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殺人音  作者: 鳳仙花
3/8

そして始業の合図であるチャイムが鳴った。

学校の始まりだ。

ああ、面倒くさい。

今日は早く家に帰って、殺人音について調べたいんだ。

HRでは、面白みに欠ける連絡ばかりを担任から知らされただけで、HRはすぐに終わる。

でも、今の俺にはほんの数分でも長く感じてしまう。

一限目は、数学か。

クラス別によるものだから、移動しなきゃな。

俺はそう思い、教科書や筆記用具を手に自分の席から立ち上がった。


「……っ?」


突然、頭に軽い痛みが走り、強い目眩が襲ってきた。

景色が歪み、視界が暗転し始めている。

更に足を少しふらついたが、目眩と頭痛はすぐに治った。

突然なんだ、貧血だろうか。

ただの貧血と思ったので、俺はたいして気にせず、別の教室へと移動した。

しかし問題は一限目が始まってから10分後のことだ。

また頭痛と強い目眩が俺を襲った。


一体なんだ……、さっきより酷い…!


目眩を止めようと俺は頭を手で押さえ、静かに深呼吸を始めた。

だが頭痛と目眩は治まることは無い。

それどころか、逆に強くなってきてる。


「…っく」


俺の見ている光景は完全に歪みきって、チカチカと真っ暗になったり真っ白になったりする。

頭痛はまるで骨を軋ませるような痛みに膨れ上がり、頭の奥が叩かれているように酷く痛む。


「うっ……うぅ!」


頭が割れてしまいそうだ。

痛い痛い痛い痛い。

痛みに悶えているとき、何かが聴こえた。


『…………ァ!!』


これは空気や周りの音じゃない。

この学校では不似合いな声。

泣き声だ。

それも赤ちゃんの泣き声。


『おぎゃー!うんぎゃー!』


意味がわからない、何だ………これは……?


そしてやがて俺は痛みに耐えきれず床へと崩れ落ちて、意識は完全に途絶えてしまった。

何も見えず、何も臭わず、何も感じれない暗闇に呑み込まれる。


それからしばらくして目が覚めると、よくある真っ白な天井が目に映った。

俺はベットの上で寝ており、綾香が俺の顔を覗き込んでいる。


「おはよう光!」


「…綾香、なんでお前いるんだ…?あぁ、それよりどうして俺が寝ているんだか…」


「授業中に倒れたって聞いてびっくりしたよ。どうしたの?」


じゃあ俺は今、保健室で介護されているようなものなのか。

何となく状況を理解して、俺は綾香に話しかける。


「そうか。俺、倒れたのか。その割には特に痛みとかは……。そうだ、綾香、今は何限目だ?」


「授業?もう六限目が始まる頃だよ」


「六限目だって?俺、そんなに長い間気を失っていたのか」


「うん。すっごい心配したんだよ。もう先生とかは、救急車とか呼びそうな勢いだったんだから」


綾香はそっと俺の手を掴んできた。

暖かいが、手を握られて少し恥ずかしい。


それにしてもあの泣き声はなんだったんだろう。

それから俺は六限目も休み、今日の学校生活は終わろうとしていた。

まさか一限目から六限目まで休むとはな。

一日中休むとは何のために学校に来たのか、よく分からない。

ただ代わりに学校の掃除には顔を出して、清掃には励んでいた。


「はぁ……」


俺はホウキを手に、溜め息を吐いた。

その様子を見て心配したのか、綾香が尋ねてきた。


「ため息なんか吐いて、どうしたの?まだ調子が悪いの?」


「いや、何のために学校に来たのかなあ、って思ったら」


「あはは、なるほどね。きっと周りの人たちは、出席を取るために来ただけと思ってるよ」


「別に皆勤賞を狙ってるわけじゃないんだがなぁ」


「まぁ、掃除するために来たと思えば良いと思うよ?」


なにが良いのか分からん。

まったく、これほど一日を無駄にしたと思うのは久々だ。

掃除を終えると、俺はカバンを手に早速と学校から出て行った。

すると綾香も俺の後を追うように、学校から出て来て俺の隣を歩く。

講習など無いときは、いつも綾香と一緒に帰っている。

一種の日課みたいなものだ。


「光、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ」


「あ、そうだ。ねぇ、光。今日、遊びに行っていい?」


あまりにも突然な提案。

思わず俺はドキッとしたが、それとは真逆の反応を見せた。


「は?いきなりどうした?」


「なんか元気ないから、励ましたいなぁって」


そう言われて、正直嬉しかった。

まぁ好きな人に心配されたら、誰だって嬉しいよな。

でも今日は駄目だ。


「それは有り難いけど……。悪い、今日は用事があるから駄目なんだ」


「えぇ?そうなの?」


「ああ、本当に悪いな」


「むぅ…………」


俺がそう断ると、綾香は黙り込んでしまった。

なんか悪いこと言っちまったか?

冷たい風が吹き、夕暮れで景色が真っ赤になってきた。

なんなんだ、この沈黙は。

そう思ったころ、綾香が口を開いた。


「ねぇ、光」


「ん?」


綾香はいつもより冷たい声で、うつむきながら尋ねてきた。


「用事ってなに?もしかして殺人音のこと?」


唐突な言い当てに俺は体を震わす。

女の勘だろうか。

そうだとしたら恐ろしいものだ。


「……ああ、まぁな」


綾香が足を止めたので、自然と俺も合わせて歩くのをやめる。


「ふぅん、まだ気にしてるんだ」


いつもと違う雰囲気が気になり、俺は綾香の方を向いた。

しかし綾香はうつむいたままで、どんな表情をしてるか分からない。


「なんで気にしてるの?あれはただの噂なのに、ふふ…ふふふ……」


なんだ、明らかに綾香の様子がおかしい。

一体何が起きている。


「ねぇ、なんで気にしてるの?」


綾香は問いただしてくる。


「どうしたの?黙っていたら分からないよ?あははは」


なんでコイツはうつむきながら、渇いた笑いをする。

さすがに少し気味が悪い。


「綾香、大丈夫か?」


「なにが?」


「いや、なんて言うか……綾香が別人みたいだなって思って」


「あははは!変なこと言うね、光。私は私。その私が、光の目の前で別人とすり替かわるなんて、ドッペルゲンガーより有り得ない話。目の前ですり替わることができるのはマジシャンだけだよ」


何を言いたいのか、よく分からない。

あまりの戸惑いに俺が黙っていると、綾香は三度聞いてきた。


「それで?何で殺人音を気にしてるの?」


今度は顔をこちらに向けてきた。

その表情はいつも通りの綾香。

けど、目が虚ろだ。

目だけが死んでいる。


「ねぇ?聞いている?」


「……………」


俺はどう答えようかと困り果てるかと、互いに沈黙してしまう。

綾香は俺が答えるのを待っているのだ。

そう分かっているのに、俺は答えない。

だから綾香は虚ろな目で俺を見続ける。

夕日に照らされる風景は赤く、綾香の目も赤く見える。


「悪い、綾香」


俺はポツリと言った。


「実はと言うと、何が気になるのかも分からないんだ。だからお前の問いには、まだ答えられない」


「……分かりづらいけど、私にはなんとなく分かるよ。何が分からないのか分からないんでしょ?うん、分かるよ」


俺の意味不明な言動を、どうやら理解してくれたようだ。

意外に理解力が高い奴だ。


「綾香、行くぞ」


「うん」


俺と綾香は冷たい風に吹かれながらも歩き出した。

それからは他愛もない会話のやりとりをする。

しばらくすると家に着き、俺は振り返って綾香に手を振った。


「じゃあな、綾香」


「うん!また明日ね!」


すると綾香は明るい笑顔で返事してきた。

さっきとは全く様子が違って、いつもの綾香だ。

目も虚ろじゃない。

その様子を見れたおかげで俺は安心し、家に入って行った。

そしてすぐに俺は自分の部屋へ行き、パソコンを起動させて早速ネットに繋ぐ。


「えっと、とりあえず殺人音……掲示板……検索っと」


すると色々なサイトに検索がヒットした。

まぁ、当然と言えば当然か。

俺はしらみつぶしに様々な掲示板を見ていく。

30分ほどそうしていると、体験談に近いことが記された掲示板を見つけた。


「お、やっと発見だな」


俺はクリックして、書き込みを読み始めた。


184:無名さん

(04/05/07-12:07)

殺人音って誰か聴いたことある?


185:ニート

(04/05/07-12:08)

俺視聴したわ


186:名無しに代わ(ry

(04/05/07-12:11)

>>185

嘘乙


187:無名さん

(04/05/07-12:15)

>>185

マジで?

どうだった?


188:ニート

(04/05/07-12:16)

あれ時間の無駄。30分視聴したけど、ずっと画面が真っ暗

しかも何も聞こえん

30分あればアニメまるまる一本見れたのに

糞だ。あのサイト消えろ消えろ消えろ消えろ




これらの書き込みを見て俺は呆然とした。

何も聴こえなかった?

なぜだろうか。

俺は確かに聴いた。

自分の声、そして女の子の笑い声を。

しかしその次の書き込みを見て、俺は更に驚いた。


………………………………………………


241:荒らし

(04/05/08-22:00)

実は殺人音を聴いて死んだ人がいるらしい


242:無名さん

(04/05/08-22:30)

噂だろ


243:荒らし

(04/05/08-22:31)

でも調べたら辻褄が合ってた気がする

井上綾香(28)が急に倒れて、東陽病院で変死

そして志田誠司(31)も急に倒れて、東陽病院で変死だって


244:無名さん

(04/05/08-22:40)

ああ、前ニュースになってたっけ

でも殺人音との繋がりが分からん


245:荒らし

(04/05/08-22:42)

東陽病院で鼓膜破裂。そして解剖したら脳が潰れてたって

完全に怪奇現象だろ。

だから殺人音。


246:無名さん

(04/05/08-22:50)

↑小学生乙www

国語と理論を勉強してこいwwww


………………………………………………


驚いた。

『荒らし』の言ってることは訳が分からないが、殺人音で死んだ人がいるってのは初めて聞いた。

それより驚いたのは、東陽病院だってことだ。

東陽病院は、俺の父親が経営している病院だ。

驚いたのはそれだけじゃない。

井上綾香が変死ってのだ。

よくありそうな名前とは言え、親友の綾香と同姓同名だ。

これは偶然なのだろうか。


………分からない。

とりあえず次はどうするか考えよう。

まずは殺人音の体験談についてだ。

きっと殺人音を他にも聴いた人はいるはずだ。

この『ニート』だけの体験談だけで、結果を出すのはまだ早いから、まだ調べる必要がある。

次は井上綾香と志田誠司の変死についてだ。

これは父親に聞こう。

そうすれば、きっと何か分かるはずだ。

俺は壁に掛けている時計を見上げた。

午後6時。

まだ父親は帰って来ないな。


しばらくして、気が付いたら外は大雨が降っていた。

さっきまで綺麗な夕日のはずだったのに。

俺はカーテンを広げ、外の雨を見えないようにした。

別に雨は嫌いじゃないが、見ていて気が滅入ってしまう。

でも雨の音のおかげで、気に障る外の雑音が聴こえてこないのは良い。


「ふぅ……」


溜め息を吐き、再びパソコンの前に座る。

そして他の体験談を探し始めた。

するとけっこう簡単に殺人音の体験談が沢山見つかる。

しかしどれも同じようなことばかり書かれていた。


視聴しても何も起こらない。


全ての内容がそうだった。

つまり俺以外の人は、笑い声とかが聴こえない。

なぜだ、なんで俺だけ聴こえた?

もしかして………俺は死ぬからか?

そうだとしたら、今日の異常な頭痛や目眩が死ぬ前兆としたら納得できてしまう気もする。

いや、そんな馬鹿なことがありえるのか。

………ただの考えすぎだろうな。


「ただいま」


そう結論を出したとき、父親の声が玄関から聞こえてきた。

俺は一旦パソコンの電源を消して、下の階へ駆け下りた。


「お父さん、お帰り」


見てみると、父親の服は少し濡れていた。

あの大雨は突然だったのだろう。


「あぁ、ただいま」


父親はビニール傘を玄関に置き、靴を脱いだ。

濡れていて不愉快そうな顔を浮かべていたが、構わず俺は単刀直入に話した。


「父さん、お願いがあるんだけど」


「ん、なんだ?」


「あのさ、前にあった井上綾香と志田誠司の変死についてなんだけど……」


すると父親は不思議そうな表情を見せた。

いきなりそんなことを言われたら、当然疑問に思うだろうな。


「変死?……あぁ、そんなこともあったかな。それで、それがどうした?」


「その変死について詳しく聞きたいんだ。その……死に方とか、状況とか、身辺とか……」


「普通はそういうのは言ったらいけないんだが、光がどうしても聞きたいなら世間に公開されていることくらいなら教えれる。でも、どうして知りたいんだ?」


父親の疑問は当たり前のものだ。

正直に言っても笑われるのがオチだと思い、俺は適当にごまかした。


「いや、ただ気になっただけだよ。なんで変死したのかなって」


「そうか。事件とかに関心を持つことはいいことだ」


父親は思ったよりも簡単に納得してくれた。

親バカなのか、ただの子煩悩なのか。

とりあえず父親と俺はリビングへ移動した。


「光、その変死についての話は明日でいいか?」


父親が上着を脱ぎながら、そう尋ねてきた。


「今じゃあ駄目なのか?」


「そういう情報は病院にあるからな。的確な情報を整理して教えた方がいいだろ?だから明日じゃないとな」


できれば今知りたい。

だけど中途半端で正確じゃない可能性のある情報を知ってもしょうがない。


「うん、分かった。できるだけ早く知りたいから、明日お昼ぐらいまでには、メールで教えて欲しい」


「ああ、分かった」


父親は小さく頷いて、ソファにドッと腰を下ろした。

その後、母親もビニール傘を手に帰ってきて、8時ぐらいに夕食となった。

俺は夕食を食べ終えると、お風呂に入って気持ちをリフレッシュさせた。

今日も疲れた。

特に見たいテレビ番組も無いから、さっさと寝てしまおう。

俺は自分のベットに倒れ込み、毛布にくるまってうずくまった。

なんだか今日も早く眠れてしまいそうだ。

俺の予想は的中して目を閉じて数分後、深い眠りにおちていた。

そして今日も夢を見た。

薄暗い白い部屋で、白衣姿の男と私服の女が話している。


「井上綾香さん。酷だと思いますが、生命の安全を考えるなら中絶をお勧めします」


井上綾香と呼ばれた女は、うなだれるように呟いた。


「赤ちゃんが1%でも助かる可能性は無いのですか?」


「………たしかに安産する可能性は無くはないです。ですが、綾香さんの体の状態や赤ちゃんの身体を考えれば、ほぼ間違いなく流産となり、母体である綾香さんも死んでしまう危険性があります。それにあまり言いたくはないのですが、もし生まれたとしても赤ちゃんは障害を持っており、綾香さんが生きてる可能性があるわけでもないのです」


この言葉に井上綾香はゆっくりと顔をあげた。

その顔は涙で濡れている。


「綾香さん。母親のいない人生など、我が子に歩ませたくないでしょう?赤ちゃんをその手で抱き締めてあげたいでしょう?そのために今は諦めるしか無いのです。医者の立場として言えるのはそれだけです」


「あぁ……………」


井上綾香は再びうなだれた。

しばらくの沈黙の間、白衣姿の男が静かに尋ねた。


「井上綾香さん、よろしいですね?」


この男の質問に対して女が言う。


「……はい」


その時、男の胸に付けているネームプレートがかすかに見えた。


『東陽涼太』


それは紛れもなく俺の父親の名前だった。


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