26.食欲を奪う者
【迷いの森】では、朝の支度を終えたパペット三人組が冒険に出かける所だが…
新たな仲間が加わることになる。
「ティスラです!よろしくお願いします!」
ギルド【黒爪】所属の、まだ若い女性だ。
すぐ横にフェイリアが居て紹介してくれている。
その後三人組は軽く自己紹介をしておく。
「私のギルドは個性的なメンバーが多いため、まずティスラで慣れてもらいたいのです」
「リコラディアさんの事も考慮して、女性メンバーから選出しました」
まだパペット三人組は、問題児達のヤバさを知らないのだ。
今回は人畜無害なメンツとして、このティスラが選出されている。
勿論、一定以上の実力がある前提だ。
「お役に立てるよう頑張ります!」
どことなく新人のような雰囲気を醸し出すティスラ。
武器を持っておらず、防具は動きやすいだけの生活着のようだ。
「最初は驚くかもしれませんが、実力と安全性は私が保証します」
「ティスラ、後は頼みましたよ」
紹介が終わると、一礼してすぐに消えてしまうフェイリア。
一行は以前ポイズン・ドッグと戦った場所へと向かう。
…
「良い場所ですね!あったかーい…」
一行は目的地までの中間ポイントまで来たので、一旦休憩している。
ティスラは草の布団に背中からダイブし、陽の光を浴びている。
道中に会話もしているのだが、完全に新人冒険者にしか見えない。
「うーん…」
グリンが心配になって鑑定アイテムを使う。
本当に新人だった時は、守り切れるか分からないからだ。
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種族:獣人 Lv30
状態:制約 呪印 呪痕 防御低下(100%)
技能:
<闇の眷属> 保存した影のスキルを使用出来る
<逆境> 不利な状態異常と制約の数分、ステータスとダメージ上昇
<魔法制約> 名前で魔法を発動出来ない
<物理制約> 実体のある武器を装備出来ない
<即席装備> 属性・状態異常・スキルを一つずつ装備出来る
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「何これ…」
「全員に話があります。集まってください」
グリンが率直な感想を漏らす。
ぱっと見ではまともに戦闘出来るように思えないのだ。
この情報を知った事で緊急会議が始まる。
「どうかしましたか?」
「実は…」
グリンは鑑定アイテムを使った事を正直に話し、一度引き返すことを提案する。
すると、ティスラは待ったをかける。
「マスターのような戦力はありませんが…そこそこ出来るんですよ!」
自信満々に言い放ち、立ち上がる。
「リコラディアさん、私にファイア・アローを撃ってください!」
「ええ!?大丈夫なの…」
「絶対大丈夫です!」
「それなら、ファイア・アロー!」
ティスラが前に突き出している手に、ファイア・アローが当たる。
…が、火を掴んでいる。
「こんな事も出来ます」
「手に持っている火を大きくして槍の形にする」
えらく具体的な何かを使うと、先ほどの矢は大きな槍の姿になる。
試しに槍を振るうと、罪のないジャスティス・ポアナが消し炭になる。
手から火を離すと地面が燃え、別のジャスティス・ポアナが犠牲になる。
「お役に立てないでしょうか…?」
「ボクが間違っていました」
独特な戦法だが、見るからに攻撃力が高そうなので、戦闘で様子を見ることにしてみる。
…
「さて、着いたが…この前の獣は出て来ないな」
目的地に着いたが、クエラセルは茂みを警戒している。
不意打ちを察知できるグリンも前に出ている。
その後ろにティスラとリコラディアが居る状態だ。
「今日は四人だし、茂みの奥に行ってみない?」
「ふむ…」
リコラディアは一通りのものと戦闘してみたいようだ。
ティスラにポイズン・ドッグとしか戦っていない話をすると…
「それなら、戦っていない相手を連れてきます!」
そう言って一人で茂みの奥へ消える…
「危険だ、戻ってこい!」
「あれ大丈夫なの…?」
「かと言って追いかけると、あの獣が群がってくる可能性が…」
各自が心配しつつも動けない状態で数分経つ。
すると茂みからティスラが現れ、走ってくる。
「連れてきました!」
その後ろから、ぞろぞろと鼠のような生物の大群が現れる。
この生物の住処を襲い、反撃する者を引き付けて戻ってきたのだ。
「「「はあ!?」」」
集団との戦闘経験はないので経験にはなりそうだが、圧倒的物量の前に、怯む三人。
グリンは気を引き締めて鑑定アイテムを使い、策を考える。
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種族:バイツ・ラット Lv6
技能:
<鋭い歯> 物理単体攻撃 Lv4
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「ただ数が多いだけですね。範囲攻撃で減らせば何とか…」
「多すぎましたか?では減らしますね!」
ティスラはそう言うと、大群に向き直り…
「体内から燃えて死ね!」
凄い言葉が出て来た。
敵前であるにも関わらず、三人はポカーンとしている。
言葉の通り、走りながら燃えたと思うと倒れていくバイツ・ラット。
三人を気にせず、引き続き数を減らしていくティスラ。
「首を斬られて死ね!」
これは魔法を使っているのだが…
自身の能力で、魔法名以外の指示でないと発動出来ないのだ。
表現に近いものが選ばれて発動する。
魔法は、フェイリアから譲り受けた一体のシャドウ・ウィザードの物を使っている。
闇の眷属スキルにより、このシャドウから魔法を取り出している。
「この火も使います!」
燃えた死骸から火を取り出し、先ほどのように槍を作る。
自身の魔法からでも装備を作る事が出来るのだ。
引き続きティスラは大群の数を減らしていくが…
相手の未来を簡単にイメージ出来てしまうため、三人は気分が悪くなっている。
「大分減らしました!どうぞ!」
三人は正気に戻り、バイツ・ラットを相手取る。
…
大した能力もなく数が多いだけなので、いつもの戦術であっさり片付く。
倒したのは二十匹程だが、クエラセルは対集団用の知識が少し増えた。
「皆さん、お疲れさまでした!」
ティスラは笑顔で言ってのけるが、生々しい表現を散々聞いたので、三人はげんなりしている。
出発前にフェイリアが言っていたのはこの事である。
「最後のなんだっけ、内臓を…」
「「ストップ!」」
一旦茂みから離れて休憩し、精神力を回復する事にした。
暫く日光浴しているとティスラが話しかけてくる。
「皆さんはここに来る前、どんな訓練をしましたか?」
「一言で表現するなら、Lv100以上の相手とやり合っていました」
グリンが即答するが、ティスラは意味が分かっていない。
Lv6のバイツ・ラット等を倒すためにLv100以上と戦っていたと言われたのだ。
「えーと…強い方に手加減してもらった…という事ですね!」
勝手に納得するティスラだが、ある意味間違ってはいない。
暫く休憩した後に戦闘を繰り返すが、特に問題なく終わった。
成長している事が分かると共に、新たな戦いの場が必要である懸念が出た。
「帰る前に傷を回復します!」
「千切れた筋…」
「「「ストップ!」」」
本日の食事は抜きにしようという案が採用された。
ゲームでは、ティスラは黒爪ギルドで序盤から使えるメンツの一人です。
自分に対して【制約】と状態異常を自由に付け替え出来る変わったやつです。
他のメンツと合わせて超火力を出すことも出来ますが…ロマンに溺れて事故死が多発したとかなんとか。