名前
多目的教室に着くとやはり視線が突き刺さる。
でも、それ意外なにも無い僕は男子に当然からかわれると思っていたのだがそう言う事も一切無い、男子に声をかけられる事もなかった。
僕は不思議に思っていたけれど、無いなら良かった、余りに酷い仕上がりだからからかわれ無かったのだろうと楽天的に考えていた。
“キーンコーンカーンコーン”
2時間目のチャイムが鳴り響いた、それにも関わらず先生はまだ来ない。
“ガラッ”
多目的教室のドアが開き先生が入って来たかと思ったが入って来たのは音無だった。
音無は壇上に立ち声を張り上げ言った。
「諸君に告げる!先生は諸事情により授業に出られなくなったそれにより今回の授業は自習時間になった真面目に自習するように!」
音無の言葉に歓声が上がった。
言い終わると壇上から降り、音無は真っ直ぐに僕の所に来た。
「奏君!調子は如何なものかな?」
「………………」
僕は耳を疑った、音無は僕の名前を呼んだんだ。
「ちょと、なんなのよそれ~」
クラスの女子が半笑いで音無に言った。
「それとは何だ?」
音無は小首を傾げる。
「名前よ名前~」
女子は答えた。
「ああ、これはだな泡沫の名前は奏汰だろ?それを文字って女の子だから奏だ!」
音無は胸を張って答えた。
突然教室が騒がしくなった。
「ん!どうした!奏君」
僕は泣いていた涙が溢れて止まらない。
僕は名前を呼ばれて嬉しかったんだ、僕の名前を呼ぶ人は奏汰以外にはいなかった母さんは僕の名前なんか呼ぶ筈もない。
僕と奏汰双子の兄弟、僕達以外の他人に名前を呼ばれるなんて思っても見なかった。
僕はこの世には存在しない筈の人間、僕はいない、いてはいけない人間
わかっていただから僕は名前を呼ばれない…
僕は奏汰としてしか生きられない…
だからかな嬉しくて嬉しくて、僕の存在を見つけてくれたようで…認めてくれたみたいで。
僕は存在して良いんだって言ってくれたみたいで。
例えからかい目的だったとしても僕は死ぬほど嬉しかったんだ。