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夜の動物園で

作者: 天たま
掲載日:2026/03/20

象は雨が降るのを待っていた。なぜって、それは

ポツ。ポツツ。ザアアアアア。夜の動物園にとうとう雨が降り始めた。待ちわびた天気を大きな背に受けて、象はゆっくりと腰を上げる。フシューッ。一つ息を吐いた後、体の下から何か丸いものを取り出した。長い鼻で器用にそれを包みあげると柵のそばまで歩いていく。のしのし。よろよろ。象はここ数日ろくに眠っていなかった。園内の常夜灯に照らされた雨はきらきらと、夜を泳ぐ無数の小魚のよう。地面で溶け合ってあちこちに小川を作っていた。


柵のそばまでやってきた象は檻の外側へと慎重に鼻を伸ばすと、すっかり小川になった歩道に丸いものをそっと浮かべた。それは赤くてつやつやとしたりんごだった。象は知っていた。歩道を挟んだ向こうの檻のキリンが、いつも美味しそうにりんごを食べていた事を。そして歩道がわずかに傾斜していた事を。一夜限りの小川は赤い宝石を受け取ると、キリンの檻のほうへゆっくりと流れていく。柵の内側から二つの小さな瞳が、遠ざかっていくりんごをじっと見つめていた。途中でつっかえそうになった時は精一杯鼻を伸ばし、フンフン風を送ったりもした。


柔らかな雨に力を借りて、進んでは止まり、止まっては進み、ついにりんごが向こう岸へ辿り着いた時、ふと檻の中で誰かが長い首をもたげた。あの子だ。トコトコと柵のそばまでくると、りんごの前で立ち止まった。雨が辺りの音をかき消している。じっと見つめてからキリンはりんごをくわえると、小さくその場で跳ね回った。


象は耳をパタパタと揺らした。

物語の場面と同じ雨の夜に書きました。お読みくださった方、どうもありがとうございます。あなたと遠くの大事な人との縁が続きますように。

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