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殺人音  作者: 鳳仙花
4/8

不可解な歪み

気持ちの良い日光に照らされて、俺は目が覚めた。

だが、気分はあまり良くない。

完全に夢のせいだ。

夢に出てきた井上綾香と呼ばれた女性、父親と同じ名前の白衣の男。

もはやただの夢とは思えない。

きっと、この夢は殺人音と何らかの関係がある。

根拠はないが、直感的に分かる。

井上綾香と呼ばれた女性はおそらく、変死した井上綾香だ。

そして父親と同じ名前の白衣の男。

顔は見えなかったが、あれは間違いなく俺の父親だ。

じゃあ、俺の父親も殺人音に関係してるってことになるのか。

…分からない。

俺の思考が安直すぎる気もするし、この直感的な感覚を信じるべき不安になる。


それから俺はいつものように支度し、オーソドックスな朝食をとった。

毎日同じような朝食なのに、よく飽きないのものだ。

自分で自分に感心する。

食べても飽きないぐらい母親の料理を美味しいってことかもしれないが……。

朝食を終えると、俺は出かける前に父親に一応言っといた。


「お父さん、忘れないでよ」


「ん?ああ、変死のことか。分かってる。お昼過ぎにはメールで伝えるからな」


約束を忘れかけていた父親は思い出したようなので、俺は一安心して家から出た。

今日も天気がいい。

だがアスファルトの地面には水たまりが、あちらこちらと沢山できている。

昨日、大雨だったからなあ。

俺は水たまりを避けながら学校へ向かった。

今日はいつもと同じ時間だから、昨日みたく校門で綾香に出会うことはないだろう。


「光、おっはよー!」


意表を突かれた挨拶に俺は驚く。


「あ、綾香!?」


つい俺は慌てて振り返る。

すると綾香が元気そうに立っていた。

朝はたいていテンションが低い奴なんだが……。

いや、昨日も朝からテンションが高かったか。


「綾香、今日は遅いんだな」


今、綾香と会った所は通学路だ。

普段の綾香なら、今の時間には教室にいるはずだった。


「うん、ちょっと準備に手間取っちゃって……」


綾香が『あははは』と手をひらひらさせながら言った。

だが綾香は突然笑顔をやめて、俺の顔をじぃっと見つめてきた。


「な、なんだよ?」


俺は照れて、思わず目線を逸らした。

普通に恥ずかしい。

しばらく綾香は俺の顔を見つめると、優しい笑顔に戻った。


「よかった。今日は元気みたいだね」


「え?」


もしかして心配してくれていたのか?

………なんか照れるな。

綾香の笑顔に、なんとなく俺も笑顔で返した。

その後、俺と綾香はいつものように学校に登校し、授業を受けた。

今日は昨日みたいな頭痛と目眩はない。

これならお昼にくる父親のメールをちゃんと見れそうだ。


そして待ちに待ったお昼。

俺は綾香と一緒に弁当を食べていた。

今更なのだが、いつも俺と綾香は、昼食を一緒に食べている気がする。

もちろん、たまに他の友達と一緒に昼食を食べる時があるけどな。


「綾香の手作りどれかなーっと」


俺は箸を手に、綾香の弁当のおかずを見た。

どれも冷凍食品っぽいが、絶対に一つは綾香の手作りが一つは入ってるのだ。

その手作りおかずを当てて奪い食べるのが、ひそかな楽しみだ。

あ、これだな。

サトイモを煮た物だ。

これだけ明らかに冷凍食品じゃない。


「んん~?これかな」


「あ……ぅ」


俺はわざとらしく言いながら、箸でひょいっとサトイモを取った。

そして自分の口の中に放り込む。

柔くて味が濃く、甘い。

ってか、おかず取られることに抵抗しないんだな。


「うむ、おいしいぞ」


俺は自然と綾香の頭を撫でようとしたが、周りに人がいるからやめた。

見られたら恥ずかしい。

……って、ん?

メールが着てる。

父親からだ。

俺は携帯を手に取り、メールを開いた。

内容は井上綾香と志田誠司の変死についてだ。


『井上綾香と志田誠司、急患として東陽病院に運ばれる。病院到着時には意識不明、呼吸停止、外傷は鼓膜の破損。

精密検査すると両名共、脳の形が一般と比べて大きく変形していたことが発覚。この症状に似たものがあるもの、前例がなく正確な病名は不明。

病院到着から10分後、両名心拍停止。蘇生法をするが、反応なし。それから30分後、午前11時25分に両名の死亡が確認された。

井上綾香は過去に中絶の手術を受けている。しかし志田誠司は男性のため、今回の症状と中絶は関係無いと思われる。

二人は愛人関係。そのため何かのトラブル、または喧嘩があったと思われたが、両名の鼓膜破損に繋がるトラブルがあったとは考えづらい。

検死の結果、両名の脳の一部が潰れていて、複数の骨折があることが発覚。(精密検査のときには脳に傷、骨折は全く見あたらなかった。又、再度資料を確認しても検査時には無かったと断言できる)

以上、骨折などがあるため何らかの傷害によるショック死と断定された。これは殺害事件と扱われたが、まだ犯人の特定にはつながっていない。

病院に運ばれる前のことを周りから聞くと、いきなり頭を押さえて叫び始めたらしい。そのあとに気絶。両名共、薬の服用はない』


メールを見たが、殺人音との繋がりは見つけられなかった。

だけど、気になったことが一つある。

井上綾香の中絶だ。

夢の中でも井上綾香の中絶らしき話があった。

じゃあ、あの夢は………。


「ねぇ、光」


「ん?」


俺が長い間を携帯電話を見ていたせいか、綾香は俺を呼びかけてきた。


「何ずっと携帯を見てるの?食事中だよ?」


「あ、あぁ。行儀が悪かったな……」


なんだか、食事中に見るようなメールじゃなかったな。

父親に念押しに言っといてなんだが、お昼に送ってもらうよう頼むべきじゃなかった。


「メール?誰から?もしかして彼女?」


「ばっ、ばか!何言ってんだよ!だいたい俺に彼女なんていないの知ってるだろ!?」


「焦ってるぅ。あははは」


綾香は無邪気に笑った。


「くっ……」


ヤバい。

よく分からないが、今は綾香の方が上手だ。

これ以上からかわれる前に、全てを話すのが最善だな。


「お父さんからだよ。前にあった近くでの変死事件についてな」


「変死事件?………ああ、アレね。一時期、大きく取り上げられていたね。でもなんでそんな事件を気にするの?」


「何となくだよ」


「何となく?おかしくない?」


俺の返事に綾香が疑問を持つことが理解できない。


「何がおかしいんだよ?」


「だって光、異常なくらい事件とかに興味持たないもん。この地域で起きた連続通り魔事件だって気にしないくらいなんだから」


連続通り魔事件?

………そんな事件、結構前にあった気もする。

確かに一切興味とかは持たなかった。

でも綾香がそこまで確信を持って、俺が事件に興味を持たないという理由までにはならないはずだ。


「最近、社会に関心が出てきたんだよ。だから変死とか不思議な事件に興味を持ったんだ」


気が付いたら綾香の目は虚ろだった。

光りが無く、死んだ目。

昨日の帰り道に、綾香が見せた目と全く同じだ。


「ふーん、じゃあ三日前に起きた傷害強盗事件知ってる?」


「そうなのか?……あぁ、いや聞いたことあるな」


「…ふぅん?そんな事件なかったのに聞いたことあるんだ」


まずい。

つい気軽に言ったが、完全に失言だった。

引っ掛けられた。


「本当はまだ社会に興味ないんでしょ?変死事件を気にしてるのは殺人音に関係してると思うから……、違う?」


「なっ!?」


まるで心の中を見透かされたようだった。

いくらなんでも綾香の勘は的中しすぎだ。

驚いてる俺に向けて、綾香はクスクスと冷たい微笑みを浮かべながら、そっと呟いてきた。


「図星なんだね」


嫌な寒気がする。

だいたいなんで綾香はこんなに俺を問い詰めてくるんだ。


「なんでだよ?なんで綾香はそんなに気にしてくるんだよ!?何をしようが思おうが、俺の勝手だろ!?」


「じゃあ何で光は私に嘘をつくの?」


「嘘?」


「変死事件、興味があるから調べてるって言ったよね?でも本当は殺人音との関連性を求めて調べてるじゃない」


「そ、それは綾香に余計な心配をさせたくなくて……。だって綾香、俺が殺人音を聴くって言ったら、すげぇ心配しただろ。だから…」


「だから?だから嘘を吐いたの?」


綾香は凛として聞いてくる。

俺は何故か気圧されながら、小さく頷いた。


「あ、あぁ」


「へぇ、なら光は優しいんだね。あははは、意外~♪」


綾香が笑い声をあげた時には、普段の笑顔に戻っていた。

まるでさっきの冷たい微笑みと虚ろの目は嘘みたいに。


「でも光」


綾香は箸を置いて、顔をクイッと近づけてきた。

思わず俺は体を硬直させてしまう。


「なんだよ?」


「いくら殺人音が噂と言っても、あまり気にすると体に悪いよ?よく言うでしょ?病は気からって」


「そうだな」


俺は気を取り直して、綾香のサトイモを箸で刺して取った。

そして俺がサトイモを食べようとしたとき、綾香が話かけてくる。


「あと光」


呼ばれたため俺はサトイモを刺した箸を口から遠ざけ、少し投げやりに聞く。


「なんだよ?いい加減、昼食をとらせてくれ」


そもそも食事中にあまり喋るのは好きじゃない。


「あ、ゴメンね」


そう言いながら、綾香の目線はやや下へ向いた。


「サトイモのことか?さっきも言ったがおいしいぜ」


「えへへ、ありがと。でも違うの。サトイモのことじゃないの」


「じゃあ何だよ?」


俺は椅子に背もたれた。

そして綾香は静かに顔をほんの少しだけ上げる。


「嘘、もうつかないでよ?」


その言葉を聞いたとき、また寒気がした。

今の綾香の声はいつもより低く、震えていたのだ。

それは恐怖や寒さに、震えたり怯えたりするような震えじゃない。

あの震え方は、脅しをかけるような声だ。

そして、綾香の悪意的な表情が僅かに垣間見えた。


「…っ!!?」


俺は一瞬とは言え、今の綾香の表情を見て恐怖感を覚えた。

今まで見たことの無い表情。

殺意が込められている鋭い目に、どことなく怒りが感じられる無表情。

なんでそんな顔をするんだ…!


その後、あまり食は進まなかった。

当たり前だ。

ビクビクと恐れながら、食事なんかできるわけがない。

なんで綾香はあんなに俺を怖がらせるんだ?

明らかに綾香はわざとやっている。

なんでだ。

ほんの少し前までは俺を気遣う優しい奴だったのに。

いや、ついさっきだって俺を気遣ってくれたじゃないか。

それなのに、殺したいほど憎い人を見るような目で、俺を見た。

なんでだよ、そんなに俺が嫌いなのかよ?

綾香、なんでなんだ……。


涙が出そうになった。

好きな人に……いや、少なくとも俺が親友だと思っていた人に、あんな目で見られたせいだ。

俺には目だけで分かる。

お前が憎い、と。

もし俺の思い込みなら、そうであってくれ。

最愛の人に嫌われるのは………あまりにも耐え難い苦痛だ。


「………っ」


涙が溢れてきそうになった目を、俺は手で覆いながら下を向いた。

今は、まだ綾香が目の前にいる。

涙を見せて、綾香に変な心配をさせるわけにはいかない。

って、俺はこの期に及んでまだ綾香に気を遣うんだな。

綾香に嫌われているだろうから、俺の心配なんか無意味だろうに。

馬鹿みたいだ。


「光、どうしたの?」


俺の異変に気が付いたのか、綾香が心配の声を掛けてきた。

普段は鈍感なはずのに、最近はやたらと鋭い奴だ。


「あ、ああ。なんでもねえよ」


俺は笑顔で顔を上げた。

目の辺りが涙で濡れてないか心配だ。


「ねぇ、光」


綾香は身を乗り出し、顔を近づけてきた。


「な、なんだよ?」


綾香の目は、まっすぐに俺の目を見ている。

やっぱり、まだ涙で濡れていたのか?


「もしかして泣いてた?目が赤いよ?」


「あ、いや、これは……ちょっと目をこすり過ぎたせいだよ。なんか痒くてな」


「本当に?」


「……!!」


綾香の目が虚ろになった。

文字通り、俺のすぐ目の前で。

俺はとっさに、綾香がさっき言った言葉を思い出す。

『嘘、もうつかないでよ?』

なんてことだ。

ついさっき言われた『警告』なのに、俺はもうその『警告』を無視してしまった。

思わず冷や汗が出そうになる。

教室で、この空間だけ重く冷たいのが分かった。

俺は何とか話をはぐらそうと、別の話題を話そうとした。

だが、意外にも綾香が先に話題を変えた。


「まぁいいや。あ、そういえば私、午後の授業を受けないから」


「は?なんでだよ?」


「用事があるから帰らなきゃいけないの」


綾香は笑顔でそう言った。


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