第六話 空席
私の席は、窓から三列目の通路側だった。
それは覚えている。
けれど月曜の朝、椅子がひとつ後ろにずれていた。
机の脚に貼られた名前シールも、
私のものが少しだけ後方に貼り替えられている。
「こんな配置だったっけ?」
隣の同僚に聞くと、自然にうなずく。
「ずっとそうだよ」
違和感はあるが、言い切れない。
翌週。
また一列、後ろへ。
教室のようなオフィスで、
私は少しずつ後方へ移動している。
窓が遠くなる。
プロジェクターの文字が見えづらくなる。
発言のタイミングも、つかみにくい。
誰も気づいていない。
それどころか、
空いた前方の席には、いつの間にか誰かが座っている。
知らない顔。
社員証をぶら下げ、
当たり前のようにキーボードを叩いている。
三週目。
私の席は、一番後ろの壁際になった。
背中に冷たい感触。
会議中、資料をめくる音が遠い。
声が届かない。
ふと気づく。
出席者一覧に、私の名前がない。
「あれ?」
声に出す。
誰も振り向かない。
もう一度、少し大きな声で言う。
「すみません」
音は、確かに出ている。
でも、会議は止まらない。
拍手が起きる。
三秒間。
私は立ち上がる。
誰の視界にも入らない。
机の上を見る。
私のノートはない。
ペンもない。
椅子に手をかける。
そこには、何もない。
空間だけがある。
壁際に、
最初から席などなかったみたいに。
廊下に出る。
ドアは閉まる。
内側から、拍手が聞こえる。
三秒。
ぴったり。




