しずかにいつくしんで
野獣は息をするのも忘れて、
目の前の少女を見つめていました。
きらめく白金の髪
新緑のような翡翠の瞳
朝露に濡れた薔薇のような頬と唇
神聖なる処女雪のような白い肌
すべてが神の御手により造られたのだと思わせるような、絶世の美貌があったのです。
あの平凡な男に、これほど美しい娘がいようとは、思いもしませんでした。
今は恐ろしい野獣の前で、なすすべもなく震えている姿に、この野獣でさえも激しく庇護欲を掻き立てられます。
「よく来た、娘よ。」
この世のものとは思えないほど冷たく恐ろしい声が、屋敷に響きます。
「お前は今日から私のもの。永遠にこの屋敷からは出られん。わかっているな?」
「はい‥‥」
「ここは魔法の屋敷。逃げることも叶わんぞ?」
「承知しています。ですからどうか、村の者には‥‥っ!」
澄んだ宝石のような瞳を潤ませ、祈るようにこちらを見つめる娘。
「そなた次第だ。さて、部屋を用意している。ついてこい」
「私の…部屋をいただけるのですか‥‥?」
「なに?牢屋がいいのか?」
「いいえ!ありがとうございます‥‥」
こんな野獣に。永遠に自由を奪った野獣に。
感謝する気持ちを分け与えるなんて‥‥
なんて愚かで愛おしい娘なのでしょう。
すでに野獣は、彼女のことが、いたく気に入りました。
まだ野獣が、このような醜い姿になる前。
嫌という程、貴族の女を見てきましたが、
そのどれもが少女の美貌と心の美しさには
届きもしないだろうと思いました。
それだけでも自分は、とても素晴らしいものを貰ったのだと、心が満たされた気さえしていました。
そんな野獣の背についていきながら、
少女はひっそりと微笑みました。
きらめく翡翠の瞳は、獲物を狙う狩人のように。
野獣の背を、ただただ一心に見つめていました。