オカルト
「何を言ってるんだ?綾香は確かに今、こうして生きてるじゃないか。それにもしそうだとしても、お父さんが何故、綾香を殺さなきゃならないんだよ?」
俺の口調が自然と強くなる。
「光のお父さんが私を殺したのは、普通と言えるし当然とも言えるの」
「は?どういうことだよ?」
綾香は目をちょっとだけ細め、俯いた。
「私、実は中絶された赤ちゃんなの。手術したのが光のお父さん」
「え……?中……絶……?」
中絶された赤ちゃん……だって?
はぁ!?
そんな馬鹿な話があるものか!
いや、でもそうだとしたら綾香の話のつじつまが合う気がする。
でも、いくらなんでも有り得ない!
目の前にいる綾香は、実は生きてない?
クソっ、それに中絶って言ったら………!
「………まさか、綾香。お前、変死事件で死んだ井上綾香の子供なのか?」
「え?う、うん」
綾香は俯きながらも頷いた。
そう、綾香は認めたんだ。
待て待て待て!
よく思い出せ、俺!
変死した井上綾香は中絶じゃなく、事故で赤ちゃんを亡くしたはずだ。
つまり綾香は嘘を言ってるのか?
それとも俺にはまだ知らない事実でもあるのか?
一体、綾香は何者なんだ。
「それに実は私、光も殺す気でいたの」
「え?」
体中にゾッと寒気がした。
全く冗談に聞こえないせいだろう。
「私を殺した人の子供が、無事に生まれて裕福な暮らしをしたのが許せなかったの。でも………」
「な、なんだよ?」
俺は尻餅を着きながらも、わずかに後退りをする。
本能的に、綾香から危険を察知したからだ。
「光、私のことを好きって言ってくれた」
「…………」
「本心かどうかは分からないけど、大好きって言ってくれた。それが嬉しかったの。生きることを親すらに拒否された私の存在を、光は愛してくれた。それがどんなに凄くて輝かしいことか、光には分からないだろうけど、私はそれで心は救われた」
確かに俺にはイマイチ分からない。
だけど、本心で綾香が好きなのは分かる。
「綾香………」
俺は綾香をそっと抱きしめてやった。
今の綾香はあまりにも悲しすぎて、見てられなくなったのだ。
その時だ。
腹から強い痛みが感じ、温かくなっていく。
「あや……か?」
俺は腹を手で押さえ、その場でうずくまった。
いてぇ………、なんで俺は腹が痛いんだ?
自分の腹部を見ると、真っ赤だった。
腹から血が溢れ、服が血を吸って広がっているのだ。
地面にも血が垂れていってる。
綾香の手にはガラスの破片。
あれで俺を刺したのか。
ずいぶんと思いっきりやりやがったな。
「綾香……なんで……」
視界がかすむ。
でも綾香が泣いてるのは、しっかりと見れた。
「ごめん、光。私………もう井上綾香としてはいれない。消えなくてはないらないの。未練のない私がこの世界いても、ただの浮遊霊。だから……」
「なんだよ……!最後に俺を殺してスッキリするのか…!」
腹の痛みをこらえながら、俺は恐怖を隠すように怒鳴りつけた。
「怖がらないで、光。私は光を殺さない。これは嘘じゃない。そう約束してもいい」
「じゃあ何で刺すんだよ……!?」
「私の存在を光から消し去るため。いずれ光は無意識に私との記憶を封じ込めようとする。忘れようとする」
「………」
そんな簡単に記憶を忘れれるとは思えない。
いや、忘れたくない。
綾香と一緒にいた瞬間を、一秒も忘れたくなんかない。
「ねぇ、最後に………聴いてくれる?私のやったこと」
「…………あぁ」
痛みに苦しみながらも、静かに俺は頷いた。
綾香は俺に顔を近づけ、静かに話を始めた。
「変死事件。アレは私達がやったの」
「私……達?」
「そう、私達。さすがに私がどんなに相手を憎んでいても、幽霊が人を殺すのは不可能なことなの。でも、集合体なら直接に手は下せなくても、実は殺すことは可能なの」
「他に誰がいるんだよ…!?」
もう既に、俺の体の感覚は失ってきていた。
血の流し過ぎか、酷く混乱しているせいか。
「……私と同じ、中絶で死んだ胎児たち。その中でも、特にこの世界に産まれて生きたかった者の怨念が、変死事件を起こしたの。でも私達がやったのは、光の知っている変死事件だけじゃない。他にも沢山あるの」
綾香は俺の腹の傷にそっと触れてきた。
「っ!」
強い痛みが走る。
綾香は真っ赤になった指先を、小さな舌で軽く舐めた。
「でも変死事件とかを起こすには、きっかけが必要なの」
「きっかけ?」
「うん。それが殺人音」
「……!」
アレがきっかけだったのか。
なるほど。
どおりで抹殺対象では無い普通の奴が視聴しても、何も起こらないわけだ。
今までの怪奇現象も、殺人音を視聴してからだからな。
色々と納得がいく部分が出てくる。
「だから今も、対象者は殺人音を視聴して、死ぬ者が増えているかもしれない。……でも、結局殺しても意味がないのかな。どう頑張っても、私達が生きてられるわけじゃないから」
綾香は空を仰いだ。
「ごめんね、光。光のお父さんを殺しちゃって。そうしなければ私は成仏はできなかったけど、許してくれるわけないよね」
「……」
何か言葉をかけてやろうと思ったが、もう声もちゃんと出せないほどに俺は弱っていた。
「光、お別れだね」
綾香は近くにあったガレキを、重そうに両手で持ち上げた。
「光が私を忘れなければ、私は心の無い生きた幽霊として、この世界に縛られてしまうの。だから私のために私を忘れて?」
そう言いながらも、泣いていた。
俺も綾香も。
くそっ、バカ綾香。
お前がこんなことをしよう思わなければ、もっと長い間一緒に居れただろうに……!
馬鹿だ、綾香の馬鹿!
こんなに好きになった奴を、忘れれるわけ無いだろうが。
「親に否定された私を愛してくれてありがとう、光」
違う。
お前の親は、お前を否定なんかしていない。
むしろ産んでやりたがっていた。
あの謝罪を見れば分かる。
綾香、お前は勘違いをしてる。
綾香……。
そうして絢香は凶器を振り下ろし、同時に俺の意識が完全に途絶えた。




