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98.危険地帯で散歩するだけのお仕事

本日の舞台は、危険極まりない【バーティカル火山】である。

パペット三人組と、"同行者"のディーテ一行がここに挑むのだ。

依頼の報酬が高い地域であるが、万全の状態でもあまり挑みたくない地域だ。


まずは、お互いに実力を見たいという意見が一致したのだが…

初回はディーテに丁度良さそうな依頼の選択を任せた所、

高難度依頼の束を持ってきてしまった為、危険地帯に強制参加だ。

討伐依頼も含まれており、Lv180という数値まで見える。


「これらは私達のストレス解消用なので、こちらをどうぞ」


おかしなレベルの依頼を、軽い運動をするようなノリで言い切るディーテ。

少し安心した一行だったが、渡された依頼書はとんでもない物であった。


■一つ目

・【デス・ヘリックス】一体の討伐

 →金骸鳥の爪と180,000アグラ

■二つ目

・【フレイム・ランナー】三体の討伐

 →140,000アグラ

■三つ目

・【漆黒樹皮】劣化無しを一つ納品

 →650,000アグラ

■四つ目

・【蜥蜴の炎鱗】劣化無しを三つ納品

 →400,000アグラ


########

種族:デス・ヘリックス Lv165

技能:

 <毒霧> 全体補助魔法 Lv110 【毒】付与

 <岩の雨> 土属性全体魔法 Lv45 【防御無視】【ダメージ二倍】

 <猛毒化> 全体補助魔法 Lv150 【毒】のレベルとダメージを上昇する

 <生命吸収> 単体物理攻撃 Lv100 対象の動きを封じ、体力とマナ吸収

 <毒強化> 自身が付与した【毒】のレベルとダメージを上昇する

########

種族:フレイム・ランナー Lv120

技能:

 <突進> 単体物理攻撃 Lv130

 <蹴り> 単体物理攻撃 Lv90 【麻痺】付与

 <炎鱗> 火属性ダメージ半減、物理攻撃に火属性ダメージ追加

 <速度強化> 命中、回避が上昇する

 <当たり屋> 戦闘中に乱入した場合、突進で先制攻撃する

########


「「「ええ…」」」

「素材の方は、討伐対象に水と氷属性を使わなければ手に入れる事が出来ますよ」


思わぬ形で死を感じる事になってしまった三人組。

ただでさえ無理のある相手なのだが、依頼の為には弱点を使う事すら許されない。

もし逃げ出せば、かなり背伸びした上で複数依頼放棄なので、信頼は地に墜ちる。

やるしかないという状態だ。


三人組が絶望している頃、ディーテは依頼書を地面に置き、仲間に見せている。

二十体程の様々な生物がそれを眺め、各自で選んでいるようだ。


「クッ、クッ、キー!」

「ゲゲッ!グカー!」


鳥のような生物が、依頼書の一つを見た後、もう一体を挑発している。

何を言っているのかは分からないが、実に人っぽい動きをする。

「お前には無理だから他のやつにしろ」と言っているように見える。

羽を使い、器用にシッシッとしているのだ。


「どうしたんだ?喧嘩か?」

「ああ、これはいつもの事で、お互いに煽り合って闘争心を高めているらしいです」

「こんな危険な所で、それは危なくないか?」

「大丈夫ですよ。本当に危ない時は真面目にやってくれるので」


話していると、先程言い争っていた二体が、何かを言った後飛んでいく。


「今回は、どちらが早く狩れるかの勝負になったようです」

「単独でか…?」

「そういう子達なので…」


ディーテの育成と管理は、出来るだけやりたいようにさせる方針である。

主従関係とはいっても、お互い納得の上で成り立っている。

制限が厳しすぎると、メリットが薄くなり関係を切る者も出てくる。

この問題を解消するための対応の一つである。


飛び立っていった二体以外は大人しく待っており、指示待ちのようだ。


「では、突撃!」

「「「ウオオォォォ!」」」


ディーテの指示が出た途端、咆哮を上げ、各自バラバラに走り去っていく。

纏まって行動するものだと思っていた三人組は、呆気にとられる。


「さて、それではこの子をお願いしますね」

「…!」

「早く先輩達のように強くなりたいみたいで、やる気満々ですよ」


予め紹介されていたホーリー・ナイトが、三人組と合流する。

依頼書を見せると一瞬固まったが、剣を構え、自身を鼓舞する。

金属兜にしか見えない生物だが、感情は存在し、恐怖もあるようだ。


「私は後ろから離れて着いて行くので、予想外の事態は任せてください」

「あ、ああ…」


不安たっぷりの中、三人組と一体のパーティは進行を開始する。





「か、隠れろ…!」

「何なのアレ…巨大な杭みたいな物を持って…」

「一瞬でミンチにされる事だけは分かります」


当然色々な生物が生息しているので、それらを掻い潜って依頼達成しなければいけない。

戦うかやり過ごすかの判断も重要である。

ホーリー・ナイトは指示に従うようで、一緒に身を隠している。


大型生物をやり過ごした先で、討伐対象の一体を発見する。

依頼書に付いていたイラストの通り、細長い木のような生物で、蔓が這っている。


「あれだな。デス・ヘリックスだ」


外見的には、同じデス・ヘリックスであるベチュラとは全く違う。

色も白っぽく、枯れて色が抜けてしまったようにさえ見える。


「「「「…」」」」


発見したは良いが、足が進まない。

今回は装備を持ち込み、全員毒対策しているのだが、自身の倍はあるレベルの相手である。

しかも、手間取れば他の生物にも襲われてしまう。

足が止まるのは自然な事である。


ふと後ろを見ると、遠くに居るディーテが、強く指差しを繰り返す。

スパルタ教育からは逃げられない運命のようだ。


「…こうなったらスピード勝負だ。相手が毒に頼っている間に仕留めるぞ!」

「ちょっと不安だけど、新しい魔法も試してみるわ!」

「ボクは周囲を観察しながら補助します」


方針が決まった所で、クエラセルとホーリー・ナイトが突撃する。

それを残りの二人が追いかける布陣だ。


「食らえ!」

「…!」


バキッ!

ミシミシミシ…


「何だ…?簡単に折れてしまったぞ」


まずは先頭の二人が同時に斬りかかったが、様子見で木の部分が折れる。

蔓の部分にも動きは無く、実に拍子抜けである。


「な、何か魔法が来るわ!でも、どこから!?」

「近くに生物らしきものは居ません…!」


魔力が練られる気配を感じたリコラディアだったが、分かったのはそこまでだ。

妨害しようにも相手がどこに居るか分からず、既に間に合わない。


ブワァ…


謎の魔法によって、辺り一面に灰色の霧のようなものがかかる。


「これは…毒だ!デス・ヘリックスの攻撃だ!」

「でも、本体らしきものは、どこにも…」


一行は姿の見えない敵に苦戦するが、ふと思い出した事がある。


「「「まさか…地面?」」」


ベチュラの生態を少し知っている三人組は、根が本体ではないかと予測を付けた。


「ちょっと試させて。サンダー・レイン!」


ドドドドド…


リコラディアの新作魔法により、木の部分周囲の地面がめくられる。

すると、ほぼ無傷で太い根が現れ、可能性を信じるしかなくなってしまった。


「恐らく予想は当たったが、どうするか」

「この辺り一帯を吹き飛ばすマナなんて無いわ…」


頭を抱える二人を尻目に、グリンは根に向かい、いつものようにマナ吸収を行う。


「このままマナを吸い尽くせば、倒せるんじゃないでしょうか」

「成程な、これは防ぎようがない」

「もし倒せなくても、魔法は使えなくなる訳ね」


少し希望が見えてきた所で、ホーリー・ナイトが剣を構える。

何故か慌てた様子である。


「ん?どうした…」


クエラセルが言い掛け、正面を見ると、何かが走ってくる影が確認できる。


「正体は分からんが、何かが来る!マナ吸収しつつサポートしてくれ!」

「分かりました!」


毒霧で視界が良くない中、クエラセルとホーリー・ナイトが前に出る。

しかし…


「ギュィィィィ!」


ドガァ!


「お、おい!大丈夫か!」


想像以上に凄まじい速度で激突してきた生物。

これによって、ホーリー・ナイトは大きく吹き飛ばされる。

金属質の体で光を反射するため、目立ってしまったようだ。


「俺が相手だ!こっちを見ろ!」


ザクッ!ガキッ!


クエラセルが意識を逸らせようと斬り掛かり、その姿を同時に確認する。


「こいつは…フレイム・ランナーだ…」


楽勝の相手であれば手間が省けたと言うものだが、明らかな格上である。

しかも、フレイム・ランナーは大抵小規模の群れで移動する個体だ。

先程の雷によって、縄張りを荒らされたと思い駆け付けて来たのだ。


「ギュアァ…」

「ギュイー…」


しかし、何やら様子がおかしい。

遅れて駆け付けた別個体も、動きを止め、様子を窺っている。


「そ、そうか!こいつらは毒耐性が無いから、ダメージを受けているんだ!」

「それなら今の内ね!ロック・スタンプ!」

「回復!」


吹き飛ばされたホーリー・ナイトも、回復を受けて起き上がり、再度前に出る。

思ってもみない事だが、毒霧をダメージ源として利用しつつ、畳み掛ける。


「サンダー・シール!纏めて属性剣を受けてみろ!」

「合わせて、サンダー・レイン!」


息の合った連携で、そこそこのダメージを与える。

折角良い感じで進みそうな所だが、ここで異変が起こる。


ボコッ!ボコッ!


「な、何だ…?」


周囲には、デス・ヘリックスの木部分が生え始めていた。

かなりのペースで、既にフレイム・ランナーごと囲まれている。


「ギュ!?ギュイー!ギ…」


蔓の部分が、弱り始めたフレイム・ランナーを捕らえた。

これがデス・ヘリックスの捕食であり、生物から直接エネルギーを奪うのだ。

中々に警戒心が高く、弱った獲物の不意を突いて捕食する。


「毒霧が濃くなった…?どうやら本気のようだ」

「今のうちにデス・ヘリックスにダメージを与えれば全部倒せるんじゃ?」

「むしろ、それしか手は無さそうですね…」


一行はフレイム・ランナーを完全無視し、デス・ヘリックスの根へダメージを与える事にした。


「表面を斬った後、サンダー・シールでどうだ!」

「一応火も試しておかないと…ファイア・ボム!」

「"激ウマ麻痺水"…これ効くんですかね」





「皆さん、頑張ってますね!良い調子ですよ!」


暫く戦いを繰り広げていると、ディーテが現れる。

フレイム・ランナーが来た時に居なかった理由を問いたかったが、それどころではない。


「フレイム・ランナーはどうにか出来そうだが、これは無理があるぞ」


クエラセルは足元を指差す。

勿論、デス・ヘリックスの事を差している。


「それなんですけど、別に完全に倒さなくても良いんですよ?」

「「「えっ?」」」

「依頼書に付いていたイラストは、どんな感じでしたか?」

「どんなって…木のような…」

「はい、それは倒しましたよね?依頼完了です!」

「「「ええ…」」」


対象の情報が正確でない場合、依頼の不備となる。

今回は根についての情報が一切無かったため、依頼完了となるのだ。

ギルド協定にある事項なので、依頼人も文句は付けられない。


「根は私達がやっておきますから、フレイム・ランナーを倒しちゃってください」

「あ、ああ…分かった」





強化された毒にやられたフレイム・ランナーは虫の息で、特に苦戦する事は無かった。

目的の品を回収し、黒爪へ戻って来た。


「お疲れさまでした!良い訓練になりましたか?」

「結果的にはそうだが…毎回これでは命が足りないぞ」

「このギルドでは、強くなるまでそんなものですよ。私もそうでした」


ディーテはホーリー・ナイトを抱え上げる。


「この子も、他人とのパーティ戦を経験出来て良かったと言ってます」

「それは何よりだな。機会があったらまた頼む」


一行はすぐ側のカウンターで報酬を受け取る。

ディーテの受け取った報酬がとんでもない事になっていたが…

更に驚くべきは、"仲間"が個々に達成した依頼の報酬である。

実は育成がかなり進み、もはや本人は働かなくても良い状態になってしまっている。


ただ、適度に仲間を"散歩"させないとストレスが溜まるので、出歩いている。

依頼を使って、飽きさせないように工夫しているようだ。

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