13.果て無き労働と呪いに愛されしもの
時間経過させるための話をどうしようか悩んでいたのですが。
黒爪ギルドの使いやすさはクセになりそうです。
【夢幻の湿地】と呼ばれる場所がある。
常に薄暗い、霧がかかっている、足場が悪い…等、冒険者の嫌がる要素を詰め込んだような場所である。
湿気も凄まじいため、もし長期戦になってしまうと食料が腐り、実質的に死が待つ。
この地の依頼は山ほどあるのだが、嫌がる者しかおらず、特に緊急でもないため消化が進まない。
"誰でもいいから何とかしてくれ"という状態だ。
そこに一人、出稼ぎに来ている者が居る。
「ソル・フレア」
「テトラ・フレイム」
空中に凄まじい大きさの炎塊が発生し、その近くを飛んでいる巨大な虫の羽根を焼いたと思うと…
その炎が四つに分かれて地面に落ち、同時に落ちてきた虫を巻き込み大爆発する。
虫は何が起きたか分からないまま、煙を上げて横たわっている。
立っているのは、ギルド【黒爪】マスターのフェイリアだ。
彼女は魔女と言われるだけあって各種属性の魔法はお手の物なのだが、特殊なものを使う。
今回使ったのは術分解という技術で、ある魔法からそれより下位の魔法を再生成するものだ。
元となる魔法が、"持続性のあるもの限定"という制約はあるが、使いこなせばマナ効率は良いという。
「さて、今日はこれで全部ですか」
「ドラゴンを見る事が出来ると期待したのですが…虫でしたね」
フェイリアは分厚くなった依頼書をめくって対象を確認する。
討伐依頼は、対象の鑑定結果が依頼書に載っており、一致すれば良いのだ。
依頼書にはフライドラゴンと書かれている。
一致しているなら、証明としてその対象の一部を持って行けば良い。
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種族:フライドラゴン Lv230
状態:死亡
能力:飛行 属性耐性(水、雷、風、土)
技能:
<毒霧> 全体補助魔法 Lv180 【毒】付与
<破壊の顎> 物理単体攻撃 Lv220 【防具破壊】
<高速移動> 飛行状態の時、注視している相手の遠距離攻撃を回避する
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「影、行きますよ」
そう言うと、フェイリアの影から手のような物が伸びてくる。
掴むと、自身が影の中に引っ張られ、その中へ消える。
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一方、ギルド【黒爪】では…
大人しくしている事自体が不可能なのか、またまた問題児が暴れている。
「アアアァァァ!」
「…ア?」
「イィヒャァァァ!」
もはや話す事すら出来なくなっている女性が居る。
その間近に居る男性が傷だらけの盾を構えて警戒している。
当然のように施設には甚大なダメージが発生しているのだが、それどころではない。
女性は、持っている剣で斬りかかろうとしたあと固まり、また斬りかかろうとするループを繰り返している。
そこへ、出稼ぎから戻ったフェイリアが現れる。
「あなた達は私の忍耐力を試しているのですか?」
フェイリアは右手に薄い氷の膜を作り、思いきり握り潰すと、バキィ!と音が鳴る。
我慢の限界を超えそうになった時、まずこれで落ち着くことにしている。
その瞬間、暴れていた女性は持っている剣を落とす。
なぜか背負っていた剣二本も床に落ちていく。
「…はっ!」
意識を取り戻したのか、周りを見渡している。
「また呪剣を勝手に使いましたか。次はないと言ったはずですが?」
フェイリアが、暴れていた女性に手をかざそうとすると…剣たちが魔法で意識を伝えてくる。
『ま、待て!今回は俺たちが勝手にやった事だ』
『そうだ、姐さんは悪くねえ!』
『消すならまず、俺たちだ』
なぜか庇おうとする剣。
「はあ…シルヴィア、あなたは何故呪われた品に愛されているのか…」
「よく分からないのですが、私が装備すると居心地が良いようです」
『それもあるが、俺たちをマトモな目的に使おうと努力してくれる所を気に入ったのさ』
「ではなぜ暴走していたのですか」
『今日は、俺たちが勝手に意識を乗っ取って、呪剣制御のテストをしてたんだ。最後は止まっただろう?』
この暴れていた女性、シルヴィアは呪いの品と縁がある。
呪剣いわく、普通の者に使われると、一日中走って汗だくの状態と同じくらいの気持ち悪さで…
シルヴィアが装備すると、大浴場を貸し切りにしてのんびりしている状態のようなものだという。
「何か変わったようには見えませんが」
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品名:皆殺しの呪剣
特性:
<呪い> 攻撃力二倍、ただし狂戦士と化す
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為なら何でもする
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品名:昏睡の呪剣
特性:
<呪い> 攻撃力二倍、ただしランダム間隔で深い眠りへ落ちる
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為なら何でもする
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品名:怨念の呪剣
特性:
<呪い> 攻撃力二倍、ただし常に耐えがたい激痛を伴う
<一蓮托生> 【武器破壊無効】付与 装備者の意思で外せない
<通話> 自身の意識を他者へ伝えられる
<誓い> シルヴィアの為なら何でもする
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『まず俺の効果で狂戦士化する。誰でも斬りかかる状態だ』
『斬りかかったら…昏睡のやつが姐さんを寝かして止める』
『そして怨念のやつが、激痛を倍増して痛みで覚醒させる』
『すると、制御出来て攻撃力八倍…』
『『『完璧だろう』』』
「頭が痛くなってきました…」
ゲームでは、シルヴィア編で呪い装備を集めるイベントがあります。
呪剣を呪剣で強化したり…最終的に凄いことになります。
作中でもそのうちやる予定ですが、劇でリアルな敵役として登場します。