表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

コーヒー豆と俺の人生が一緒に転がって来るなんて!


今日から俺、秋山郁あきやまかおるは商店街から少し離れたところにポツンっと

立っている小さなカフェでアルバイトをすることになった。

ここで働くことになったきっかけはたくさんのコーヒー豆と一緒に転がってきた。

今年の4月から晴れて高校生になった俺は小遣い稼ぎのためにアルバイトを探していた。

しかし、どこのお店も高校生を雇ってくれなかった。

途方に暮れながらトボトボと歩いていたところに

カフェのオーナーである室山享むろやまとおるがぶつかって来たのだ。

室山さんは手に大きな袋を持っていた。

その中身は大量のコーヒー豆だった。

ぶつかった衝撃でコーヒー豆が入った袋が室山さんの手元から滑り落ちた。

袋は落ちた瞬間に破れてしまい中身のコーヒー豆が流れ出てしまった。

俺は急いで謝りしゃがみ込んで袋を持ち上げた。

中を覗いてみるとほんの少しのコーヒー豆しか残っていなかった。

俺は顔を真っ青にして室山さんの顔を見上げた。

しかし室山さんの表情は俺の表情とは正反対で笑顔だった。

「あの・・・すみません。俺、前をよく見てなくて・・・」

そんな表情に少し安心しながらもう一度謝罪をする。

「その豆最高級のものなんですよ。どうしてくれますか?」

室山さんは笑顔のままで突如口を開いた。

「え・・・?」

聞き返すが笑顔のまま室山さんは口を開かない。

「そんなに高いものなんですか?」

恐る恐る聞いてみる。

室山さんは笑顔でゆっくりと頷いた。

「一キログラムおよそ5万円です。」

俺は自分の耳を疑った。

「5万・・・・円?」

室山さんはニコリと笑った。

「この袋には約8キログラム入っていたので、40万円相当の物をあなたは台無しにしたんですよ。」

「40万!?」

俺は手に持っていたコーヒーの袋を取り落としそうになった。

「はい。この金額をあなたは僕に返すことができますか?」

「無理ですよっ!」

室山さん先ほどとは正反対に曇った顔をした。

「そう言われても僕としても困ります・・・」

「俺だってまだバイトだって見つけれてないですし・・・両親にもそんな高額な金額を

求めることもできませんし・・・」

俺はどうすればいいか分からず下を向いてゴニョゴニョと言う。

室山さんは少し間を開けてから口を開いた。

「それでは家のカフェで働いていただけませんか?バイト、決まってないのでしょう?」

「え、いんですか?!」

「はい。こちらとしても大変助かりますから。」

俺はパッと顔を上げた。

室山さんは先ほどの笑顔と同様にニッコリと笑った。

その明々後日である今日、約束通りバイトで働きに来たのだ。

しかし・・・・・

「誰もいない・・・・・」

オーナーである室山さんの姿がない。

店内は茶色と緑色と白色を基調としていて、テラスの方には花や芝生などの

自然体な色に囲まれていて全体的に落ち着く雰囲気がある。

「室山さ~ん!!今日から,お世話になります秋山ですけど、いらっしゃいますか?」

どことなく大きな声で言ってみた。

少し部屋の中がしらけた頃に店の奥の方からガタっと音が聞こえたことに俺は気づいた。

誰かがこちらに向かっている足音がする。

「あれ?室山さんいるんですか?」

しかしそこに現れたのはオーナーである室山さんではなく、

見知らぬ一見チャラそうでもあり爽やかなイケメンな男性だった。

「君、もしかしてコーヒー豆をひっくり返したっていう秋山君?」

腰に黒いエプロンの紐を巻き、結びながら出てきた。

「え?あ、はい・・・」

『何故そのことを!?』

頭の中でその言葉がエコーのかかった状態でクルクル回っていた。

俺はなんとなくその失態が恥ずかしく思えて顔を少し赤くした。

「へぇ~確かに秋山君なんとなくドジっ子っぽく見えるよね。」

俺はさらに恥ずかしくて顔をさっきの倍以上に赤くした。

「確かにって?」

「あぁ君の話は享から聞いてたんだよ。新しい子が入るけど

恐らくと言うか絶対ドジっ子な子だからよろしくねぇ~ってさ。」

そんな爽やかな笑顔で言われましてもこちらとしてはどのような返答をすればいいのか

全くもって不明なんですがぁ~・・・。

俺はハハハと笑ってのけた。

『そこが俺のいいところ!

心が広いんだよ。』

「あと、ちょっと鬱陶しいってさ」

「なんですとっ!?」

ついに俺は大爆発までとは行かなかったがさすがに怒ってしまった。

「まぁまぁ。享って実はあんなこと言ってても案外気に入った子しか雇わないから

気にしないでね。ちなみにボクも気に入られてる子の一人だよ。」

「見れば分かりますよ。エプロン着けてるんですから。」

男の人は自分の服装を見た。

「あ、確かにそうだね~。」

『俺よりこの人の方が数倍ドジっ子だと思うのは俺だけ?』

俺は再び気の抜けるような薄い笑いを口から洩らした。

「僕はここに勤めて2年目の富谷翼とみやつばさ。えっと確かねぇ・・・

21歳だよ。」

『やっぱりこの人俺とは比べ物になんないくらいドジっ子だ!!』

なんとなく心の中でガッツポーズを決める俺。

「翼って呼んでね。」

「え・・・でも俺より年上ですし・・・」

「それがここの従業員の約束なんですよ。」

そこにいきなり現れたのはニッコリと朝からキラメクほどの笑顔でご登場の

室山さんだった。

「あ、おはようございます。室山さん。」

俺が挨拶をすると室山さんは首を横に振った。

「従業員同士では下の名前で呼び合うことが決まりなんですよ。あ、呼び捨てでね。」

「何故ですか?」

俺は首を傾げた。

「親近感が湧くからですよ。何にでもチームワークは必要でしょう?」

「なるほど・・・」

「まぁ実を言うと苗字が覚えられないだけですけど。統一性を大切にね。」

『なるほどね。・・・・・苗字ぐらい覚えろや。』

「ですからメンバーのことは年齢差関係なしで下の名前で呼んでくださいね。呼び捨てでね。」

「了解しました・・・。」

俺は渋々頷いた。

が、俺の反応を見て楽しんでいるかのように富谷さんは口を開いた。

「ほら、呼んでみてよ。練習練習。」

真顔だが目が笑っているのが手に取るように分かる。

「つ、翼・・・・」

徐々に声が小さくなっていく。

そんな妥協?を許さない富谷さん。

「ん?聞こえないなぁ~・・・ねぇ?享。」

富谷さんは横目で隣にいた室山さんにわざとらしく聞いた。

すると当たり前のように室山さんはニッコリと笑いながら頷いた。

『この人達、超腹黒っ!!』

「あれぇ?もう諦めちゃったのかなぁ~?」

富谷さんは俺を崖っぷち(仮)にどんどんと追い込んでいく。

「つ・ば・さ!」

俺はやけくそになって大きな声で言った。

『どうだっ!?』

「僕は?」

「え・・・?」

室山さんは自分の顔に指を指して言った。

「ですから、僕は呼んでいただけないんですか?翼だけずるいでしょう・・・」

「さっきの俺へのコメントは一切なしですか?」

「なしですね。多分。」

『確かこの企画は仲良くなるためのものですよね・・・・・確か・・・』

「さ、呼んでください。」

心なしか室山さんが変態に見えてしまう俺が多分・・・おかしいんだよね。

「享。これでいいですか?」

富谷さんので吹っ切れたから躊躇いなしに言うことができた。

室山さんの方を見てみると何故か不貞腐れている。

「あ、享が不貞てる。」

富谷さんは室山さんの顔を子供がするみたいに覗き込みながら言った。

「なんで不貞てるんですか?」

俺は訳が分からずとにかく聞いてみた。

「多分、名前を呼ぶときに今度は照れてなかったでしょ?だからだよ。

気づかなかった?さっき、ボクの名前を照れながら言うところを

必死にケータイで録画してたんだよ。」

「は?」

俺はポカーンと間抜けな顔如く口を開けた。

「知らなかった?まぁこの店には来たばっかりだから知らないのも

当然かな。ここのオーナーは大のショタ好きなんだよ。」

俺はゆっくりと富谷さんの隣にいる室山さんを見た。

室山さんはニコッと笑ってピースを指で作り、こちらに向けている。

俺は冷や汗をタラーッとこめかみあたりに一筋垂らした。

「大丈夫だよ。この人は、従業員には手を出さないから安心して。

ボクも安全だもん。」

富谷さんは室山さんと同様にピースを指で作りこちらに向けた。

「え?さっきの録画は手を出したことにはならないんですか??」

俺は疑うような細い目をしながら問いかけた。しかし、

「え?むしろそんなの入るの?」

富谷さんはキョトンとした顔で逆に問い返してきた。

そして極めつけは、室山さんの一言。

「これは君たちの記念撮影だよ。翼は郁に仕事を教えてあげてね。それじゃあ

僕は仕込んでくるよ。」

そう言って室山さんはケータイのなんの動画か分からないが

とにかく動画を見ながら店の奥へと消えていった。

「室・・・享ただの変態じゃないですか・・・・顔は爽やかでかっこいいのに」

俺は肩でため息を吐いた。

そんな俺の肩に富谷さんが手を軽く置いた。

「ボクも入りたての時はこんな感じだったんだよ。ある意味ここの

儀式みたいなもんだよ。可愛い子を照れさすっていう行事かな?」

富谷さんはニコッと優しく笑って次には手招きをして店の奥に入っていった。

「俺、こんなとこでやってけるかな・・・・・はぁ~・・・・」

俺は深い溜め息をこぼしながら店の奥に足を踏み入れたのであった。

                             



                                       ~続く~







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ