井上綾香
3ヶ月。
病院の放火事件から3ヶ月が経った。
俺は何故か全焼した病院の所で倒れていたらしく、現場に来た救急員により救助された。
全焼した病院に勤めていた父親は、下半身マヒという後遺症が残ったもの、今もしっかりとリハビリに励みながら生きている。
俺がなんで全焼した病院にいたのかは、どういうわけか全く記憶にない。
色々と話を聞いた限りだと、俺は燃え上がる病院へと走って行ったらしい。
病院に着くと、俺は何やら一人で会話を始めて、急に倒れた。
そう聞いた。
なんで俺があそこで倒れたのか、誰にも分からない。
何かあったとしか思えないが、その時の記憶も情報も無いから、真実の求めようがない。
でも、なんでだろう。
なんか心にポッカリと穴が空いた気がする。
楽しいことがあっても、どこか満たされない。
「はぁー………」
俺は溜め息を吐き、自分の席から窓を通して空を見た。
いい天気だ。
俺は頭の傷を撫でながら、そう思った。
頭には数針のキズがある。
なにか硬い物で殴られてできたキズらしい。
最初は頭に包帯を巻いたまま学校に行ったりと違和感があったが、今は包帯も取れて特に気にはしてない。
ちなみに、このキズがなんでできたのかも知らない。
このキズが記憶喪失と何か繋がりがあるとも言われたが、今ではどうでもいい。
医者には、すぐ思い出すでしょう、と言われたのに、欠落した記憶が戻る気配もない。
確かに記憶が定かじゃなかったり、足りなかったりすると、とても不安になるが、もう大丈夫だ。
今は今で充分に楽しいし、欠落した記憶を知りたいとも思わない。
あ、でも、一つだけ知りたいことがある。
心に空いた穴だ。
その正体が何なのか知りたい。
「ふぁあ~」
俺はあくびをしながら、グッと背伸びをした。
その時、視線を感じた。
廊下の方からか?
視線が気になった俺は、背伸びをやめて、廊下の方を見た。
すると教室の入り口に女子が立っていた。
見たことのない女子だ。
女子は背がちょっと低め、綺麗な肌をしている。
そして髪は背中まである黒のストレート。
「………?」
その女子は明らかに俺を見ていた。
でも、俺を見るその目は不思議だ。
なんていうか、どこも見てないって感じだ。
……ああ、分かった。
アレは虚ろな目だ。
その女子は俺に静かに近付いてきて、突然に自己紹介をしてきた。
「初めまして!私、井上綾香!」
その女子は、とびっきりの笑顔をしていた。




