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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0095 嵐の兆候

 マックス・ハリストン大統領は、自分の胃と心臓の健康と引き換えに、この予算案を通して良いものかどうか、悩んでいた。幾ら世界一の貿易大国と雖も、この予算を通せば、民需は圧迫され、官僚は軍部を呪って福祉政策を削り、苛税にて民衆は政府を憎悪するだろう。

 マリネス級大型空母40隻、他にも戦前より起工していたものも含めると、大型戦艦10隻、他の補助艦艇も含めると、数百隻にも及ぶ大艦隊整備計画である。マリネス級空母は、突貫作業にて設計を済ませて、搭載機数100機で最高速度32ノットと言う高性能を達成していたが、その代わり、「魚雷1本で沈没するぞ」とか、「爆弾2発で大破炎上するぞ」とか、色々と「防御面に難あり」と言われていたが、40隻と言う「数の暴力」に物を言わせれば、押し切れるはずだ。

 因みに、このマリネス級空母だけでなく、航空機運搬用の小型の護衛空母も倍の数は建造する予定である。勿論、積み込む艦上戦闘機、爆撃機、雷撃機まで全部造る。機銃弾、爆弾、魚雷も。金、金、金、途方もなく金がかかる。

 クソ、昔の戦争の方が楽では無かったのでは無いか。「騎兵」と「戦姫」と「巨神」で戦っていた頃、必要なのは血と剣だけであった。そして、ある程度血が流されたら、その時点で継続不可能として和平交渉になっていた。今の戦争は、兎に角、「金」がかかる上に、「王の一存」で止められない。

 国防省から示された書類には、他にも超大型四発爆撃機の注文も加わっている。これは戦前から試作が繰り返されて、これから工場のラインが動き出そうとしていた頃である。その大型爆撃機も、1500機が注文されている。防御力も高く、飛行能力も優秀、故障も少ない、ビーニング32爆撃機と呼ばれる、海軍の御用達企業ゲラマン社と同じく、お得意先であり、相互信頼も分厚い。


 先ずメリー姉さんことメリー・マステアが取材に来たのは、「世界最大・最高の製鉄所」「世界一の兵器廠」「世界有数の工廠」と呼ばれている、4大湖周辺の工業地帯である。これらの工廠が、今は24時間体制で全力稼働で動かされている。

 比較的北部に、「同盟軍」の前進基地に近い地域にある工業地帯であるが、今の所、爆撃を受けた事は一度も無い。助手のフェルニナ・ケールは隻眼・隻腕でも戦姫であるだけに、隻腕でも重たい荷物を持って歩けていたし、製鉄所の熱い空気の中でも平然としていた。

 製鉄所にて精製された鉄は、4大湖から主に東海岸に集中している造船所に大量に送り込まれていく。あるいは、隣接する工業地帯にて、飛行機の心臓であるレシプロエンジンになっていく。機体も同じ様に組み立てられていく。

 なる程、これならば負ける事は無いだろう。メリー姉さんは、1度助手と論争になったあの会話を思い返す。今の所のソメリト合衆国の戦局は、「敗色濃厚」であるが、此処で大量に造られている「鉄」が、全部最前線に現れたら、その時は同盟軍、世界中の列強が集まっても勝てないだろう。

 この日の取材で書いた記事の見出しは、「鉄の嵐が来るまでに」と言うものであった。それは、半分は同盟軍に向けた言葉でもあった。この「鉄の嵐」が荒れ狂う前に、願わくば戦争を止めてくれないものか。

 元々編集部より、「国内外向けのプロパガンダ記事を書け」と言う指示を受けての取材であったのだから、そう言う方向に内容が傾くのは当然であった。敵もまた、必死になって同じプロパガンダを繰り返しているが、今の所、最大の脅威はメリスト連邦王国とダロス皇国である。前者は優秀なエンジンメーカーを多く抱える技術立国、後者はそれに匹敵する技術立国であり、世界で唯一の実用ジェット戦闘機隊を組織して、北ソメリト戦線にて、合衆国の爆撃機を次々と撃墜している。機甲ロボも優秀で、1対5の数的優位に立てなければ逃げた方が良いと言われている。

 人的動員についても、ロッシナ連邦とクァンタム共和国が続々と兵士を送り込んでいる。この「鉄の嵐」が世界で吹き荒れる瞬間、世界中が「メイド・イン・ソメリト」の砲弾や爆弾であらゆる建物が吹き飛ばされているに違いない。そうなったら、今度はこちらの資本で、自分達の造ったインフラやビルを作り直す羽目になる。

 そうなったら、世界で唯一の大国と呼ばれる国は、ソメリト合衆国だけとなる。暦も変わるのではないか。さしずめ、合衆国暦なんてどうだろうか。いや、そいつはまだ楽観視し過ぎだ。単純に鉄量だけで戦っていたら、同盟軍にだって勝機はまだある。しかし、この規模の兵器の発注の予算が、良くもまぁ議会を通り、大統領のサインを頂けたものだ。お上も、ここが踏ん張りどころと心得ているつもりらしい。この鉄量が実際に戦場に現れたら、その時は同盟軍の最期だ。

 それは分かっている筈だ。連中の軍部だって馬鹿じゃない。こちらの鉄量を承知した上で、それが前線に出る前に始末してしまおうと考える筈だ。

 であれば。こう言う事になるのではないか。であれば、追加の攻勢計画をたてて、実行に移るのは同盟軍側ではないか。

 メリー姉さんは、その話をフェルニナにすると、元戦姫は自分の私見を述べる。

「案外、もう検討段階に来ているかもしれませんね。開戦してから半年以上経ちますが、北ソメリト戦線は南下できていません。レイド・サム公国海軍の動きも止まっています。何処かでまた別の攻勢計画を立てないと、と言う焦りは勿論、持っていると思います」

「じゃあ、これからもっと死ぬわね。人的資源が持つかしら」

「そこも勿論、同盟軍側も考えているでしょうから、やっぱりメリー姉さんの言う通り、追加で攻勢計画を立ててるでしょう。長期戦の泥沼につかったら危ないのは、この国も同じです」


 あの「鉄の嵐」が吹き荒れるのは、そう遠い未来では無い。素人目に見ても、ざっともう半年か1年程度の時間が必要であろう。その間に、同盟軍が更なる攻勢計画を立ててきた場合、軍はどうするつもりであろうか。特に海軍は、ようやく2隻の空母が戦列に戻ってきている。これから先、どう立ち振る舞うかで、ソメリト合衆国の命運が決まると言っても良いだろう。

 気が付くと、フェルニナは自分の給料で初めて買ったカメラで、思案に耽るメリー姉さんの横顔を撮影していた。

「物思いに耽る姉さん、良い顔ですね」

 無駄にフィルムを使うな、と言うべきか。あるいは、あくまでも私物のカメラでフィルムなのだから、寛容な態度を取るべきか。メリー姉さんは少し悩んでしまっていた。


マックス・ハリストン大統領は、早速胃と心臓がキリキリと痛んでしまっていた。例の大軍拡の予算を通してからと言うもの、官民一体でこちらに集中砲火を浴びせられている。こう言う時、「責任を取る」のが仕事なのであるが、誰かが代わってくれるのならば、今すぐにでも代わってもらいたいものだ。

 そんな中で、止めを刺すかのように大統領補佐官が国防省からの報告を伝えてくる。

「北ソメリト戦線にて、大規模な攻撃計画の兆候あり。注意すべし」

 注意すべし。と言われても、何を注意すれば良いのか。既に予備兵力なんて残されていないくらいに人的動員を行っているのに、これ以上に大統領が何をすれば良いのだ。当然、同じ報告は前線の軍にも届けられているだろうから、何をしろというのだ。

 まさか。また人的動員、徴兵を行えというのか。冗談じゃない。このままでは、女子供に工場で武器を造らせる様になるに違いない。それでも、何かやれと言うのであれば、結局それしかないのではないか。

 マックス大統領は、天に祈る。頼む、勝ってくれ。あるいは、大した攻勢では無くて、情報が間違っていておくれ。総力戦になれば、ソメリト合衆国一国でどうにか出来るのは、せいぜい3年程度だ。それを超えれば、財政破綻で国が立ち行かなくなる。

 頼む。勝ってくれ。あるいは、間違いであってくれ。マックス・ハリストン大統領は祈った。


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