表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人音  作者: 鳳仙花
6/8

病院

「光……!光!」


暗闇の中、誰かが俺の名前を呼んでいるのが聴こえた。

この声は、俺の親友の井上綾香だ。

俺はゆっくりと目を開けた。

すると濁った空と、綾香の顔が見えた。

ここはどこだ?

寒いな。

空が見えるってことは外か?

だとしたらおかしい、俺は教室に居たはずだ。

それにしても変な臭いがするな。

ガソリンと焼き焦げたような臭い。

状況を確認しようと俺は体を起こして、周りを見渡した。

だが、俺には状況を把握することはできなかった。


……なんだ?

これは……?

一体どういう状況なんだ!?


「うわぁぁぁああ!!?」


俺はパニックに陥った。

目の前には死体、死体、死体……!!

体の一部分だけがあったり、炭のようになった人が地面に転がったりしている。

中にはゾンビのように呻き声を上げている人もいた。

周りは黒く廃墟になっている。


「なんだよこれ!?何で俺はここにいるんだよ!?」


「光、覚えてないの?光がここまで走って来たんだよ?」


見てみると、綾香の目は虚ろになっていた。

しかし今の俺には、いちいちそんなことなど気にしてられない。


「俺がここにやってきた!?はぁ!?一体どこなんだよ、ここは!?」


綾香は、俺の様子と周りなど一切気にしてないように、淡々と静かに答えた。


「東陽病院。今は爆発したりして、焼けてなくなってるけどね」


「俺のお父さんの病院!?爆発!?ますますワケが分からねえ!!」


俺は頭を手で押さえ、冷静に思い出してみた。

そうだ、確かに俺は気を失う前に父親の病院が爆発では無いが、燃えたのを見た。

でも、ここに来た記憶は無い。

じゃあ、俺は無意識にここに来たってことか!?

くそ、やっぱり何が何だか理解できない!


「……お父さん!お父さんは!?」


俺は父親の安否が気になった。

周りを見渡す。

だけど父親の姿は見当たらない。


「綾香、俺のお父さん……って言って分かるか?」


「うん、分かるよ。ちょっと老け顔だけど、体格ががっちりした人でしょ?検診を受けたことあるから分かるよ」


「そうか。で、俺の父親を見なかったか?」


「見なかった」


綾香はハッキリと、そう言った。

そう答えられると予想はついていたが、そこまでハッキリ言われると辛かった。

その時、フッと変なことに気が付いた。

なんで綾香がここにいる?

それにガソリンの臭いは綾香からだ。

まさか綾香、お前………。


「綾香。お前なんでここにいるんだよ?用事はどうしたんだ」


「用事?まだ終わってないけど、凄い音したからここに来たの」


綾香はそう答えたが、俺は納得しない。

昼のときはビビって聞けなかったが、今なら尋ねられる。


「なぁ綾香。用事って何だ?」


「なんで気にするの?それより、今は光のお父さんを探さなきゃ……」


「はぐらかすなよ」


「………」


俺が少し冷たく言うと、綾香は無表情になった。

そして虚ろな目を見開きながら、綾香は顔を近づけてきた。


「なんで?」


綾香がポツリと呟いた。

不思議と空気が重くなっていく。


「なんで今聞くの?こんな状況なんだよ?」


「それに答えたら、綾香も俺の質問に答えてくれるか?」


「………」


綾香は頷かない。

それどころか微動だにしない。

しかし俺は、綾香が了承したと勝手に解釈し、綾香の質問に偽りなく答えることにした。


「お前の用事ってのを聞けば、この病院が燃えた原因が分かると思ったからだ」


「なにそれ?まるで私が病院に放火したみたいな言い方だね」


「俺はそう思ってる」


「……ヒドい」


綾香はそう呟き、突然、顔を見せないように俯いた。

すると綾香から嗚咽が聴こえてくる。


「……っ、うぅ………ヒドすぎるよ、光……」


さすがに今のは完全に失言だったと、俺は後悔した。

誰だって、犯罪者扱いされれば気分が害されるものだ。

綾香のように、繊細な奴なら尚更傷つくだろう……。

俺は優しく綾香の肩を掴み、静かに謝罪の言葉をかける。


「綾香、かなり酷い言っちまったな。ゴメン、謝る。でも、教えてくれ。俺の思い込みかもしれないんだ。それに綾香がそんなことをしてないって思いたいんだ。だって俺、綾香が好きだから……」


そう言うと、綾香は嗚咽止めるが、泣きじゃくった声で質問してきた。


「光、私のこと好きなの?」


そう聞かれると、俺は恥ずかしくなったが、ハッキリと言った。

今は全くそんな場合じゃないが、別にいい。

愛の告白だ。


「あ、ああ。異性として大好きだ!」


つい声が大きくなってしまった。

自分でも思うぐらい、俺って不謹慎だな。

綾香は涙で濡れた顔をフッとあげて見せた。

虚ろな目は相変わらずだ。


「私も、大好きだよ。だから………ごめんね」


「なんで謝るんだよ…」


俺の胸の内が痛くなる。


「光の予想通り、私が放火したの」


震えた声で綾香は確かに言った。

正直、怒鳴りつけてやりたかったが、答えやすくするために俺は優しく質問した。


「なんで放火したんだ?」


「…………」


「綾香?」


綾香は黙り込んでしまった。

言おうか言わないか、迷っている様子だ。


「綾香、言ってくれ。別に怒らないから」


「ううん、そうじゃないの。理由を言っても、信じるとは思えないから」


「場合によるが、綾香の言うことは何でも信じるぜ」


「……本当に?嘘じゃないよね?」


綾香は顔を少しだけ近づけてくる。

俺はあまりにも顔が近く感じたので顔を逸らしかけるが、視線を逸らさずに見つめた。


「ああ、嘘じゃない」


「………じゃあ、言うね。だから怒らないで最後まで聞いてね」


「分かった」


一拍間を空けて、綾香は今にも消えてしまいそうな声で語り始めた。


「病院を放火したのはね、思い知らせるためなの」


「思い知らせる?誰に?」


「沢山いるんだけど、一番は光のお父さんかな」


「俺のお父さん、綾香に何かしたのか?」


「うん、したよ。凄い酷いことを私にした」


「………一体何を?」


「私を殺した」


「は?」


綾香の理解不能な発言により、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ