってシンプル。"今まで出来なかった事"をやるだけよ」
「例えば、魔法を使えなかった者が使えるようになるとかね」
魔女は、自分で考えて実践することが重要だと話す。
「最初の数日は森の見学をするとして…」
「その後になるから、三日くらい考えてみてね」
「質問はいつでも受け付けるから」
パペット達は全員、どうしたものかと考えている。
ここで人に相談しに行く者や、放棄する者は土の養分になる所であったが…
今回のグループは質が良いようだ。
初期のパペット三人組は比較にならない厳しい試験であるので…
下地がない者の為に相当緩和している事になる。
なお、これまで迷いの森から出られなかった者の中に"不合格者"が含まれているのは公開されていない事実だ。
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一方、"新入り"情報が公表された、ギルド【黒爪】では…
「新入りってどんな奴かね、毎回イロモノで楽しみなんだ」
「よく言う。自分もイロモノのくせに」
「ちょっと違う、イロオトコってやつだ」
「それは絶対あり得ない」
「…女に言われると死にたくなるわ」
早くも話題沸騰である。
そんな中、"刑務"を行う者が居る。
『あー!無いわー!これは無いわー!』
『剣が鞘に納まっているだけ、剣が鞘に納まっているだけ…』
『いっそ殺せ…!』
激しく拒否しているのは、人ではなく呪剣三本である。
以前、シルヴィアという女性を操って周辺を破壊した"物"である。
その時の刑を受けているのだが、シュールな事になっている。
『呪剣がこんな…ピンクのハート付けた鞘って何だよ!』
『表面キラキラしてるし…謎のデフォルメ動物描いてあるし…』
『破壊の呪文まであるぞ…"もてカワ鞘"』
なんと、鞘を取り換えられたのだ。
特注装飾が施された、反射すると目が痛くなるレベルの代物だ。
しかし苦痛はそれだけではない。
「…」
『『『それ以上に無いのがこれだ』』』
なんとシルヴィアも装飾されているのだ。
本人は騎士団長のような凛としたイメージの人物なのだが…
かわいさを押し売りしたような衣装になっている。
本人はそこまで苦痛ではないようだが、呪剣には相当のダメージだ。
『スカートの丈が短すぎる!許さん!』
「膝上までありますが…」
『鮮血のスカーレットと言われた御方が!こんな!』
「あれは呪い装備のせいで…」
『せめて色はピンクじゃなくシックな感じに!』
「これは固定と言われました…」
『『『誰か殺してくれ…』』』
鬱な呪剣というレアアイテムが誕生した。
実はこの状態で新入りを迎えるのが"刑"なのだが、呪剣達は策があった。
今日はサイズ合わせなので普通の状態に戻してもらい、その後ある所へ駆け込む。
…
『おーい、ソイル。頼みがあるんだ』
「なんて物騒な客だ、とりあえず話は聞こう」
当たり前のように浮遊して、ギルドの武器屋に駆け込む呪剣。
こちらは装備者を狂戦士にする、皆殺しの呪剣だ。
『"自動回復"の剣が欲しいんだ』
「在庫はある。等価な物がないと譲れないぞ」
『金品はないが、お前の好きそうな話を持ってきたぞ』
「得する話ならその分の値引きはしよう」
『"紫蝶の剣"だ。協力してくれたら実物を見せてやるぜ』
「よし、売った!」
『ありがとよー』
浮遊する剣が、ロープで縛った剣を引きずっていく謎の光景が出来上がる。
…
チリーン、チリーン
『ザルース、居るかー?』
「どちら様…ヒエッ!」
ギルドの防具屋に駆け込んで、器用にカウンターの呼び鈴を押す呪剣。
こちらは装備者を眠らせる、昏睡の呪剣だ。
『取引してくれ!金が欲しい!今すぐだ!』
「そうは言っても、売れる品ないんでしょ?流石に無償提供はちょっと…」
『そこは考えた。代わりに"あの鎧"を引き取る。どうだ?』
「うーん、確かにあれは処分したい…今回だけですよ!」
『助かったぜ!』
実は金は要らないのだ。
横に倒した鎧の中に呪剣が入り、浮遊する事で持ち上げ、運搬する。
たまたま遭遇した、アンデッドに弱いギルドメンバーが固まる。
…
残るは怨念の呪剣だが…ギルド倉庫の番と話している。
『あの子は既に男がいたぞ』
「な、なんということだ…」
『しかもな、成立したキッカケはお前の割り込み会話だ』
「あああっ…!」
『お前に対する好感度的なやつは、"ギルドでよく会う人"だ』
「が、がはっ…」
『次の非番に、お前の紹介した店でデートだとよ』
「…」
呪剣はこうやって"餌"を作っていくのだ。
しかし今回は目的が違う。
『よし、保管されていたブツを手に入れた…急いで合流だ』
こちらは見つかると相当まずいので、見られないように"ブツ"を運ぶ。
…
そして全てが集まる…
『よし、これで揃ったな。早速始めるぞ!』
取り仕切るのは、皆殺しの呪剣。
『まずは、この自動回復の剣と…怨念の呪剣を合成する』
『よしこい!』
そう、装備合成してサイズを変え…あの鞘に入らないようにするのだ。
しかもスキルを厳選し、シルヴィアが使えるように改造していく。
『アイテム・リビルド!』
『合・成!』
『あれを・それする!』
いつもノリで動くのでこういう時は揃わない。
しかし合成は成功し…
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品名:たまに痒くなる呪剣
特性:
<呪い> 攻撃力二倍、たまに背中が痒くなる
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為ならやる気出る
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『デメリットを消しきれなかったが…後で消せる範囲だし良いか!』
『次はコイツだが…昏睡の呪剣と合成!』
『こいやぁ!』
謎の鎧がある。
これは"覚醒の鎧"という強そうなアイテムだが…
装備者と、その近辺に居る者を一切睡眠出来ない状態にする呪いの品だ。
これを打ち消して使うのだ。
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品名:朝に弱い呪鎧
特性:
<呪い> 攻撃力四倍、寝起きが辛くなる
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為なら頑張る
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『昏睡…お前凄かったんだな…呪いが残ったぞ』
『さて次は、たまに痒くなる呪剣とこの…自己主張封じの呪剣を合成して』
『ここに俺を合成…完成だ!』
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品名:力任せの呪剣
特性:
<呪い> 攻撃力十六倍
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為なら盾にもなる
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シルヴィアが部屋に戻った時、謎の剣と鎧があったという。
ゲームでは、この呪剣合成によってデメリットを付けたり消したりして遊べますが…
実はシルヴィア、普通の装備も使えます。
ただし普通の装備だと一定値以上ステータスが上がりません。
一方呪剣を付けると、攻撃力がガクッと下がりますが、攻撃力倍率ゲーによりまともな数値になります。
呪いの累積で攻撃力が2のn乗ペースで上がります。