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追憶の時計  作者: 猫平
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頼もしき助っ人


帰り道、俺は煌太、和泉、摂津、越智の5人、つまりいつものメンバーで帰路に着いた。


「あ、そういえばさ、みんなは部活って決めてんの?」


煌太の唐突な発言にみんなはかぶりを振る。


「そういう煌太君は決めたの?」


越智が切り返すと、煌太は少し得意げになった。


「へへっまあな。教えないけど。」


わざと焦らすかのようなその言い方は正直止めて欲しい。気になるから、ではなく全く気にならなくて可哀想になるからなのだが。


「分かった、帰宅部だな?なら心配するな、少なくとも俺は同じだ。」


「そうそう、学校が終わるとすぐに家に帰って学習をする学生の鏡である帰宅部に…って馬鹿!そんなわけなかろう!」


キレよく返ってきたノリツッコミに四人は苦笑した。


「それで、河合君は何の部活に入ろうと思ってるの?」


明らかに聞いて欲しそうにしている煌太の意を()み、和泉が優しく微笑みながら問いかける。


「よくぞ、聞いてくれた!聞いて驚け!俺はオカルト研究会に入ることにした。」


一斉の沈黙。少なくとも俺の脳内にはそんな名前の部活は存在しなかったはずだ。


「今部員はいなくて今年入部者がいなければ廃部になるんだと。あわよくばプライベートスペースの確保にもなる。」


煌太は俺の疑問をあらかじめ知っていたかのように説明を加えてくれた。


「へえ…まあお前自体オカルトみたいなものだしな。よくよく自分を見つめ直すといい。」


俺が返した軽口に、煌太は心外そうな顔をした後、楽しそうな表情に変わった。


「何を言ってるんだ遥翔?お前も入るんだぞ?」


「ハァ!?」


突然の意味不明な発言に、思わず素っ頓狂な声が上がる。こんな変人と一緒にそんな得体の知れない部活に入るだなんて冗談もいいところだ。


「でも…よくよく考えると追憶の時計だってオカルトと無関係ではないかもね…よし!僕も入るよ!」


おい越智。お前は絶対騙されている。この件は時計なんて関係なく煌太の趣味に違いない。


「各務君に河合君に越智君も入るなら私もそうしようかな。」


「あ、いいね。小春が入るんなら私もそーしよ。」


和泉、摂津、頼むからこれ以上話をややこしくするな。どうぞどうぞとかなりたくないから。


「そーかそーか。で?遥翔はどうするのかな?」


くそこいつ、ここで断ったら俺が浮くことを分かった上で聞いてやがる。腹立たしいことこの上ない。俺は思わず盛大なため息をついた。


「ハァ…わかったよ、入ればいいんだろ?どうせ拒否権なんてなさそうだ。」


「分かればよろしい。」


満足そうに鼻を鳴らした煌太に対して、反射的に皮肉が喉まで出かかったが、それが口から出ることはなかった。俺は横からの会話の侵入者に目を向ける。


「煌太じゃないか、珍しいな。通学路で会うなんて。」


筋肉がついているのが服の上からでもわかる肉体、短めに切られたスポーツ刈りの髪、そんな体育会系の容姿に関わらず人の良さそうな顔。始めて見る顔だが、不思議と頼もしく見える。


「ん?おお!親分!奇遇だねぇこんなところで。」


煌太の呼びかけに、親分とやらは第一印象に違わず人の良さそうな笑みを浮かべた。


「まあ放課後に特に予定があるわけではないからな。そちらはお友達?」


親分は後ろにいた俺たちに目を向けながら言った。煌太が頷いたのを確認すると、彼は腰を折ってお辞儀した。


「これはこれは、話に割って入って悪かったな。D組の森川猛(もりかわたける)。みんなからは親分って呼ばれてる。よろしくな。」


相手の自己紹介を聞き、大方自分の推測が正しかったことを確認すると、俺は親分こと森川に手を差し出した。


「煌太の友じ…いや違うな。腐れ縁の各務遥翔だ。こちらこそよろしくな、親分。」


初対面の相手からいきなりあだ名で呼ばれた経験はなかったのだろうか、少し恥ずかしげに頬をかくと、握手に応じた。


後ろのみんなも含めて自己紹介が終わると、煌太が本題を切り出した。


「実は明日会いに行こうと思っててさ。親分も時計拾ったんでしょ?」


「ん?あぁ、あの懐中時計のことか。なんで知ってるの?」


親分は首を傾げて俺を見た。


「あぁ、もしかして君も拾っちゃったクチか。10人いるって言ってたもんなぁ…」


各務と森川、二人の保持者の視線が交錯する。お互いに相手の奥底を見透かさんと精神を尖らせて。


「俺に協力して欲しい…ってことか?10人を集めようってのか。過去に還るために。」


森川が目を細め、放った言葉のあまりの正確さに、俺は目を剥いた。どうやらこの男、筋肉の割に頭の回転もかなり早いようである。


「話が早くて助かる。その通りだ。俺は時計を持つ10人を探している。どうか協力をお願いしたい。」


親分は単刀直入に切り出した俺を、値踏みするかのように()めつけると、嘆息とも溜息ともとれる息を吐き出した。


「ノーとは…言えねえな。頼まれてるのはこっちだってのに、言葉には有無を言わせないような強い力がある。さすが煌太と長らく付き合えるだけはある。」


「ねえねえ親分?さすがってどういう意味かな?」


隣でうすら笑いを浮かべながら抗議する煌太をまるで気づいていないかのようにスルーすると、親分は俺の前に立った。


「お前にはお前の過去、俺には俺の過去がある。あくまでお互いのために、な。よろしく、遥翔。」


いきなりの呼び捨てであったが、馴れ馴れしいと(しゃく)にさわることはなかった。不思議と好意を受け入れさせてしまう、そんなところも彼の魅力の一つなのだろう。


ー有無を言わせないのはどっちなんだか。


俺は心の中で苦笑を浮かべた。


シリアスな話はそこまでだった。その後は駅までいつものメンバー+親分の6人で駄弁(だべ)りながら帰った。和泉や摂津と話しながら鼻の下を伸ばしていた親分を見て、俺は第一印象を返せ、と思った。

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