第一話 白線の内側
駅のホームには、黄色い点字ブロックの内側に白線が引いてある。
「白線の内側までお下がりください」
毎日聞くアナウンス。
私はいつも、きっちり内側に立つ。
几帳面な性格だと思う。
ある朝、ふと気づいた。
白線が、昨日より少しだけ内側に引かれている。
気のせいかもしれない。
でも、昨日まで立っていた場所に立とうとすると、
つま先が線を踏んでしまう。
その日は、線の内側に立った。
次の日。
また、少しだけ内側に寄っている。
ホームの幅は変わらない。
点字ブロックも動いていない。
白線だけが、静かに私を押してくる。
三日目。
もう、柱のすぐそばだ。
さすがにおかしいと思い、
周囲を見渡す。
誰も気にしていない。
皆、白線の“内側”に立っている。
まるで、そこが最初から正しい位置だったみたいに。
四日目。
背中が柱に触れる。
逃げ場がない。
電車が滑り込んでくる。
風が巻き上がる。
そのとき、気づいた。
線は、内側に寄っているんじゃない。
私が、外側に立っているのだ。
他の人は、ちゃんと線の内側。
ずっと同じ場所。
私だけが、毎日少しずつ、外へずれている。
アナウンスが流れる。
「白線の内側まで――」
その続きが、聞こえなかった。
背中を押されたわけじゃない。
ただ、足元の“正しい位置”が、
なくなっていただけ。




