15.闇の眷属は涙を流す
バラバラなタイミングですが、パペット三人組の描写をしていく活動中です。
そのうち過去が出揃うはずですが、タイミングが難しいので間が空くと思います。
知らぬうちに危機が去っていた【迷いの森】では、パペットたちの自習が始まっていた。
魔女の情報では毒物があったという話だが、既に処理済みだという。
なので安心して出掛けられるのだが…一人、困り顔で歩いている。
「はあ…思いつかない…」
困っているのは、リコラディアだ。
実は魔導回路を改造していった結果、成果の管理問題にぶち当たったのだ。
魔法は発動する時に識別名が要る。
つまり、魔法を一つ作る毎に一つ固有の名前を付けなければならない。
例えば、「ファイア」という火属性Lv1の魔法を作った場合、次に火属性Lv2を作るとき、「ファイア」の名前は使えない。
「どれか捨てる?でも捨てると新しい方が…」
作ったものを破棄して、別のものにその名前を付ける事が出来るのだが、今回は問題があった。
リコラディアの場合、張り切ってベースとなるものを大量に作り、これらを元にして調整していくスタイルなのだ。
結果、保有している魔法の種類は百を超えた。
「うーん…ん?何あれ」
悩んでいる所に、"蓋を外した木箱に車輪がついたようなもの"が現れる。
カラカラと音を鳴らし、こちらに近付いてくる。
二十センチ程の箱に何者かが乗っているようだ。
近くまで来ると止まり、中に乗っていた小人のような者が見上げてくる。
「かわいい!」
暫く眺めていると、また木箱が動き出す。
「今まで見た事無いけど、何だろう?」
速度的には歩きと同じくらいなので、付いていく事にした。
すると、暫く歩いた先で木箱が止まる。
『これが気になるか?』
ベチュラの声が聞こえる。
よく見ると、木箱のある場所の奥に、小さなベチュラが生えている。
「見た事無いものだったから付いて来ちゃった」
「あれは何?」
『試作段階だが、この森の移動手段だ。量産型のパペットを乗せている』
『我の根がある所ならば、あの木箱を感知して走らせる事が出来る』
「色的に、木箱はあなたの素材ね?」
『そうだ。自身の魔力は感知しやすいからな』
「迷いなく自分を素材にする発想の方がすごいと思うのは、わたしだけ?」
暫く話し込んでいると、あの木箱の名前をどうするか考えているという事を聞く。
リコラディアも魔法の命名に悩んでいたので、話してみることにした。
『ふむ…我は魔法を作るとき、完成形を計算した後、一気に作ってしまうからな』
『魔法に関しては今まで悩んだことはない』
「え、嘘でしょ…」
『敵の鑑定対策として、普段は作った魔法を捨てている』
また一つ、非常識が増えてしまった。
『折角だ、見せてやろう』
そう言うと、ベチュラの枝が揺れ、マナが動く気配がする。
『イタカは駆けるのみ』
風が吹いたかと思うと、傍に生えていた草が切られる。
リコラディアは動かなくなっている。
『お前は火魔法が得意だったな。特別にそれも見せてやろう』
『炎魔は全てを抱擁す』
小さな火の塊が降っていき、やがて歩道が火の海になる。
リコラディアは…「ほあー!」という変な声を上げて、目を輝かせている。
「お、教えて!どうやってそんな風に作るの!」
『あれの良さが分かるか。小娘には不評なのだが』
「あれは素晴らしい技術だわ!」
『お前を同志と認め、伝授しよう』
『ただし、小娘には使った所を見られないように』
ベチュラは過去に"洗浄"されたことがあるらしいが、"再発"したことで諦められている。
口調や見た目もそうだが、自身の登場シーンを作ったり、かなり重度の"アレ"である。
この件で二人は急激に距離が縮まる事になる。
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アレなやり取りは昼を過ぎても続き…
リコラディアの技術習得、もとい"汚染"が終了した。
が…思わぬメリットも得られたようである。
『「彼の者に捧げる十字」』
なんと、お互いの魔導回路を繋げて使い、普通は不可能な魔法を作れてしまったのだ。
ブラッド・クロスは、死属性単体魔法 Lv190である。
ただし、二人が同時に発動しないと使用できない。
『この魔法を使える時が来るとは。同志よ、感謝する』
「えっ?わたしも、強くなれたよ。ありがとう!」
ベチュラが素直に感謝を言葉にする。
一生もののお宝レベルで珍しいものである。
『更に強くなりたくはないか?』
ベチュラが不意に提案を始める。
『かなり厳しい試練だが、乗り越えれば新たな力を得られるものがある』
『内容は…戦闘ではなく、"事実を知って耐えきる事"だ』
「理解出来ないものを見せられるの?」
『簡単にイメージ出来る現実的なものだ。だが一番辛いだろう』
「なんだ、それなら大丈夫じゃない。やるわ!」
『では小娘を呼ぶ。少し休憩するが良い』
暫く座っていると、魔女が現れる。
「ベチュラちゃん…とリコラディア?珍しい組み合わせだけど、どうかした?」
『うむ、"あれ"を返してやれ』
『新たな"試練"だ。了承は取った』
「なるほど、確かに試練ね。あれは…」
魔女は、真剣な表情になると、リコラディアの隣に来る。
「必ず戻ってくるのよ」
頭を撫でて、何かを言うと、リコラディアは眠ったような状態になる。
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暫くして…
「あああ…ああっ!!」
リコラディアが目を見開いて頭を抱えている。
尋常でない苦しみようだ。
泣きながら怒っているような状態で、とても人に見せられる顔ではない。
時折、叫ぶような声を出す。
実は、パペットになる時の要望であった、記憶を消すという事に関係している。
今回は消した記憶を復元したのだ。
リコラディアは人として生活していた時代、分かりやすく言えば"大きい商家のお嬢様"だったのであるが…
非道な商売を行わない方針から、他の利益優先の連中に見限られ、資金繰りが出来ず没落してしまったのだ。
リコラディアはその時、借金の返済にと奴隷にされてしまったのだ。
まともな生活はなく、人未満の状態であった。
かなりの年月が経った後、最終的に売れ残りになり、この森の近くに捨てられたのだそうだ。
それを魔女が発見し、魔法の素質がありそうだったので仲間に引き入れた。
「…」
疲れてしまったのか、涙を流しながら眠っている。
「あとはこの子次第ね」
辺りは既に暗い。
魔女は住居から寝具とランタンを持ってきて、あえて外で一緒に寝るようだ。
ゲームではこの合体魔法的なやつは劇での演出です。
文に起こすと長くなりそうだったので、カットして持ってきました。