21.それぞれの使い道
トリナムはイベントが多いので一度入るとなかなか逃げられない…そんな呪いを思い出しました。
「私は、クラーグ領から逃げ出し…ゼクト領南側の【妖精の森】で身を隠していました」
「しかし限界がきていたので、新たな拠点を探していたところ、ここへ辿り着きました」
そう話すのは、スライム塊に包まれている女性、クルタだ。
応対しているのはイスカ領主のロークス、魔女の二名で、トリナムの休憩スペースを使ってお互いに状況を話し合っている。
生物を操れる能力に目を付けられたのか、身内に狙われ続ける事になったのだが…
元々居心地が良いとは思っておらず、思い切って逃げ出したのだという。
【迷いの森】を次の拠点候補にしているのだという。
なお、話に出ているクラーグ領というのは、イスカ領北部からゼクト領を経由して東側に存在する。
王政は廃止されているはずなのだが、クラーグ領だけは未だに王家が存在する。
クルタはその王家の第二王女というわけだ。
「あの森に住みたいのなら、住んでも良いわよ」
「代わりに森の仕事を手伝ってもらう事になるけどね」
魔女はあっさりと許可を出す。
「お手伝いは大丈夫ですが、人数が多いのです…」
「他に小鬼族四十人程と、訳ありの子が一人」
クルタは申し訳なさそうに言うが、魔女はあっさりと回答する。
「その程度の人数なら全員来てもちゃんと入るわ」
「仕事も山のようにあるから…ね」
むしろ来て手伝って欲しい勢いの表情だ。
迷いの森に受け入れる前提で話が進み、細かなやり取りをして行く。
パペット三人組は、魔女に「遊んで来て良い」と言われたので、このタイミングで抜け出した。
今回は三人ばらばらに行動し、"スキルジェネレーター君"で手に入れた能力を試すようだ。
…
「よく分からないな」
手に泥を塗りたくり、困り顔をしているのはクエラセルだ。
早速能力を試しているのだが…発動する条件がよく分かっていない。
「更に砂をかけると…変化なし」
"清潔な手"という手を洗う必要が無くなる能力なのだが、手を泥だらけにしても発動しているように見えない。
しかし、いつの間にか一度は発動しているのだ。
色々試していると、気付いたら手の汚れが消えていたことがあった。
「この手で水を飲もうとしたら、どうなる?」
持参していたマナ入りの水を手に注いでみる…が、濁った水が出来上がっただけだ。
「わ、分からん…」
暫く、ダメだった組み合わせを考えていると、いつの間にか手の汚れが消えている。
「時間経過かもしれないな」
「泥をまた付けて待ってみるか」
特に何も起こらないまま長時間待機する…が、手は泥だらけのままだ。
クエラセルは能力を使いこなすまで苦戦しそうである。
…
「こんなの、どうするのよ…」
こちらは大当たりを引いたリコラディアだ。
能力自体はすぐ使えたのだが、使い所に悩んでいる。
"ダンディボイス"という、色気ある男性の声を出せる能力だ。
暫く使ってみていると、翼人族の女性達に話しかけられる。
「あの、いきなりすみません。その声で…その…この言葉を…お願い出来ますか?」
話しかけてきたのは、【オーク屋さん】でドレスアップした女性だ。
「別に良いけど…?」
リコラディアは目的がよく分かっていない。
翼人族の女性はリコラディアのすぐ前に行き、後ろを向いた後、耳を近づける。
その状態で、囁くように指定の言葉を言えというのだ。
『君を、生涯守り抜くと誓おう』
能力を使い、"指定の言葉"を言う。
翼人族の女性はビクッ!とした後動かなくなり…
暫くすると、耳まで真っ赤にして、おろおろしだす。
「これは…凄まじいですね…ありがとうございました」
特定層には需要があるらしい事が分かった。
…
「ううっ…苦い…」
グリンは、村の入り口付近に生えているジャスティス・ポアナの葉を煮込んで食べている。
"苦汁の決断"の能力で、苦い物で回復力が上がるかを試しているのだ。
ジャスティス・ポアナはマナを大量に含んでいるので、これを食べれば大きな回復になるという考えがある。
実際その通りの結果なのだが、とんでもない苦みにより、回復しているのに死にそうだ。
なお、ジャスティス・ポアナは、マナがあれば種の状態から半日以内で成長しきるという、とんでもない品種魔改造草である。
成長しているのが、文字通り"目に見えて分かる"のだ。
暫く苦しんでいると、グリンの影が揺らめき…何者かが現れる。
「面白い事をしていますね」
「何者…」
グリンは鑑定アイテムを使おうとするが、切らしていた。
何かを察したのか、名乗り出る。
「失礼しました。私はフェイリア…闇の魔女と呼ばれている者です」
「今、鑑定アイテムを使おうとしましたね?」
グリンはスライムを鑑定した時のトラウマが蘇り、凄い量の汗が出ている。
「責めている訳ではないのです。…その証拠に、開示しましょう」
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種族:シャドウ・ウィザード Lv1
状態:リンク
能力:特になし
技能:
<世界の扉> 裏世界、裏の裏世界に存在する影全てとリンクできる
<知識の箱> リンクした影と同等のステータス、能力、技能を追加する
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「何が目的ですか?」
人ですらなく、自ら情報を提供してくるフェイリアを疑う。
そういう場合は大抵何か目的があるのだ。
「目的…強いて言えば、ある目的の為のアイデア募集でしょうか」
「フィーリのパペットであれば、面白い事を考え付きそうでしたので開示しました」
フェイリアは先にパペットの情報を聞いているので、色々試してみたいのだ。
実は行き詰っている計画があり、それを打破出来るアイデアが欲しい状況になっている。
「今日の所は、"裏世界"というものを見せて終わりにしましょう」
フェイリアは、グリンに手招きする。
森の魔女の名前まで知っているので、警戒しつつも乗る事にする。
近くまで行くと、フェイリアの影から手のようなものが出て来て掴まれ、影に引きずり込まれる…
「ここは!?」
一瞬視界が閉ざされた後、光が差し…"空に立っている自分"が居ることに気付く。
見上げると今まで居た地面が存在し、フェイリアと草の煮込みに使っていた道具も見える。
「これが裏世界。頭上に先程まで居た場所があります」
「そして、今喋っている私は、来る時に喋っていた私とは別個体です」
すぐ側に"別の"フェイリアが居て解説を始める。
周りをよく見ると、他にも居るようだ。
グリンは早くも混乱状態になっている。
続ける前に「見せた方が早いですね」といい自身の鑑定結果を開示する。
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種族:シャドウ・ウィザード Lv1
状態:特になし
能力:特になし
技能:
<呪術強化> 【呪痕】【呪印】の効果を上昇する
<呪いの炎> 闇属性単体魔法 Lv270【呪痕】【呪印】付与
<生物鑑定> 生物の詳細を知る事が出来る
<黒爪> 【黒爪】を装着できる
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「私はこのような"自分の部品"を別の世界に置いていて、必要に応じて取り出しているのです」
「今日はここまでにしましょうか」
グリンは言葉を無くしてしまう。
気付くと元の場所に戻っていて、フェイリアが村の中に歩いて行っているのが見える。
ゲームでは、フェイリア自身の話はかなり後の方なんですが、進行を速めるために先出ししました。
黒爪ギルドのメンバーを全員クリアしないと核心のイベントが見れない、クリア後イベント的なもののせいでもあるんですが。