学校
それから朝。
強い日差しが俺の顔を照らし、自然と目が覚めた。
とりあえず朝の習慣として、目覚まし時計に目をやる。
「久々に目覚まし時計より早く起きたな…」
設定しているアラームまで、まだ時間がある。
だが不思議と、もう一度寝る気にはなれない。
昨日、夕食前に眠ったことによる二度寝のせいだろう。
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れた。
昨日の殺人音のことを、ついつい思い出してしまう。
それにしても変な夢だった。
何だったんだろう、アレは。
女が綾香に似ていたのが気になる。
もしかして未来の綾香とか?
………いや、まさかな。
俺に未来予知なんて、できるワケがない。
どうせできるなら、もっと近い未来を見たいものだ。
「よっと」
俺はベットから降り、学校へ登校するための支度を始めた。
顔を洗い、身支度を整え、朝食を取る。
朝食はいつも一家団欒だ。
一家団欒と言っても、医者の父と主婦の母の三人家族だ。
だから食卓にはすぐに家族が揃う。
ちなみに朝食はいつもお吸い物、白米、煮物、目玉焼き、とオーソドックスだ。
「お、今日は早いな、光」
父親が笑顔でそう言ってきた。
だが俺は朝だからということもあったせいで、つい無愛想に返事してしまう。
「ああ、お父さんか。おはよう」
「……どうした?気分が悪いのか?」
妙な所で洞察力が高い父親だ。
さすが医者、とでも言うべきだろうか。
「いや、昨日早く寝たせいでな。ちょっと頭痛が」
「お、きっと難病だな。お父さんが診てやろうか?」
俺はご飯を口の中に運んでから、父親の冗談交じりの誘いを断った。
「何言ってるんだよ。そこまでする必要ないよ」
すると母親がきつめの口調で注意してきた。
「食べながら喋らない」
「う…………」
注意されたときって、自分が悪いと分かっていても、気分が悪くなるものだな。
そんなことを思いながら箸を進めた。
「ごちそうさま」
朝食を終えた後、俺は近くに置いたカバンを手に取り、玄関でシューズを履く。
「行ってきます」
俺は呟くように言い、外へ出かけた。
今日は風が穏やかで、晴れていて良い天気だ。
さて、早めに学校へ行って綾香を驚かすとするかな。
そう思ってスキップするように学校に向かって行った。
そんなことをしていると、校門に着いたころ、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、光じゃん!おはよう!」
この声は綾香だ。
俺は声がしてきた綾香の方へ向き、いつものような態度で挨拶を返した。
「おはよう」
「今日は早いね」
「早く目が覚めちまったからな。あ、そういえば殺人音のことだけどよ」
殺人音という単語を口にしたとき、綾香の目が一瞬だけ虚ろになったように見えた。
その僅かとも言える異様な反応に、俺は思わず数秒近く呆けた。
だから綾香は促す言葉をかけてくる。
「で、どうだったの?」
「あ、ああ………それでな」
口調や表情は普段の綾香だ。
さっきの目は気のせいだったのか?
そんな疑問を持ちながら、俺と綾香で歩く足と話を進めた。
「一言で言えば、奇妙だった」
「奇妙?」
「俺の言ったことが、そのままパソコンから聴こえてくるんだ」
「なにそれ?」
「俺にだってよく分からねえよ。で、その後、女の子の笑い声が聴こえてきた」
玄関を通ってげた箱に着き、俺と綾香は上靴を手に取る。
「外からじゃなく?」
「いや、間違いなくパソコンからだ。そして白くて小さな手が………」
俺は言葉を止め、何となく綾香の手に視線を移した。
すると綾香は俺の顔を覗き込むように、首を傾げてきた。
「どうしたの?」
「いや、別になんでもない」
特に根拠はないのだけど、綾香の手はあの小さな手が似ていた気がする。
……そんなワケがないか。
夢のせいか、妙な意識のし過ぎだな。
俺は気を取り直し、上靴に履き替えて、さっきの話を続けた。
「そして小さな手が画面に出てきて、パソコンの電源が切れた」
「パソコンの電源が?なんで?」
「さぁな。ちょうどパソコンの接続でも悪くなったのかな」
学校の三階にある教室に向かい、俺と綾香は長めの階段を上り始める。
「それで大丈夫だったの?」
綾香が心配そうな顔で聞いてきた。
たまにみせる細い目からの綺麗な瞳。
綾香のこういう表情って、見ていて可愛いと思ってしまう。
「ああ、何ともなかった」
「良かったぁ」
今度は綾香が笑顔の表情になった。
この表情も、見ていて可愛い。
そう思ってしまうのは、明らかに惚れているせいだ。
「じゃあ、殺人音を聴いたら死ぬってのはただの噂だったんだね」
「あぁ、そうだな」
………本当にそうなのだろうか。
確かに俺は死ななかったし、誰かが死んだとも聞いたことはない。
でもあの夢、殺人音とは無関係とは不思議と思えない。
それにそもそも、すぐに死なないだけかもしれない。
自分の声がそのままパソコンから聴こえたり、パソコンの電源が突然消える不思議な現象は、普通に考えてありえるだろうか。
俺の勝手で狭い観点で言えば、ありえるワケがない。
そんなことを考えている俺の顔を見て、綾香は尋ねてきた。
「どうしたの?難しい顔をして?」
「……あ、いや何でもねえよ」
「なんか光、今日は変だね。もしかしてまだ寝ぼけてるの?」
「あはは、そうかもな」
俺は適当に会話を交わしながらも、あることを考えていた。
今日家に帰ったら、殺人音を聴いた人の体験談をネットで調べてみよう。
確か前に流し目で見たことがある。
有益になりそうなものはなかった記憶だが、今だったら何かが分かるのかもしれない。




