第二話 音のない拍手
会議室の空気は、いつも同じ温度だ。
発言のあとに起きる拍手は、
決まって三秒。
私はその長さを、ちゃんと知っている。
ある日の会議で、意見を求められた。
少し迷ってから、口を開く。
「もう少し、ゆっくり進めた方がいいと思います」
言い終える。
静かだ。
誰も拍手しない。
議長がうなずき、淡々と次の議題へ進む。
その日の帰り道、
自分が何か間違えたのかと考え続けた。
翌日、共有フォルダに議事録が上がる。
“全会一致で承認”
私の発言は記録されていない。
録音データを確認する。
確かに、私の声は入っている。
「もう少し、ゆっくり――」
そこで、音が消える。
無音。
三秒間。
そして、自然に次の議題へ。
まるで、そこに“間”が必要だったみたいに。
翌週。
私は発言をしないことにした。
みんなと同じタイミングでうなずき、
同じ長さで拍手をする。
三秒。
きっちり。
そのとき、違和感に気づく。
誰も、手を叩いていない。
机の上に置いた両手は、
微動だにしていない。
それでも、三秒の拍手は鳴り響く。
録音アプリを起動する。
あとで確認すればいい。
会議が終わる。
再生する。
三秒間の拍手。
はっきりと、入っている。
でもその音は、
私の席の位置からだけ、
聞こえていた。
議事録の最後に、一行だけ追記があった。
“異音の原因は特定済み。問題なし。”




