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追跡されるもの

 音が消えた。

 風が葉を揺らす音も、遠くで逃げ惑う獣たちの地響きも、自分の荒い呼吸音さえも、まるで世界が終わったかのような無音に塗りつぶされた。


「……いるぞ」

 レイジは微動だにせず沈黙した森を見据えていた。

 ゆっくりと両拳にベアバスターを装着し感触を確かめる。


「こっちを見ている。近い」

 その一言に、学生たちは指一本動かすことができなくなった。

 視界の端々で木々の影が揺れるたびに、心臓が不整脈を起こしそうになる。

 体感時間では既に数時間が経過したかのような錯覚。

 極限の緊張に精神がミチミチと削られていく。


「……なぜ、襲ってこない?」

 リヒトが引き攣った声を漏らす。その声は本来なら静まり返った空気に響くはずのものだったが奇妙に籠って聞こえた。


 レイジの額に汗がにじむ。生態系上位を占める他の捕食者たちが逃げ出すほどの実力がありながら襲い掛からず、あえて「待つ」という選択。それは野生の獣の振る舞いではなく知性を持った存在による何かを感じさせた。


「……静かすぎて耳鳴りがします」

 アメリが、自分の耳を押さえながら呟いた。キーンと体の内から響く音。

「自分もだ」「僕も……頭が割れそうだ」

 数人が同意するように頷く――だがその後に続く光景はあまりにも異様だった。


 隣で喋っているはずの仲間の声が、()()()()()

 唇は確かに動いている。焦燥に満ちた表情も、喉を震わせる仕草も見える。

 しかしそこからは一語も伝わってこない。ただ、耳の奥で鳴り続ける不快な音と痛みだけが次第に増していく。


 ふいに九条シューマが、何かに気づいたように目を大きく見開いた。

 立ち上がり、全員に向かって声を張り上げ絶叫する。

(これは――自発耳音響放射なんかじゃない!耳を――!)

 その言葉は誰の鼓膜にも届かなかった。


 彼らの聴覚を鳴らし続けていたのは静寂などではなかった。

 この数分間、あのモンスターは叫び続けていたのだ。

 人間が肉体やデバイスを介して行うのと同様に、咆哮を用いて行われる大出力の広域魔素操作。対象エリア内で発生するあらゆる音源に対し、その瞬間ごとに逆位相の音素で自動的に干渉――リアルタイムで行われるアクティブノイズキャンセリング。それが彼らの周囲を「無音結界」へと変えていただけだった。


 そして今、怪物は「遊び」のフェーズを切り替えた。


 超ワイドレンジに展開していた反対位相の干渉を瞬時に縮小し、咆哮に指向性を与え人間たちが固まった狭い領域へ、一筋の巨大な魔素の轟音として()()()()()

 焦点フォーカスが合った時間は一瞬だったが効果は抜群だった。


「が、あああああッ!!!」「いぎぃん!」「クッハッ……!!」


 内耳の三半規管を直接殴りつけられ、鼓膜が内側から破裂するような衝撃。瞬時に平衡感覚が崩壊する。

 学生たちは悲鳴を上げ耳を押さえて地面に崩れ落ちた。のたうち回るカイル、足をピーンと延ばして硬直するアメリ。視界は激しく歪み、嘔吐感が全身を駆け巡る。

 ただ一人、レイジだけが膝を突きながらも両耳を押さえ口を大きく開いて立ち上がろうと踏みとどまっていた。

 血走った瞳が、歪む視界の向こう側に姿を現そうとする白い影を捉える。こちらに向けた両腕の左右それぞれから赤く脈打つ魔素の波紋を生み出す様を。


(これは、うるさいどころじゃないな……!)


  指向性咆哮による衝撃が止んだ後には再び偽りの静寂が獲物たちの聴覚を震わせ塗り潰す。

 おまえたちに音を与えるのも取り上げるのもすべては自分なのだ、と丁寧に教え込むような行動の切り替え。

 吐き気に耐えながら地面に顔を伏せ、学生たちはただ震えていた。

 耳の奥で鳴り続ける残響。平衡感覚を失い、上下左右も判然としない混濁した意識。


「これ、くらいの……ことで……!」


 溢れ出た鼻血をそのままに、ふらつく足取りで立ち上がったのは天宮リヒトだった。

 その顔からは血の気が失せていたが、プライドだけが折れかけた心を支えていた。リヒトは震える手でアマミヤ・イージス製の魔導剣エーテライズブレードを抜き放つ。

 舐めるなよ。僕は『迷惑な赤枠』なんかじゃない。

 奮い立たせた闘志に呼応するように刀身がシュオン、と赤熱する。


「かかってこいッ!」


 ――その時だった。

 鬱蒼と茂る森の奥から、何かが大きな放物線を描いて飛来した。

 リヒトが剣を振りかぶる。だが、それは彼を狙った投擲攻撃ではなかった。

 ズチャリ、と湿った音がした。

 リヒトの数メートル前、地面に叩きつけられた「それ」は、鈍い音と共に泥の上を転がった。


「……あ」

 最初に声を漏らしたのは、アメリだった。

 そこに転がっていたのは、先程パニック状態で逃げ去った猪獣カプロスの幼い子供だった。死体ではない。

 その四肢は鋭利な刃物で切断されたのではなく強い力によって無理やりねじ切られている。それでもなお幼獣は生きていた。生かされてしまっていた。

 不揃いないびつな断面からこぼれる体液。苦痛に濁り裏返った眼球。血泡を吹きながらビクビクと不規則な痙攣を繰り返すちいさなからだ。


「ひ……い、嫌……」

 藤咲モモナは短い悲鳴を上げ、両手で耳を塞いでその場にうずくまった

 森に潜む怪物は自分がこれから弱者おまえたちになにをするつもりなのかを、生きたメッセージを使って伝えてみせた。


 プレゼンでもしてるつもりか。いい趣味してやがるなクソ野郎。

 レイジの内心に嫌悪と苦々しさが満ちる。

 九条シューマは顔を青ざめさせ吐き気を堪えるように口元を押さえた。佐伯ミレイは瀕死の獣が絶命するのを呆然と見ていた。

 

「なんなんだよ……なにがしてぇんだよ……」

 カイルが、掠れた声で呟く。

 もはや戦意は完全に喪失されていた。

 

 幼獣の痙攣が止まり、世界の音を圧殺していた魔の咆哮が同時に止んだ。

 微風に揺れる木々の穏やかなざわめきが戻ってくる。

 耳の奥を焼き付かせるような残響と、内耳を殴られたことによる不快な眩暈だけを残して――モンスターの気配が消失した。


 ――いや、消えてはいない。

 レイジの直感は怪物が身を隠しただけだと告げていた。獲物の心を十分に折り、その初々しい反応をじっくりと、飴玉をしゃぶるように味わうためにあえて手を緩めたのだ。野生動物の狩りとは明らかに異なる、計画性を帯びた隠密。


「……っ、う、うぅ……」

 土の上に崩れ落ちた学生たちは、震える手で自分の耳を押さえていた。

 アメリは歯をカチカチと鳴らして震え、瞳の焦点が合わないままポロポロと涙をこぼしている。同様に蒼白な顔で呼吸の荒いモモナが、自分自身の恐怖を押し殺すようにしてアメリをぎゅう、と強く抱きしめた。


「アメリちゃん、立って……大丈夫、生きてる。息をして……」

 モモナは震える膝に力を込め、懸命にアメリを支えながら立ち上がらせた。

 ミレイがふらつく足取りで救急キットを取り出し、全員に鎮静剤の経口投与と、耳の応急処置を施す。その間も一行の視線は絶えず暗い森の奥へと向けられていた。気配が消えたことが、逆に「どこからでも来る」という恐怖を増幅させていた。

 

「橋広さん」

 レイジの低い声。


「アレの調査は不可能です。撤退します。今すぐに」

「……ええ。おっしゃる通りです。私の判断が甘かった」

 橋広教授は深刻な表情で頷くと、自身の高機能端末を操作した。

 JASRO、中層基地、および武蔵野魔導大学本部への緊急通信。このレベルの新種、あるいは変異種の出現はもはやフィールドワークの対象などではない。

 しかし、教授の指が画面上で止まった。


「……おかしい。通信が繋がりません。ネットワークエラーです」

「何?」


 カイルが自身のASCOMテスターを叩くが、返ってくるのは無情な圏外表示だけだった。

「……いやいやいや嘘だろ嘘だろ! おい頼むよ!ここは中層のノーマルルートだぞ!? ASCOMのノードがアホみてぇにバカスカ配置されてる最強の通信安定エリアだろ!?アハハハハハ、ハァ!?」

 リヒトやカレンも自分の端末を確認するが、結果は同じだった。

 

 レイジは「エラー」という言葉を聞いた瞬間、唐突に確信した。

(偶然じゃない。奴はここが圏外だと知っていて俺たちを追い込んだんだ)


 「……完全に、ハメられたな」

 レイジは自身の端末を確認しなかった。

 今確実にわかることはこの不自然な「静寂」の向こう側で、怪物が自分たちの哀れな通信試行をニヤニヤと嘲笑いながら次の遊びの準備をしているであろう事だけだった。ここはやつにとっての狩場か、処刑場か――。

 どちらにせよろくでもないことになる。


「最短ルートは捨てる。森を抜けるのは無理だ」

 一行は鬱蒼とした深緑を避け、遮蔽物の少ない平地を往くルートへ進路を取った。視界が開け他のDEパーティとの遭遇率が高く、比較的安全性が担保されているはずの道。だが逆に言えば、その開けた視界は自分たちを見つめ続ける視線からの逃げ場がないことを意味していた。

 夕闇が迫り、ダンジョンの空が不気味な紫に染まっていく。


「……ついてきているのか?」

 リヒトが、何度も後ろを振り返りながら忌々しげな声を漏らした。


「わかんね。気配があるんだかないんだか……もう諦めるか飽きるかしてくれよ……」

 カイルが懇願するように呟いた、その時だった。


 ――ドチャッ


 再び、頭上から放物線を描いて柔らかい「何か」が投げ込まれ、カイルに当たった。カイルの頭を直撃したのは、生皮だった。

 綺麗に剥がされ、()()()にされた猫型モンスターの中身のない軽い死骸。

 カイルは無言、無感動に地面に落ちた赤黒い物体を見おろし、ゆっくりとキャップに付着した体組織片を払い――そして激昂した。


「ウオアア!?なんだテメッ!テメェ!このッ!何のアピールだクソがァッ!アアアアア!アーッ!!」


 悲鳴を上げる気力すら消え失せた他のメンバーは、投げ飛ばされてきた方向――遠くの丘の上を仰ぎ見た。

 残照の中に、白っぽい人型に似たシルエットが立っていた。

 それは微動だにせず、ただ静かに丘の上からこちらを見下ろしている。

 

「……バカにしやがって」

 リヒトが歯を剥き出しにして、震える拳を固く握った。


「誘っているんだろう……。私たちを、あの丘の方へ」

 九条が青ざめた顔で恐怖に耐えるように言葉を絞り出し顔をそむけた。

 彼らが目指したのは、地図上に記された最寄りのキャンプ地だった。

 絶望の中、揺らめく橙色の光が平原の窪地に見えた。


「……火だ。焚き火ですよ!」アメリが生き返ったような声を上げた。

 焚き火の周囲には、数人の人影が佇んでいた。


「良かった、人がいる……助かるかもしれない」

 安堵の溜息が漏れたのも束の間、学生たちは肝心なことに思い至ってしまった。


「……待ってください。僕たちは、あの化け物を連れてきてしまっている」

 リヒトは自分たちのライセンスが赤枠と揶揄される理由を思い出す。

 中年探索者ダイバーたちが自分たちに向けた温かみの無い視線。

 これじゃ『厄介者』と言われても当然じゃないか――いや、でも――。


「あそこにいる人たちに、あの化け物を押し付けることになってしまう。僕たちのせいで、彼らまで……」

 プライドと良心、生存を求める意思の衝突。学生たちが足を止め、葛藤に身を焼かれたその時。


「待て。様子がおかしい」

 レイジは防水仕様の双眼鏡を取り出してキャンプ地を見ていた。


「……誰も動いていない」

 彼は無言で、数十秒間その光景を観察し続けた。

 やがて肺の奥にある空気を全て吐き出すような、大きく重い溜息をついた。険しい表情で双眼鏡を畳み、ユーティリティポーチに戻す。


「……ここまでやるのか。思った以上に学のある野郎だ」

「久間川さん、どういうことですか……?」

 教授が不安げに問いかける。

 レイジは首を横に振って答えず黙って学生たちの前を通り過ぎ、焚火の元へと歩みだした。


 焚火の光に照らされていたのは、人間ではなかった。

 もとは人間であった物体だった。

 太い木の枝に貫かれ、串刺しにされた二人のダンジョン探索者ダイバー

 彼らの遺体は「おーい」と遠くの人間を呼ぶように両腕を大きく伸ばし、直立したように見える状態で焚火のそばに設置されていた。

 唇の両端は裂かれ、歯を剥き出しにして笑っているような表情にされている。

 

 人間が暗い夜に火を囲み、安らぎを得るキャンプの光景の模倣。

 獲物が最も安心し最も無防備に近づいてくる瞬間を、その習性を利用して「釣る」ために作り上げられた、冒涜的なオブジェ。


 遠くの丘ではオブジェの作製者が長い左右の前肢をゆっくりと打ち合わせ、拍手のような乾いた音を森に響かせていた

 そして嘲弄するような拍手の余韻だけを置き去りにするように丘の上の白い影がふっと掻き消え、一帯を覆っていた粘りつくような魔素の圧力が、潮が引くように霧散していく。


「……消えた……?」

 カイルが虚脱したようにその場にへたり込んだ。

 キャンプ地は2つの遺体をのぞいていつもの夜の情景を取り戻した。パチパチと熱く爆ぜる薪の音。薄く立ち上る煙。


「矢部さん、ボブ……」

 レイジは遺体の前に立ち、沈痛な表情でその名を呼んだ。

 昨夜、確かに言葉を交わしたゴンの仲間の二人だった。熟練の探索者ダイバーであったはずの彼らが無残な姿に変わり果てている。

 レイジはあえて遺体には触れようとはしなかった。

 獲物を値踏みする猟犬のようにゆっくりと周囲を回り、至近距離からじっくりと観察する。

 

「……橋広さん、九条くん。遺体を調べるのにあなたがたの目が要る。残った痕跡から奴について知りたい。なんでもいい」

 呼ばれた二人は顔を強張らせながらレイジの傍らに立った。

 各々呼吸を整えどうにか平静を保とうとしている。


「……今更だがこういった死体を見たことは?ダンジョンでの人死は経験があるという話だったが」

 レイジは一応の気遣いをみせた。


「どうもここまで大変な状態になっているケースは初めてですが……そんな事を気にしている場合ではありせんね。きみは大丈夫かね、九条くん?」

「問題ありません、と言えれば良かったのですが正直、手が震えています……ああ、彼らは直接見るのは初めてですね」


 アメリやリヒト、モモナたちは、精神的ショックが大きすぎてろくに動くことすらできない。比較的平静を保っていたミレイが、過呼吸に陥りかけたアメリの背をさすり、彼らの精神的なケアに回った。


「見てください……致命傷とポージングに必要なもの以外の損壊がありません」

 九条が、震える指先で遺体の肩の関節を指した。


「関節を外すことなく骨格の可動域を理解した上で枝を差し込んでいる。これは解剖学的な知識に基づいた固定です。そして……この首筋を見てください。噛み痕がありますが、肉を食いちぎるためではなく頸椎を固定するために甘噛みするように加減した跡がある。……まるで、壊さないように細心の注意を払ったような」

 九条の指摘に、教授もまた屈み込み、遺体の損壊状況から個体のサイズを割り出そうと目を細めた。


「……掴み跡の幅から逆算すると、掌の大きさは成人男性の二倍近い。指の数は四本……。久間川さん、先程丘の上に見えたシルエットと、このリーチを照らし合わせてみてください」

「あの体格で、この腕の長さか」

 レイジは、自身の巨大な手と、遺体の両肩に残された痣を比較した。折れやすい鎖骨も無事。


「丘の上では、体長は二メートル半から三メートル近くに見えた。この内出血痕の濃さと、枝を服ごと貫通させているところからみてそうとう力がある。そのうえなかなか器用な奴だ。サイズとパワーから考えると大鬼オーガに近い」


「……恐ろしい。薪の折り方、灰の散らばり方……火を起こしたのは間違いなく奴です。火を恐れないどころか、その利便性と『人間を誘因する効果』を理解し利用しているとしか考えられません。それとこの遺体の出血量ですが……明らかに残存する血液量が少ない。死因は頸動脈破断による失血死とみられますが吸血するタイプでなければどこかで血抜きをしたのではないでしょうか……死体を長持ちさせるための処置ですよ」

 なんてことだ、と教授が、焚き火の跡を精査しながら声を震わせた。

 レイジは無言で友人の遺体に残った手がかりをなぞるように視線を動かした。


「人間並みの知能があると想定するべきだな。……いや、獲物の心理を理解して利用するという意味では、それ以上の狩人かもしれん」

「あの強力な魔素操作エーテルコントロールと、この知能――最悪の組み合わせです」


 九条が、両手で顔の下半分を覆うようにして呻いた。

「どんな『応用』をしてくるか、見当もつかない。そしてあきらかに――楽しんでいる」


 そのとき、鋭い悲鳴が遺体を囲む三人の耳を打った。カイルの声だった。

 すぐさま駆け戻ると、カイルは完全に腰を抜かし目をいっぱいに見開いて唇を震わせながら固まっていた。

 アメリ、ミレイとモモナはその姿に困惑し顔を見合わせている。

(なんだ?他の者は反応していないようだが……)と訝しむレイジの姿を認めると、カイルは泣き出しそうな歪んだ表情でゆっくりと腕を上げ、石で組まれたかまどを指し示した。

 まさかゴンさん――最悪の予想。覚悟を決めて指の先に視線を向ける。

 そこにはこの場にいる誰よりもレイジにとって見慣れたものがあった。


「バカな」それきり何も言えず、沈黙する。

「久間川さん、いったいなにが――」

 絶句するレイジが凝視するものを橋広と九条が見た。

 怪訝な表情を浮かべ、そしてそれがなにかを理解すると同じように言葉を失った。


 適応型同期通信方式《ASCOM》ノード。

 ASCOMネットワークを構成する全長60cmほどの六角柱型中継機器ヘックスキャニスター

 その外装が()()、傷つき凹み、中身が抜き取られた状態で並べられていた。

 剥いだ生皮を並べるように。


 自分たちはあの怪物に通信圏外に追い込まれた?とんでもない勘違いをしていた。

 そんな生易しい状況ではなかったのだ。


「――久間川さん、一応訊いておきますが……」

 橋広は両手で頭を抱え、髪を掻きむしるようにして言葉を絞り出したがレイジの返答は残酷なものだった。


「……もとからここに設置されていたのか、という話なら――ありえない。設置個所として不適当すぎる。複数となればなおさらだ。干渉して機能不全を起こす」

「なんてことだ……」

「あの、先生、久間川さん、どういうことですか?」

 アメリが最悪な状況を理解してしまった男たちに不安げに問う。

 蹂躙された文明の残骸を睨みながらレイジが答えた。


「奴はほんとうに学があるってことだ」


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