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殺人音  作者: 鳳仙花
7/8

オカルト

「何を言ってるんだ?綾香は確かに今、こうして生きてるじゃないか。それにもしそうだとしても、お父さんが何故、綾香を殺さなきゃならないんだよ?」


俺の口調が自然と強くなる。


「光のお父さんが私を殺したのは、普通と言えるし当然とも言えるの」


「は?どういうことだよ?」


綾香は目をちょっとだけ細め、俯いた。


「私、実は中絶された赤ちゃんなの。手術したのが光のお父さん」


「え……?中……絶……?」


中絶された赤ちゃん……だって?

はぁ!?

そんな馬鹿な話があるものか!

いや、でもそうだとしたら綾香の話のつじつまが合う気がする。

でも、いくらなんでも有り得ない!

目の前にいる綾香は、実は生きてない?

クソっ、それに中絶って言ったら………!


「………まさか、綾香。お前、変死事件で死んだ井上綾香の子供なのか?」


「え?う、うん」


綾香は俯きながらも頷いた。

そう、綾香は認めたんだ。

待て待て待て!

よく思い出せ、俺!

変死した井上綾香は中絶じゃなく、事故で赤ちゃんを亡くしたはずだ。

つまり綾香は嘘を言ってるのか?

それとも俺にはまだ知らない事実でもあるのか?

一体、綾香は何者なんだ。


「それに実は私、光も殺す気でいたの」


「え?」


体中にゾッと寒気がした。

全く冗談に聞こえないせいだろう。


「私を殺した人の子供が、無事に生まれて裕福な暮らしをしたのが許せなかったの。でも………」


「な、なんだよ?」


俺は尻餅を着きながらも、わずかに後退りをする。

本能的に、綾香から危険を察知したからだ。


「光、私のことを好きって言ってくれた」


「…………」


「本心かどうかは分からないけど、大好きって言ってくれた。それが嬉しかったの。生きることを親すらに拒否された私の存在を、光は愛してくれた。それがどんなに凄くて輝かしいことか、光には分からないだろうけど、私はそれで心は救われた」


確かに俺にはイマイチ分からない。

だけど、本心で綾香が好きなのは分かる。


「綾香………」


俺は綾香をそっと抱きしめてやった。

今の綾香はあまりにも悲しすぎて、見てられなくなったのだ。

その時だ。

腹から強い痛みが感じ、温かくなっていく。


「あや……か?」


俺は腹を手で押さえ、その場でうずくまった。

いてぇ………、なんで俺は腹が痛いんだ?


自分の腹部を見ると、真っ赤だった。

腹から血が溢れ、服が血を吸って広がっているのだ。

地面にも血が垂れていってる。

綾香の手にはガラスの破片。

あれで俺を刺したのか。

ずいぶんと思いっきりやりやがったな。


「綾香……なんで……」


視界がかすむ。

でも綾香が泣いてるのは、しっかりと見れた。


「ごめん、光。私………もう井上綾香としてはいれない。消えなくてはないらないの。未練のない私がこの世界いても、ただの浮遊霊。だから……」


「なんだよ……!最後に俺を殺してスッキリするのか…!」


腹の痛みをこらえながら、俺は恐怖を隠すように怒鳴りつけた。


「怖がらないで、光。私は光を殺さない。これは嘘じゃない。そう約束してもいい」


「じゃあ何で刺すんだよ……!?」


「私の存在を光から消し去るため。いずれ光は無意識に私との記憶を封じ込めようとする。忘れようとする」


「………」


そんな簡単に記憶を忘れれるとは思えない。

いや、忘れたくない。

綾香と一緒にいた瞬間を、一秒も忘れたくなんかない。


「ねぇ、最後に………聴いてくれる?私のやったこと」


「…………あぁ」


痛みに苦しみながらも、静かに俺は頷いた。

綾香は俺に顔を近づけ、静かに話を始めた。


「変死事件。アレは私達がやったの」


「私……達?」


「そう、私達。さすがに私がどんなに相手を憎んでいても、幽霊が人を殺すのは不可能なことなの。でも、集合体なら直接に手は下せなくても、実は殺すことは可能なの」


「他に誰がいるんだよ…!?」


もう既に、俺の体の感覚は失ってきていた。

血の流し過ぎか、酷く混乱しているせいか。


「……私と同じ、中絶で死んだ胎児たち。その中でも、特にこの世界に産まれて生きたかった者の怨念が、変死事件を起こしたの。でも私達がやったのは、光の知っている変死事件だけじゃない。他にも沢山あるの」


綾香は俺の腹の傷にそっと触れてきた。


「っ!」


強い痛みが走る。

綾香は真っ赤になった指先を、小さな舌で軽く舐めた。


「でも変死事件とかを起こすには、きっかけが必要なの」


「きっかけ?」


「うん。それが殺人音」


「……!」


アレがきっかけだったのか。

なるほど。

どおりで抹殺対象では無い普通の奴が視聴しても、何も起こらないわけだ。

今までの怪奇現象も、殺人音を視聴してからだからな。

色々と納得がいく部分が出てくる。


「だから今も、対象者は殺人音を視聴して、死ぬ者が増えているかもしれない。……でも、結局殺しても意味がないのかな。どう頑張っても、私達が生きてられるわけじゃないから」


綾香は空を仰いだ。


「ごめんね、光。光のお父さんを殺しちゃって。そうしなければ私は成仏はできなかったけど、許してくれるわけないよね」


「……」


何か言葉をかけてやろうと思ったが、もう声もちゃんと出せないほどに俺は弱っていた。


「光、お別れだね」


綾香は近くにあったガレキを、重そうに両手で持ち上げた。


「光が私を忘れなければ、私は心の無い生きた幽霊として、この世界に縛られてしまうの。だから私のために私を忘れて?」


そう言いながらも、泣いていた。

俺も綾香も。

くそっ、バカ綾香。

お前がこんなことをしよう思わなければ、もっと長い間一緒に居れただろうに……!

馬鹿だ、綾香の馬鹿!

こんなに好きになった奴を、忘れれるわけ無いだろうが。


「親に否定された私を愛してくれてありがとう、光」


違う。

お前の親は、お前を否定なんかしていない。

むしろ産んでやりたがっていた。

あの謝罪を見れば分かる。

綾香、お前は勘違いをしてる。

綾香……。

そうして絢香は凶器を振り下ろし、同時に俺の意識が完全に途絶えた。

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