24.爪の教師と雷の教師
ふと、文頭に日付とか時間を入れれば、時間差問題を解決できるのを思いつきました。
何故こんな簡単な事を思い付かなかったのか…しかし手遅れです。
実戦訓練を終え、精神的にくたびれてしまったパペット三人組…
一行は【迷いの森】付近まで戻ってきていた。
一度の戦闘で帰って来たので、夕方どころかまだ当分明るい。
森の入り口に近付くと、謎の小人をたくさん連れている人物を見かける。
その人物はこちらに気が付くと、頭を下げる。
近寄ると挨拶されたので返す。
どうやら今日は、パペット三人組に用があるのだという。
「グリンさんとは既に話していますが、改めて」
「私はフェイリア。闇の魔女と言われている者です」
いつもの調子で自己紹介をする。
とりあえずクエラセルとリコラディアも名乗ると、本題に入る。
「フィーリと話して決めたのですが、近いうちに貴方達を私のギルドへ招待します」
「そこでギルドの仕組みを知れば、今後色々な地で活動する事が出来るでしょう」
「詳細は次回伺った時にまとめて話します」
知らない間に話が進んでいた。流れからして強制である。
しかし、森のマナに頼れない状況で生活してみるには好条件だ。
更に、何かあった時の為にギルドの者を一人つけてくれるそうだ。
「今日はグリンさんに追加の用件があります」
「クエラセルさん、リコラディアさんはこの迷子パペット達を…」
そういって足元を見ると、謎の小人が列になっている。
これは量産型パペットで、マナを集めて帰って来たのだが…
ジャスティス・ポアナが茂っていて入り口を見失っていたのだ。
「森の中で見かけないと思ったら、ずっと迷っていたのか…」
「やっぱり道くらいは開けないとダメね…」
ジャスティス・ポアナを生やしたはいいが、増え過ぎて道が無くなり、一面緑だ。
パペットもそうだが、改善課題になりそうだ。
ここはクエラセル、リコラディアで半分ずつ受け持って住居へ連れて行く。
「さて、グリンさんにはこの間の続きを見せます」
「何でボクだけなのですか?」
「"初めから"パペットだった貴方の意見が欲しいからです」
グリンはこの行為に何の意味があるのか分からないが、知れば何かが見えてくる予感がしていた。
なのであえて全てを聞く姿勢だ。
「この間のように、私の情報を開示します。気になった所があれば聞いてください」
そう言って、自身の情報を開示する…
########
種族:シャドウ・ウィッチ Lv200
状態:特になし
能力:術分解 魔法コスト半減
技能:
<火属性強化> 火属性の攻撃力を上昇する
<一触即発> 攻撃力大幅アップ、攻撃を受けると死亡する
<ソル・フレア> 火属性範囲魔法 Lv290 一定時間持続する
<テトラ・フレイム> 火属性範囲魔法 Lv260
<イグニード・ランス> 火属性単体魔法 Lv180
<黒爪> 【黒爪】を装着できる
########
「見た事のない物がたくさん…あれ?」
散々鑑定の練習をしたグリンだからこそ気付いたことがある。
「以前はシャドウ・ウィザードだったような…」
フェイリアは嬉しそうに頷き、説明する。
シャドウには二種類のタイプが存在し、維持に使うマナによって切り替えるのだそうだ。
簡単に言えば、ウィザードは通常生活でコストが少なく、戦闘時にコストが多い。
ウィッチは、その逆だ。
どちらも他にメリットとデメリットがある。
「人間族で言えば、ウィザードが男性、ウィッチが女性です」
「これらが多数と、そして…」
フェイリアが腹を押さえるようにして力を籠めた瞬間…
右肩から黒い腕のような物が伸びたかと思うと、大きな鉤爪が展開する。
グリンが今まで感じたことが無い、異様な気配を漂わせる。
「これが黒爪。大雑把に言えば私の本体と言った所ですね」
「黒爪、ウィザード、ウィッチの三種類で構成されている存在という訳です」
グリンがとんでもない物を見て固まっていると…
フェイリアは「続きはまた次回」と言って元の状態へと戻り、影に吸い込まれていく。
我に返ったグリンは、情報を整理するが…
いずれ"アレ"と戦わされる可能性を考え、身震いした。
------------------------------
一方、妙な店が建ち始めた、【迷いの森】近くの農村、トリナムでは…
「よう、マスター。遅くなったが顔を出しに来た」
「元気だったか、フラック。それと"元"マスターだ」
「クセで呼んでしまった。ウォルス師匠」
今フラックと話しているウォルスという男性は、以前アンデッドの少女に肉をご馳走した人物である。
昔はギルドマスターだったのだが、その時にフラックが弟子入りしたのだ。
その後の冒険中に嫁を見つけ、生活を優先するためマスターの座を開けたという訳だ。
今では古い友人のような関係になっている。
「師匠、俺は強くなった。最近では天災より酷いものに襲われても生き残った」
「だから、そろそろ本気で稽古を付けてくれないか」
ウォルスは暫くフラックを見つめ…
以前顔を見せた時とは違う雰囲気を感じ、決心する。
「良いだろう。ただし冒険者を引退した身だ、手加減する技術はないぞ」
「望むところだ」
ウォルスは一度家の中に入り、出て来ると、道具の入ったバッグと大剣を持っている。
…
二人は村から少し離れた、一面草しかない場所で向き合う。
言葉もなく、両者構えた瞬間に稽古の開始である。
フラックはまず距離を詰めようとするが…
「隙あり!」
「なんだ!?」
ウォルスはいきなり大剣を投げつける。
そんなものが開幕からかなりの速度で飛んでくるとは思わず、無理のある回避になってしまう。
追撃のつもりなのか、でたらめにナイフを投げるウォルス。
雑な狙いで、まともに当たる事は期待できない。
何をしてくるか読めないフラックは、遠距離攻撃を仕掛けてみる。
魔女戦で使った、小弓のような装置だ。
「ファイア・アロー!」
「イクイップ・チェンジ!」
それに合わせて、ウォルスが魔法を使うと…
落ちていたナイフ全てが小さな石剣のようなものに変わる。
「こ、これはまずい!」
フラックはファイア・アローの狙いを放棄し急いで離れる。
瞬間、フラックのすぐ側まで、爆炎が起こる。
この石剣は、火の魔力を感知して取り込み、爆発する危険な鉱石を加工したものだ。
イクイップ・チェンジという装備変更魔法で散らばったナイフをこの石剣に変え…
フラックのファイア・アローで着火したのだ。
武器として使えるもの同士でないと、このコンボは不可能だ。
特大の隙を作ってしまい、大技が来てしまう。
「サンダー・ケージ!」
以前魔女に受けさせられた魔法である。
だが、今回は相手が待ってくれないのだ。
まずは落ち着いて雷の落ちる法則を掴むフラック。
「ライトニング・ウェーブ!」
やはり楽な状況ではなく、上からの落雷を避けつつ、
正面から飛んでくる電気の束を避けるハメになっている。
そのまま膠着するかと思えば…
「サンダー・ランス!」
「そして…二段斬り!」
なんとウォルスも雷の檻の中に入り、魔法と予備の剣で連撃を組み立て追い立てる。
もし魔法を避けると、次の二段斬りをかわすのは難しい。
かといって剣で受け止めてしまうと結局相手の隙が出来ない。
しかしフラックは魔法を避け、意外なものを取り出して防いだ。
「生木!」
「な、なに!?」
乾燥していない、丸太を輪切りしただけのような木材だ。
ウォルスは二段斬り前提の体制で一段目を受け止められ…木材に剣が食い込んで止まってしまう。
生木は乾燥させたものより柔らかいため、中途半端に刃が通っているのだ。
これで剣を捨てない限りは隙が出来る。
そのやり取りの中、サンダー・ケージが消え…
ここから反撃といったところでウォルスが首を横に振る。
「残念だがマナ切れだ。本当に強くなったな、フラック」
「いやいや、ここまで一方的にやっておいて。本当に引退したのか?」
二人は笑い合い、トリナムに戻る。
ウォルスは現役時代、雷の使い手で有名な人物だった。
引退したとはいえ、それに食らいついたフラックはかなりレベルが上がっている。
「ところで、大剣をどうやってあんな速度で投げたんだ?」
「…持ってみろ」
「は、はあ?小剣みたいに軽いぞ」
「軽いだけだが、家が買えるほどの値段だ」
本来の用途と全く違うが、これを思いつくのは長年の経験と探求心と現金のお陰である。
ゲームでは、フラックの特訓イベントでウォルスに勝つと、あの大剣を貰えます。
フラックが持って行くので、プレイヤー的には特に意味はないアイテムです。