11.電波を飛ばす女と生死を分かつもの
今回はメインシナリオの話がでてきますが、これは今の時点ではただの電波です。
盛りだくさんの一日が終わり、各々が休息をとり朝を迎える。
しかし、新たな朝ものんびり過ごす事は出来ないようだ。
【迷いの森】では混乱を極めた事態になっていた。
魔女の住居で朝を迎えたパペット三人組だが…
いつの間にか戻っていた魔女の様子が変なのだ。
「皆さん、大変です!フィーリちゃんが居なくなりました!」
「「「誰…?」」」
一度も聞いた事のない名前を話すのだ。
「あ、えっと…フィーリちゃんは、皆さんが言う魔女の子です」
「いや、魔女はあんただろ。どういうことだ?姉妹とかか?」
クエラセルは混乱している。
「何も聞いていないのですか?」
「一応名乗りますが、私はグレイス=フレイリア…能力は"ない"、人間族です」
「分かりやすく言えば、普段はフィーリちゃんが私の体を使っています」
特に何も聞かされていない三人は話を聞く事しか出来ないでいる。
「今までも居なくなる時があって…その後帰ってくると酷くボロボロになっているんです」
「今回もきっとそう…なので、少しでも助けてあげたいんです」
「どうやったら、居なくなったというのが分かるの?」
まずは現状を知らないとどうにも出来ないと考えたリコラディアが情報を集めようとする。
「あの子が居ないときはルアちゃんが居て、ルアちゃんに探してきてもらうのですが」
「ルアちゃんがラウダの中のフォスレから居場所を探してきて、それがデファクトとして再構成出来ないとき居ないと分かります」
「あー、うん、なんていうか、わたし無理かも」
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違う意味で混乱が起きている所もあった。
「バカ…!この…バカ…!」
語彙が貧相になってしまっているのは、植物研究者のドワだ。
壁に頭を叩きつけようとして我に返る…を繰り返し、踊っているように見える。
ここはイスカ領にある研究棟で、ドワはここで働いているのだ。
隣にイスカ領主、ロークスが座っている。
「どうしてこんな事になっているのです!」
テーブルの上にある、半分に切られた果実を指差す。
「どうした、落ち着くんだドワ。あの森で貰った果実を君にも届けようと…」
困惑しているのはロークスだ。
この二人は長い付き合いなのだが、その中で一度も見た事が無いほど怒り狂うドワを前にして怯んでいる。
「淡い光を放つ果物が、普通の物じゃない事くらい分かるでしょう!」
「それを…保護もかけず鞄に入れて歩き回った後、常温放置だったなんて!」
「しかも使用済みの安物ナイフで切りましたね…!」
「どうして…どうして…ああぁぁぁ!」
ドワは別のテーブルをバンバン叩いている。
彼は毎日ろくに寝る暇もなく各地を飛び回らされた時代でも、"さすがに大変ですね"と苦笑いするだけで済んでいる大物だ。
他の研究員も、ここまで激昂させる何かを知りたがって集まってくる。
「…ギャラリーも居る事です、皆さんにも分かりやすいよう、全力の鑑定結果を見せてあげましょう」
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品名:ベチュラの碧光果実 Lv165
特徴:生食可、毒性なし。とても上品な甘さ。自然に実る事はない。
用途:回復薬(Lv600以下の状態異常全解除、体力全回復、命属性+5)
産地:デス・ヘリックス(特異個体)
特記:
<常温放置> 回復量低下
<傷物> 状態異常解除レベル半減・回復量半減
<酸化> 状態異常解除レベル半減・回復量半減
<種無し> 命属性追加なし
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「「「「ああぁぁぁ!」」」」
ギャラリーの研究員が全員激昂ドワになる。
この研究所は植物性医療薬の研究も行っているため、研究員は植物・薬品両方の高度な知識を持つ。
そんな者がこの状態を見ると、顔に家畜の糞を塗られるよりも屈辱的だという。
「ロークス、あなたに分かりやすいよう解説してあげます」
「お気に入りの水彩画があったはずです、確かニンフとセイレーンが手を繋いで踊っている」
「ああ、浜辺の饗宴というもので、もはや金品での取引は絶望的なものだ」
「…至近距離でクシャミをぶつけた者が居たとしたら?」
「処刑制度が出来る可能性がある」
「あなたのやった事はそれと同じなのですよ…!」
ドワが、"連れていけ"と指示すると、研究員は息の合った動きでロークスを押さえつけていく。
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一方、難を逃れたフラックは、常連のギルドショップまで足を運んでいた。
ギルドショップというのは、冒険者向けの品をメインに販売している場所だ。
特定のギルドでなく、ギルド所属していれば誰でも利用できる。
通常の店と違い、特定種族に対応する毒薬などピンポイントな物まである。
また、信用できる素材取引窓口もあるのだが、ここで手に入れた実を売却しようというのだ。
「よう、マーカ。今日は珍しい物を持ってきたぞ」
「あらー?"邪蛇の瞳"でも見つけたのかしら?」
「ある意味、そんな感じだな」
「また大きく出たわねぇ」
常連らしく、窓口のゆるい雰囲気の女性と親しげに喋る。
邪蛇の瞳というのは、最近人気の読み物で出てくる伝説のアイテムだ。
「これなんだが」
フラックが丁重に保護してあるベチュラの実を出すと、女性が笑顔のまま固まる。
手で、こっちの部屋に来い、というサインを出す。
「…いくら必要でしょうか」
ゆるい雰囲気は演技のようで、冷たく突き刺すような真剣な表情になる。
さすがのフラックも、全く別人の雰囲気にちょっと不意を突かれている。
実はこの女性、このショップの鑑定系では一番の実力者である。
「金より物が欲しくてね。それも即決でだ。」
「この前鑑定アイテムをまとめ買いしただろう?あれと同じものを百個でどうだ」
「本当に凄まじい物を持ってくるとはね…今日は負けたわ」
暫く沈黙したが、フラックが譲らないことを悟ると降参する。
実は魔女に「それとあのアイテム百個なら楽に交渉できるから」と入れ知恵されているからなのだが。
ゲームでは画廊やイベントなどで水彩画などの絵が買えるのですが、意味ありげな説明の割にはすべて用途無しという罠シリーズです。
このゲーム、イベントまであるのに用途無しのフェイク品が結構あります。
しかも浜辺の饗宴はものすごく苦戦するイベントクリアの後大金を積まないと買えません。