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海の墓よりボトルメール

 ボトルメール。

 雄大な海を彷徨い、いつか誰かの手元にたどり着くランダムメールだ。

 あて先は不要、誰に届くかも不明ではあるのだが、それが魅力でもある。

 僕の住む町、〇〇市民なら一度は誰もが書いて海に流したことがあるくらいポピュラーなメールでもある。

 そして、僕は今ボトルメールに書いている。

 この夏に一人の少女と体験した、世にも奇妙な出来事を。

 これを読む人が信じるかどうか今の僕にはわからないが、それでも僕は誰かにこのことを伝えたかったのかもしれない。

 ボトルメールによって、起きた荒唐無稽な夏の日の出来事を。



 その日はうだる様な夏の日であり、僕からすれば中学最後の夏休みの最終日でもあった。

 一か月ばかりの休息の最後の日、僕は地元の海へと訪れていた。海辺には僕と同じように来た学生らしき子供たちが遊んでいた。

 押し寄せては消える波を見て、砂で遊び、時折海へと入り、体を冷やす。

 まさに、夏休み最後の日を堪能していた僕であったが、あの日は今にして思えば、なんだか変だったような気がする、何と言えばいいのか。

 あの日の海は意志を持っているかのように思えたのだ。押し寄せる波は荒れ狂い、砂浜もじりじりと焦がされるように熱く、そして海水は温水のように暖かい。

 別に猛暑の日といえばそれまでなのだが、だがもう一つだけ変化はあった。

 海辺にボトルメールが落ちていたのだ。

 ボトルメール。

 地元では珍しくもないランダムメールだ。僕も小学生の頃、今から数年前に実際に書いたことがあった。だから、別にボトルメール自体は珍しくはないのだ。

 でも、そのボトルは見たことも無いほどにキラキラして見えた。口にはコルクで封をされており、昔ながらのボトルメールとでも言えばいいのか、最近のではなかったのだ。それに安物では無く高価なものだ。

だから、僕は期待した。もしかして、この中にはお宝の地図でも入っているのではないかいと、馬鹿な妄想もした。

 中を開けると、そこには、一通の手紙が四つ折りにされて入っていた。手紙が少しばかり日に焼けたのか変色していたが、破れてはいない。だが、途中で切り取られており、半分ほどの大きさしかない。


【海の墓より】


 そう、最初に書かれていた。中身は、昔の字なのか読みづらくはあったが、なんとか読めた。


【海の墓より君を待つ】


 よく意味がわからないが、とりあえず、僕はその日の夜。親が寝静まってから夜の海へと向かった。

 夜の海は、昼間の海とは異なり少し異質であった。

 波の音しか聞こえず、人の声は無い。それに風の音が聞こえてくるだけであった。月明りにより、真っ暗ではないから、遠くのほうまで良く見えた。

 シュノーケルと水中用電燈を用いて、海を探索する。時折、魚たちが泳いでいるがどれものんびりと進んでいく。どうやら、寝ているようだ。そして、辺りを見るも何も見つからない。

 帰ろうかな。

 そう思い、海辺へと戻ろうとするも、なかなか戻れない。

 波が急に荒れ始め、海水は僕の熱を奪っていく。手足が波に引っ張られ、僕の意志とは無関係に勝手に動いてしまう。

 そして僕は気を失った。


 気づくと、僕は地面に倒れていた。

 辺りを見るも何もない。先ほどまで海に居たはずなのに、海辺も舗装された道路も何もない。

 ただ、明かりに照らされるかのように一つの道が広がっていた。

 恐る恐る進むと、先には大き目の岩が置かれ、岩の上には岩と同じくらいの薄い岩が蓋のようにされていた。

 手を触れると、冷たく固い。そしてよくよく見ると、薄らとではあるが、なんだか装飾が施されていた。

 試しに蓋をずらそうと力を込めるも全然動かない。

 まるで墓石みたいな感じだ。

 この場合誰の墓石なのだろうかと、疑問に思う。

 それに、ここはいったいどこなんだ?

 海に居たはずなのに、気づくと地面に倒れていて、目の前には見たこともない装飾がされた岩が置かれている。

 わけがわからない、それこそ夢かと思ってしまう。だが、頬を抓るも痛みだけで目は覚めない。どうやら、夢ではないようだ。

 ……なんだか異様に疲れた。それに眠たい。


 気づくと僕は海辺の砂浜に寝転がっていた。

 辺りには先ほどまであった岩はどこにもなく、いつの間にかに太陽が顔をのぞかせていた。

 どうやら朝のようだ。

 来てから数時間が経過したようであり、腕時計は4時を示していた。

 あれは夢だったのだろうか、それとも現実なのか?

 寝ていたせいか頭が働かない、でも、手にはあの岩の感触が残っているかに思えた。


 一回家に帰り少し寝て学校へと向かい、授業を受けるも、あの岩のことが頭によぎり何も手につかない。

 あれは墓石に似ていたような気がした。

 放課後、僕は町の外れにあるお墓へと来ていた。

 僕の他には、管理人が暇そうに掃除しているだけで他には誰もいない。

 岩と墓石は似ていたが、だがお墓の意志には装飾などは施されていない。それに、岩に比べて数周り小さい。

 あれはなんなのか。

 より一層疑問が深まるも、僕は帰ることにする。

 帰り道、バス停留所につくと一人の少女が椅子に座っていた。

 白いワンピースに麦わら帽子を被っており、場所が場所だけに、幽霊かと一瞬おびえてしまうが、少女には確かに足があるし、日が出ていることから安堵した。

 そんな僕を不思議そうに見つめる少女に気まずさから目を背けてしまう。

 鞄に入れておいた手紙を取り出して再度確認しつつ、細部まで確認するも何も無い。

「あの、それって、ボトルメールですか?」

 と、いきなり少女が訪ねてくる。少女は僕の手元に置かれたボトルと手紙に興味があるようであった。

 暇なこともあり、僕は少女に教える。

 昨日この瓶を海辺で拾ったこと。

 そして、なんだか、手紙は破れており、上半分しか読めないことを。

 すると、少女は唖然とした表情で僕を見つめると、鞄へと手を伸ばした。

 そして僕が拾ったボトルメールと同じ形の瓶を取り出し、中から手紙を取り出した。

「私もね、昨日海辺で拾ったの。そして、この手紙があったの」

 と、少女から手紙を受け取ると、上の方が破れていた。

「これって、もしかして元々は僕の持っているのとで一枚だったのかな?」

「うん、そうかも」

 僕は早速、繋いで読んでみる。


『海の墓より

 海の墓より君を待つ

 ―――――――――――

 海が荒れ、

 月が食われるとき

 望みし世界に入るだろう』


 読んでみたが、いまいちわからない。海の墓は昨日みた岩のことだとして、海が荒れるはいいとして、月が食われるとはどういうことだ?

 それは少女も同じようで、首をかしげている。

「よくわからないね、これって、どういうことなのかな?」

 と尋ねる僕に少女は言う。

「うーん、月が食われるは、おそらく月食の日だとしても、上半分の海の墓がわからないね」

「えっ? げっしょく?」

 げっしょくとはなんだ? 聞いたことがあるようなないような。

「月食はね、簡単にいえば、太陽—地球—月が一直線に重なることで、月が満ち掛けて、最後は一時的に見えなくなる現象のことだよ」

「へえっ、そういうことか。それで次の月食っていつなのかな?」

「確か、明日じゃなかったかな? テレビで言っていた気がするよ」

「ということは、明日の夜の海に行けばいいのかなぁ」

と呟く僕に少女は訪ねる。

「ちょっと待って。どういうこと?」

 僕は昨日の出来事を最初から話していく。


 次の日、学校から帰り少しばかり寝た僕は昨日同様、海辺へと来ていた。すると、そこには昨日であった少女が海を眺めるかのように座っていた。

「おはよう……いや、こんばんは」

「うん、こんばんは」

 と軽く挨拶し、少女にシュノーケルを渡して自分も顔に装着する。

「じゃあ行こうか」

「はい」

 二人そろって夜の海をプカプカと浮かんで探索する。

 一昨日同様、すぐには何も見つからず、体力だけが消耗されていく。

 そして、しばらくたつと、急に海が荒れ、気づくと僕たちは地面に倒れていた。


「大丈夫?」

「はい、なんとか……それで、岩はどこですか?」

「えーと、ああ、あれだ」

 と、指さすほうには大きな岩が置かれていた。

 前に見た時と同じ感じの不思議さを感じた。だが、前回とは異なり、岩の上に置かれていた蓋が消えていた。

 そして、内部をのぞき込むも、真っ暗でなんも見えない。

「これが入り口なのかな?」

「……私、行きます」

「えっ……?」

 突如無言で少女が穴へと飛び込んでしまった。

 止める暇もなく、勢いよかったため、一人その場に取り残されてしまう。

「ちょっと、だいじょうぶ?!」

 大声で穴に叫ぶも、反響する僕の声だけで少女の声は帰ってこない。

 もしかして、死んでしまったのか?

 最悪の考えが脳裏によぎるも、頭を振り消し去る。

 ボトルメールには、確か最後に、望みし世界に入るだろう、と書かれていた。

 それを信じるならば、少女は行ったのかもしれない。

 海の墓へと。


「覚悟を決めろ、僕」

 穴へと足を延ばし、僕も少女の後を追いかける。


 気づくと、そこは街中であり、僕は地面に手をついて着地していた。

 周りを見ると、そこには派手な看板の店が並んでおり、大勢の人々がいた。

 遠くを見ると、そこには辺りをうろうろする少女の姿が見え、ほっとする。


「それにしても、ここはどこなんだろうね」

 少女に話しかけると、ビックリされ、すぐに笑顔となった。

「君も来てくれたんだ」

「うん、僕も会いたい人がいてさ」

「へえ、じゃあ、一緒に探しましょう」

「もちろんさ」


 二人でしばらく歩くと大き目の広場へと着く。そこには、多くの人々がいて、騒がしい。

 まるで、お祭りのようだ。


「何をしているのかな?」

「さあね。でも、なんだか楽しそうだ」


 目の前では、マジックを披露する人や楽器を演奏する人、踊る人と様々だ。そしていくつか見ていると、少女が足を止め、一人の男の子を見ている。

 男の子は僕たちよりも少し下程度だろうか、見た感じマジックをしているようだ。

 だが、下手くそなのか、あまり人が集まっていない。それでも、一生懸命マジックをしている。

 しばらく見ていると男の子が気づいたのか僕たちの方を見る。そして、驚きの表情を浮かべると、笑顔になった。

 ふと少女を見ると、驚愕の表情を浮かべ、そして、嬉しそうでもあるし、泣きそうでもある。

 少女は男の子のほうへと歩み寄り。

 二人で喋り始め、少し経つと、いきなり男の子の姿が視界から消えてしまう。


 戻ってくる少女に僕は聞く。

「これは、どういうこと?」


 訪ねた僕に少女は言う。

「あの男の子はね、私の弟なの。半年前に交通事故でしんじゃったの

――あの日、あまりに弟がふざけた悪戯ばかりするから怒っちゃってね、そしたら、家を飛び出して、そして轢かれちゃったの

だから、どうしても、謝りたくて、ごめんねって言いたくて、

あの日、怒ってごめんねって言いたくて私はここに来たの……


許すはずがないって、勝手に半年思っていたけどね、弟は許してくれた

ううん、弟はありがとうって言ってくれたの

ぼくのために叱ってくれてありがとうって


弟が言うにはね、ここは死者の国って言ってね、死んだ人々が新たに生まれ変わる前に、心残りを晴らす場所なんだって、

例えば、あの演奏家はプロになるのが夢で多くの人たちの前で演奏するのが夢だっんだって。そしてあっちのマジックをする青年は、生きている時は凄いマジシャンだったんだってさ。そしてこちらに来た死者を悲しませないように毎日マジックで人々を楽しませているんだって。


そして弟は。

『ぼくは、どうしても、生まれかわることができなかったんだ。お姉ちゃんが怒って、ぼくが飛び出してしんじゃったから……お姉ちゃんは優しいから、たぶん僕のことを悲しんでいつまでも、わすれられないかもっておもったんだ


だから、まいにちここで、すごしていたのかも

いつかお姉ちゃんがくるようなきがしてね

本当にきたときはびっくりしたけど、でも、ありがとうお姉ちゃん

そして、さよなら、いままでありがとう』


 って、言ってね、許してくれたの。

 少女が泣きじゃくりながら言う。

「弟はそして、成仏したの」

 うつむく少女に僕は言う。

「だったらさ、弟の分もこれから頑張っていかないと。だから、そんなに悲しそうな顔をしちゃだめだ、それじゃあ、弟さんがいつまで経っても、安心できないよ」

「うん……そうだね。ありがとう○○君」

「……戻ろうか」

「うん」


 気が付くと僕らは海辺に座っていた。

 先ほどまでの出来事がまるで幻のようにも思えたが、確かに僕の心の中には彼らがいたし、それは少女にとっても同じだろう。


「ありがとうね」

 と、少女が言う。昨日よりも明るい表情になっているような、そんな気がする。

 そして、それはきっと僕も同じだろう。

「夢だったのかな?」

 と、少女は呟く。

「夢なんかじゃないさ、僕の心の中には君と弟がわらって過ごしたあの瞬間があるからね」

「うん、そうだよね。ほんとうにありがとうね」

「いや、僕も会いたい人を見られたし、向こうも気づいたからいいよ」

「そうなの? いつの間に会ったの?」

 不思議そうに尋ねる少女。

 僕は久々ににこやかに言う。

「僕にも昔は兄貴がいたんだ。兄貴はとてもマジックを愛していてさ、数年前に事故で死んじゃったけど、でも、頑張ってた」

「ああ、そういうことだったの」

「うん、だから僕も良かったよ。兄貴がまだマジックを嫌いになっていなくて。それにあんなに大勢の人たちを楽しませていてさ、やっぱり兄貴には敵わないや」

「そんなことないわ、だって、バスの中で見せてくれたマジックはまるで、魔法みたいで凄いなって思ったの」

「ありがとう」

 僕は照れながら返す。


 死者の国。

 そこには、たくさんの夢を持った人々がいて、いつの日か成仏する人々のために頑張る人もいて、この世界よりも凄い、立派な世界であった。


「僕らも頑張らないとね」

「はい、弟のためにも、自分のためにも、私、頑張る」

「うん、それで、その、これからのことなんだけど……」

「はい?」

「一目ぼれでしtた。僕と、つきあってくだささい」


 所どころ噛みつつ。

 それでも、素直な気持ちを告げた少年に少女はいう。


「私も――」


 

 そして、二人は大切な人と生涯過ごしましたとさ。

 


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