23.危険な日帰り旅行
ようやくお出かけです。
本来はもっと早いはずでしたが、イベントと情報の出し方の兼ね合いでこうなりました。
あと変なタイミングでの補足ですが、リコラディアは魔導回路をいじり過ぎた結果、自身よりLvの高い魔法がメインになっています。
マナがあれば魔法の方がLv高くても使えます。
朝を迎えた【迷いの森】の入り口では、パペット三人組が陽の光を浴びながら、荷物のチェックをしている。
ついに保護者抜きで冒険の時が来たのだ。
今日はオトルス側にある山のふもとで実戦経験を積む事になっている。
冒険者になりたての者が訓練に使えるレベルの場所なので、安心して戦術を試せる。
『さあ、行こうじゃないか』
リコラディアの、特に意味のないダンディボイスが発動する。
無駄に色気のある男性声に変換されている。
しかし声の主はドレスのようなローブを着ている女性だ。
「やめてくれ、違和感が凄い」
「ある意味肩の力が抜けました」
男性陣は出鼻をくじかれる。
「そうは言っても、現地までずっと安全コースじゃない?ここから気を張っても疲れるだけよ」
「ボクはマナの配分調整に集中したいので周りを警戒して欲しいのですが…」
今回は保護者が居ないので、グリンが三人分のマナを供給する必要があり…
まだバランスが掴めきっていないので、ゆっくり慣らしながら行きたいのだ。
もちろん戦闘中もマナを維持しつつサポートしなければいけない。
もし途中でマナが尽きれば全員死亡である。
「時間はある。警戒しつつ、疲れたら休憩を挟む計画でどうだ?」
「リコラディアは、休憩タイミングで魔法の練習をすると良いだろう」
クエラセルが両方取りの提案をすることで、ひとまず意見が一致した。
「今日はこれを任せても良いですか?」
グリンが布袋を取り出してリコラディアに渡す。
中にはジャスティス・ポアナの種が大量に入っており、道中で撒いて行くのだ。
成長すればそれを伝ってマナの運搬が出来るので、今後が楽になる計画だ。
『フフッ、君の頼みを断れる訳がないだろう?』
「寒気がするのでやめてください」
リコラディアは間違った方向でダンディボイスを使っていくようだ。
三人は気を取り直して森の入り口を出る。
…
「本当に安全だな」
「ほら、わたしが言った通りじゃない」
「うっ…むむっ…」
三十分ほど目的地に進んでみたが、ぽかぽか暖かい日差しの中歩いているだけだ。
グリンだけ険しい顔をしている。
今まではマナが濃い森の中で練習していたので、外でのマナ配分に慣れないのだ。
「目的地まで半分を切った。少し休憩するか」
「じゃあ魔法の練習しよっと」
リコラディアが外での魔法をお披露目する。
「炎魔は全てを抱擁す」
いつの間に考えたのか、ポーズを取りながら発動する…が、何も起こらない。
これではただの恥ずかしい人だ。
「今、何をしたんだ?何も起きていないように見えるが」
「ちょっと!な、何で今回に限って興味を持つのよ!」
クエラセルに悪気はなく、外での情報は何でも手に入れたい一心だ。
その前向きな活動でリコラディアはダメージを受けている。
「ふん!」
リコラディアは機嫌を損ねて後ろを向き、なぜか金属製のティーカップを取り出す。
「ホット・ティー!」
「ふぐっ!」
リコラディアのティーカップには飲み頃の薬草茶が淹れられている。
すると、グリンがダメージを受ける。
「今、何の魔法を使いましたか?」
「ホット・ティーよ。ただ温かい茶を入れるだけの…Lv40程の魔法ね」
「茶を入れるだけでLv40って!?」
しょうもない魔法だが、美味さを追求すると高レベルの魔法になってしまう。
喉が渇く度にこの魔法を使って改良していった結果、良い喫茶店レベルの味とコストだ。
迷いの森では何の問題も無いのだが…
「残念なお知らせです。その茶一杯分のマナを入手するには、一時間掛かります」
「そして、今もう一度使うと全員のマナが無くなります」
「「はあ!?」」
危うく、しょうもない理由で死にかけた三人。
取り急ぎ、リコラディアの魔法は燃費重視で、Lv15までに制限された。
ついでにダンディボイスも制限される事になる。
なお、ファイア・レインが発動しなかったのは、マナが足りなかったのだ。
少し長めの休憩を取り、再度歩き出す…
…
「本当に何も起きないな」
なんと、あっさり目的地に着いてしまった。
念のため、戦う前に休憩を入れる。
リコラディアは退屈なのか、ボツになった魔法を披露する。
「これ見て。普通はこんな魔法なんだけど」
「ファイアファイアファイア」
火魔法Lv1のファイアを三連続で発動すると、順番に火が出て地面に落ちる。
「こんなの見つけたの」
「イアファイアファイア」
なんと、普通に発動するより早く、四連続で火が出て地面に落ちる。
ファイアの魔法と、別にイアファという魔法を作り、言葉を重ね合わせるように交互に発動すると短縮出来るのだ。
フェイリアが使っていた短縮魔法の下級版のようなものだ。
「簡単に言えば素早く発動出来るようになるって事か。そのまま使えば良いと思うが」
「響きが恰好悪いから嫌!しかも同じように使える組み合わせがほぼ無いし…」
と、話していたところで、いきなり茂みから何かが飛び出し、襲い掛かる。
「危ない!」
グリンの防具に付けていたスキル"緊急回避"により不意打ちを防ぎ、僅かではあるが蹴りでダメージを与える。
全員が態勢を整える前に鑑定アイテムを使う。
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種族:ポイズン・ドッグ Lv18
技能:
<不意打ち> 捕捉されていない状態で攻撃を仕掛ける場合、先制攻撃する
<先制強化> 先制攻撃時のダメージを上昇する
<痕跡消し> 足跡や臭いなどを残さない
<毒牙> 物理単体攻撃 Lv10 【毒】付与
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「いきなり毒か!…と思ったが俺達は大丈夫か」
三人の防具には"ポイズン・リバース"という毒ダメージで回復するスキルが付いているので、むしろ安全な相手だ。
「グルル…」
先制攻撃に失敗した犬のような敵は、勢いを失っている。
「まずは俺が前に出る。行くぞ!」
「当てたら逃げてね。サンダー・アロー!」
「マナ吸収…マナ配布…」
訓練通りの動きで敵を追い詰めていく。
しかし、訓練と実戦は違うという事を思い知らされる。
「グルアアア!」
「な、何だと!まずい!」
茂みからもう一体のポイズン・ドッグが現れ、グリンの方へ向かう。
「防ぎきれない…どうすれば!」
「ミスリル・バレット!」
動揺するグリンの横を金属塊が飛んでいき、ポイズン・ドッグを貫く。
頭にヒットしたことで一撃だったらしく、そのまま地面に崩れ落ちる。
ピンチだと察したリコラディアは、咄嗟に高レベルの魔法を解禁していたのだ。
「こっちも終わりだ!」
クエラセルが豪快に剣を振ると、ポイズン・ドッグは血を吹き、動かなくなる。
助けに行こうと無理をしたのか傷だらけだが、自然に傷がふさがっていく。
実は途中でわざと攻撃を食らいながら無防備な頭や腹に攻撃していたのだ。
毒で回復出来るが痛みはあるため、並大抵のことではない。
非常識訓練が効いているようだ。
「「「つ、疲れた…」」」
様々な疲れと、ミスリル・バレットのマナ消費により倦怠感が襲ってくる。
一戦しかしていないが、今日は種蒔きも出来たので戻る事にした。
実は、ポイズン・ドッグは初心者殺しの異名を持つ敵で、それを二匹も相手取ったのだ。
かなり賢く、マナ保有量が多い獲物を作戦立てて狩る習性を持つ。
不利になると一旦撤退して体力を回復したり、定期的に撤退と不意打ちを繰り返す戦術に切り替えることもある。
なお、ミスリル・バレットのコストとして、お気に入りのティーカップが台無しになった。
ゲームでは、最初のマップのイベントを進めていくと中ボス戦が起きるんですが、それがこのポイズン・ドッグです。
急にガチ戦術を使ってくるので結構苦戦する人が出ました。
マップの通路を岩で塞いで閉じ込め、動けなくしてから倒すものですが、一応ゴリ押しで何とかなります。