シーン3-2
「神様。」
帰り道、横を歩いてくれている神様にそう話しかける。
「ん?どうかした?」
「ちょっと、お願いがあって……」
「いいよ。なんでも言って?」
やっぱり、神様は優しい。
だから……
「うん……ボクに料理を教えてくれない?」
少しでも、神様を手伝おうと思った。
でも、なんのスキルもないボクにできることは少ない。
だから、一つずつ教わっていくしかないんだ。
授業中、ノートに『練習したいこと』を書いた。
その中身は、神様にも秘密。
だって、勢いで色々書いちゃってて、恥ずかしいから。
「……うん。わかった。」
少し間を開けた後、神様はそう答える。
そうだよね。教えるのは面倒だよね。
でも、いつまでも依存しっぱなしじゃ嫌なんだよ。
神様にふさわしい女性になりたいんだ。
「でも、どうして急に?」
「……恥ずかしくて、言えない。」
こんなこと、言えるわけない。
「そっか。」
神様はそれ以上追求しないで、そう返事をくれる。
その気遣いが、暖かい。
「じゃあ、今日の夜から練習してみようか。まあ、みぃは器用だからすぐ上手くなるよ。」
「うん。頑張る。」
神様と、練習。
それがとっても嬉しくて、思わず神様の手をにぎってしまう。
「そんなに楽しみなの?」
「うん。神様と一緒だから。」
「そっか。」
この言葉すら、恥ずかしく感じる。
小さい頃はこれくらい恥ずかしくもなかったのに。
「うん。一緒がいい。」
でも、ちゃんと言葉にする。
神様、ボクがこんなこと言うのは、あなただけなんだよ?
だから、これからもずっと……
「でもさ、みぃもいつかは恋人ができるんだよね。」
「なんで、そんなに悲しそうなの?」
ボクに、恋人ができてほしくないの?
それは、神様がボクのことを想ってくれているから?
それとも、ボクが邪魔だから?
「わからないよ。気のせいじゃないかな?」
「そんなわけ、ない。ずっと一緒にいたんだから、それくらい、わかるよ。」
そんなの、わかっちゃうんだよ。
神様以外のはわからなくても、神様のだけは、わかっちゃうんだよ。
昔からそう。大事なことは言ってくれないで、一人きりになってる。
ボクばっかり助けられて、神様を助けられていない。
「みぃも、彼氏とか、他に頼れる人を作りなよ。僕たちは、ずっと一緒にいれるわけじゃないんだからさ。」
心が、締め付けられる。
「な、なんで……?」
ずっと一緒になんかいたくないって言われたみたいで、苦しい。
「それはそうだよ。みぃだって、僕以外に頼れる人を作らないと。」
だめっ!それ以上言わないで!!
他の人なんかいらないのに、ただ、神様さえいてくれたらそれでいいのに。
「いつかは、誰かと結婚するだろうしさ」
そんなの、あるわけないよ。
ボクには、神様しかいないんだ。
だから、やめて!ボクが迷惑なら、もっと頑張るから!
迷惑かけないようにするから、ただ、近くにいて!
「そうなったら、こんな関係もなくなるんだし。」
神様が、涙でぼやける。
やっぱり、ボク、迷惑だったのかな?
ずっと頼りっきりで、神様も疲れたのかな?嫌になったのかな?
「……神様、どうして?」
頑張って、言葉を絞り出す。
何か嫌なことがあるなら、それを直すから。
なんでもするから。
「どうして……」
繋いでいた手が離される。
バイバイ。
そんな言葉が、聞こえた気がした。
「っ!!」
もう、これ以上なにかを聞きたくなくて。
ボクは、何処かへ消えてしまいたくって。
ただ、逃げるように走り出した。