愛しい者と、大切な者と
諸事情により、投稿が遅れてしまいました。誠に申し訳ございませんm(_ _)m
ひふみのことを考えるだけが、俺の全てだった。
……ただ、それだけで生きてきた。
ーーはずなのに、いざ他の女の子から優しい言葉を掛けられると、一瞬自分の本心を忘れてしまう。
忘れてしまえる。
その瞬間がまた心地いいと感じていることに、俺は己の不甲斐なさを自覚する他ないのだ。
「ねえ? 聞いてないでしょ? あたしだって君に聞いて欲しい話のネタくらい持ってるんだからね」
「聞いてる。聞いてるってば。たつみが彼女連れて来たんだろ」
ベッドの中で2人寄り添って天井の模様を見つめていると、左側のヨミから頬を軽くつねられる。
たつみとは、彼女の弟のことだ。
ほんの2ヶ月程前に高校生へと進化した弟が、つい先日、ヨミと弟の家に他人の女の子を連れて来たらしい。
詳しく話を聞いてみれば、その他人と何か特別な衝突があった訳ではないと言う。
「…でも、何だか嫌なのよ。あるでしょ? 相手に非はなくても、受容し難い物事って」
「そうだな」
一言だけ返すと、隣からチクチクとした視線を感じる。
…なんだよ。面倒になって返事した訳ではなく、ちゃんと肯定の意を込めたってのに。
「俺だって、姉貴が俺より年下の彼氏を連れてきた時には、肝を冷やしたぞ」
あの時とうに成人を済ませていた姉貴。相手は俺の2つ下で18歳だった。しかも早生まれ。
今となっては、親戚関係や年齢の縛りなど超越してしまっているが。
意固地になってお義兄さんと呼ばない宣言をした俺を、普段とは印象の違う白くて綺麗な衣装で着飾った姉貴は、仕方ないなと呆れながらもはにかんでいたっけ。
それがネタとなり、その場の披露宴は盛り上がった。挙句、二次会にまで引っ張り出してこられて清々したことまで同時に思い出す。
「あなたのお姉さんは良いじゃない。幸せそうだもの。ちゃんと幸せになってるんだもの」
ふくれっ面で先に起き上がり、寝室を出て行ってしまったヨミ。
後ろ姿の程良い肉付きと曲線が視界に入って、朝の気温に怯んでいた欲がムクムクと英気を取り戻して行くのが分かった。
「…さて、俺も準備をするか」
欲に浸り掛けた思考を、頭を振って切り替える。
今日これから俺は、一生のうちでただ1人の愛しい者へ会いに行くのだ。
「はい。今日は会いに行くんでしょ?」
リビングに出てきた俺を見つけて手渡してきた物を、俺は彼女の悲愴と一緒に受け取って、彼女の作った朝食に手を付けた。
ーーーー電車の揺れにつられて、俺を支える吊革が前後左右に揺れる。
慣性の法則に従った体は、停車音と共に重力に引っ張られて軽くよろめいた。
胸元に有する物を抱え直して降車すると、駅を出てまっすぐ目的の場所へ歩き出す。
着いたのは、ある1つの寺。
その奥に続く石が敷き詰められた道を一歩、また一歩と心の底から湧き上がる情を吐き出して確実に進んで行く。
角を曲がった先、2、3、4と数えて目的の物体を目の前にし、その前に置かれた小さな容器にヨミから渡された物をさした。
先に誰かが来ていることが窺える物体の綺麗さに感謝して、俺はライターで火を点けわざと窪んでいる箇所にそれを供える。
そして、来る最中に寄った店で買ったチョコレートを半分割って供えると、手を合わせて暫く思考に耽った。
ーーーー帰り道。行きしなに寄った店で新しく買ったコーヒーを持って、駅のホームベンチに腰を下ろしゆっくりする。
さっき割った残り半分のチョコレートを取り出し、少し溶けたそれを貪り食った。
口の周りについた汚れを袖の端で拭いながら、同時に目元の水分も拭き取る。
あの物体は、ひふみだ。ひふみの現在があの物体へ集約されているのだ。
彼女の大好きなチョコレートを分け合いながら、俺は彼女の生きた証を敬った。
試しに読んでくださった方も、ブクマしてくださってる方も、ツイートから飛んできてくださった方も、読了ありがとうございます。
遅れてやって来たバレンタイン……とかではないですm(_ _)m
思い付く言葉を並べただけの、特に意味のない話でございます。
読みに来てくださり、ありがとうございました!
それでは、またの機会まで。