最終話 正しい位置
駅のホームに立っている。
いつからここにいたのか、分からない。
白線は、はっきりと引かれている。
黄色い点字ブロックも、そのまま。
人もいる。
ざわめきもある。
すべて、元通りだ。
私は、白線の内側に立っている。
きちんと。
誰よりも正しく。
足先は一ミリもはみ出していない。
押される感覚もない。
通知も鳴らない。
拍手も聞こえない。
記録も消えない。
全部、整っている。
アナウンスが流れる。
「白線の内側までお下がりください」
みんな、少しだけ下がる。
私も下がる。
でも、足が動かない。
もう、これ以上内側がない。
視線が集まる。
初めて。
誰かが私を見ている。
その目は、驚いていない。
ただ、確認している。
位置を。
「そこ、外側ですよ」
隣に立つ人が、静かに言う。
足元を見る。
私は確かに、白線の内側にいる。
でも周囲の人たちは、
さらにもう一歩、内側に立っている。
白線が、増えている。
もう一本。
その内側に、さらに一本。
層になっている。
私は、一番外の内側。
電車が入ってくる。
風が強くなる。
誰も押さない。
誰も触れない。
ただ、みんなが一歩下がる。
私だけが、動けない。
アナウンスが、はっきりと聞こえる。
「正しい位置にお立ちください」
その瞬間、白線が消える。
私の足元から。
体が、わずかに傾く。
踏み出した覚えはない。
でも、ホームの縁が遠ざかる。
電車の窓に、自分の姿が映る。
ちゃんと内側に立っている。
誰よりも整った位置で。
ガラス越しに、
みんなが拍手をしている。
三秒間。
ぴったり。
そして、私はやっと気づく。
最初から、
外側に立っていたのではない。
正しい位置に、
きちんと置かれていただけだと。




