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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0093 肉が切られて骨が残る

 聯合艦隊第1航空艦隊は、マッドネリー諸島の近海に、ソメリト合衆国大海洋艦隊の生き残りと思しき艦隊の存在を察知していた。そして、その陣容を見て戦慄を感じていた。識別表とは姿が様変わりした旧式戦艦が6隻、戦前の識別表と同じままの4隻を取り囲む様にしている。

 その様変わりした旧式戦艦は、あろう事か主砲を下ろして対空砲を増やしている、と言うのだ。それと、偵察機を追い払うべく飛んできた戦姫の数が異常であった。敵は稼働空母が無い状態を、水上戦姫部隊で補うつもりなのか。

 それはレイド・サム公国海軍では、悪手であった。一昔前の7.7ミリ機銃であれば、戦闘継続は可能であったが、今は12.7ミリ、あるいは20ミリ、一部のキワモノでは37ミリだの30ミリだのを積んでいる。一撃で身体が粉々になって死ぬ。と言う研究発表が出ており、それは軍から支持を受けていた。

 せめて、機甲ロボや巨神の援護さえあれば別の話であるが、戦艦と合同は難しい、否、不可能である。ましてや、速度の遅い、早くて25ノット程度の重たい図体を抱えた戦艦では、共同作戦なんて出来ない。

 戦姫はそれで良いとして、6隻の防空戦艦を抜けて、どうやって4隻の戦艦を沈めるのか。戦艦相手に戦艦をぶつけるべきであると言う意見がある。その為に、6万トン級戦艦「さらと」を引き連れてきたのだ。

 航空攻撃で、4隻の無改造の戦艦を沈めて、防空戦艦6隻を火力のある戦艦で撃破する。それしか無い。それで充分であると判断されていた。


 メリー・マステアは、基本的に人を好きにはならない。好きであれば、従軍記者にはならない。もっと後方で人情話でも取材している筈だ。でも、他人から好かれるのは別に普通であった。

 フェルニナ・ケール。戦姫としては、まだ新兵に近い。実戦はこれが初めてである。同僚や上官からも可愛がられていた。力はまだまだ未熟だが、満ち溢れんばかりのやる気と、そこから来る愛嬌が、周囲の人間の保護欲を駆り立てていた。

 旧式戦艦「アステア」は、4隻の40.6センチ砲搭載艦を守るための捨て駒である。他の5隻も、同じ様に捨て駒である。水上戦姫部隊も、規模を大きくして艦隊防空の一翼を担わせているが、何処までやれるか。ソメリト合衆国海軍は、まだその解答を得ていなかった。

「メリー姉さん」

 フェルニナは、彼女をそう呼んで、その周りを花にまとわりつく蝶の如く飛び回った。「メリー姉さん」と言う呼び名は、瞬く間に戦艦「アステア」に広まっていき、艦長ですらそう呼んでいた。フェルニナ・ケールがどうしてメリー・マステアを「姉」と慕うのは、何故なのか。1度、腰を据えて話した時、彼女は屈託の無い笑顔で答えた。

「だって格好良いもの。ジャーナリストは世の中を変えられるのよ。私の剣よりも、ペンの方が強いのよ」

 そこまで言われると、悪い気はしない。メリー姉さんは、このフェルニナとのお喋りについて、悪い気はしていなかった。「戦姫」の家系に産まれた女は、皆戦う「運命」にある。それを言うと、フェルニナ・ケールは答えて曰く。

「「運命」なんてものじゃないわ、これは「呪い」よ。私は、カメラマンになりたかったのよ。それも、映画界のカメラマンでは無くて、動物や山、海、日常、何でも撮りたい。私、戦姫としての役割を終えたら、カメラマンになる勉強をしていきたいわ。もう誰が何と言おうとも、私は将来の夢を諦めない」

 そう語るフェルニナ・ケール戦姫軍曹の視線は、遠い未来を見つめていた。しかし、その頃には既に聯合艦隊第1航空艦隊の6隻の装甲空母から飛び立った戦闘機、爆撃機、雷撃機、合計すると150機余りの航空機が、水上戦姫部隊の警戒網に入り込んでいた。


 レイド・サム公国海軍の実証実験は、真実であった。20ミリ機関銃の爆裂弾で撃たれたら、戦姫であろうと身体が砕ける。戦姫の方が身軽である筈だが、後を取られたら全速力を出して逃げの一手を打たれる。

 次々と身体を砕かれていく戦姫達を尻目に、爆撃機や雷撃機が艦隊に向かっていったが、その前に6隻のハリネズミの針から一斉に火を噴く。


 一連の防空戦を見て、メリー・マステアは、臍を噛む。まさか、誉れ高い戦姫があんなに無力なのか。矢張り、戦闘機には戦闘機で対抗しなければ、話にならない。科学技術の進歩は、いよいよ持って戦姫の立場は弱り続けていた。地上は機甲ロボを、空は戦闘機に奪われると言うのか。

 それでも、防空戦艦6隻の対空砲火の防壁は分厚かった。確認できた50機の爆撃機、30機の雷撃機の大半を撃ち落としていた。こちらの損失は、艦隊にこそ現れなかったが、唯一の防空戦力としてあてにしていた戦姫部隊は、投入した総戦力の半分が死傷していた。


「えへへ、やっちゃった。もう2度と剣が握れない」

 メリー姉さんは、これまであまり他人を好きにならずに生きてきた。恋だって、あんまりした事がない。そのメリー・マステアが、生まれて初めて他人の為に涙を流していた。右腕を失い、左目を潰され、もう戦姫としては勿論、兵隊としても使いものにならない。傷痍軍人となったのだ。あとは年金で細々と暮らしていくしか無い。

「でも、これでもう、親に戦姫を続けたくないって言えるわ。生きてさえいれば、まだ右目と左腕があればカメラは使える」

 フェルニナ・ケールの包帯塗れ、血塗れの身体を、メリー姉さんは抱き締めた。


 聯合艦隊第1航空艦隊は、余りの大きな犠牲に今後も作戦を続行するべきかどうか、議論になっていた。敵の防空戦艦6隻の火力による嵐は尋常ではなく、マッドネリー諸島の航空隊を始末するのに必要な航空機を確保出来ない。

 矢張り、装甲空母と言うのはリスクのある代物であると言う事実を、彼らは噛み締めていた。搭載機数が少ない分、攻撃力も不足しがちになる。飛行甲板に装甲を張り巡らすのは、別に邪道と言う程ではないが、機数を増やすのにはより大型にするしかないらしい。

 では、このまま戦艦同士で撃ち合うか。いやいや、相手は旧式とは言え10隻だ。こちらは11隻、そして同盟国であるメリスト連邦王国海軍の戦艦が2隻、ついてきている。しかも、こちらには最新鋭の戦艦であり、現時点で世界最大の戦艦があるのだ。負けるものか。

 後方に、本土にある「聯合艦隊幕僚本部」からは、まだ何も言ってこない。既に無線で状況は報告しているのだから、何かしら連絡が来る筈だ。なのに、まだ沈黙を守ったままだ。


 一方のソメリト合衆国大海洋艦隊は、水上戦姫部隊の余りに大きい犠牲を前にして、既に敗色濃厚と言う状況に陥っていた。矢張り、戦姫が戦場での勝利の女神であった時代は終わりを告げたのだ。幾ら常人を遙かに超える力を持つと言えども、20ミリ機関銃の爆裂弾を生身で受ければどうなるのか。口紅みたいな銃弾である。避ければ良いと言われそうだが、撃たれていたら何発かは当たるのだから、避ければ良いと言うのは落石に対して両手で自分の身体を庇おうとするのと同じである。

 しかし、防空戦艦6隻の活躍は目を見張るものがあった。そのお陰で、4隻の40.6センチ砲搭載艦は守られた。それでも、敵よりも数が少ないだろうが、苦戦・激戦は覚悟の上である。


「メリー姉さん、撮影は良いの?」

「もう画になる写真は撮影したから、それに、今のあなたを撮影しても、軍が検閲するでしょう。後方の戦意を削ぐとしてね」

「私達、半分近くやられちゃったわね」

「仕方が無いわ、私達の軍はこうなる事を予期できなかったのでしょう」

「でも、これから戦艦同士の撃ち合いになるのかしら」

「レイド・サム公国海軍の装甲空母は、頑丈な代わりに搭載できる飛行機が少ないからね。マッドネリー諸島の基地航空隊を排除するのには、ある程度の航空機が絶対に必要だから、もう空母はあてにしないでしょう」

「メリー姉さん、もしこの船が沈んだら、私が助けてあげる。空を飛ぶくらいなら、まだ出来る」

「戦艦が沈む攻撃を受けたら、私達も死んでいるわ」


 と、こんな悲愴な会話が交わされている中で、「聯合艦隊幕僚本部」は、苦渋の決断を下していた。

「全軍撤退」

 聯合艦隊第1航空艦隊は、戦闘機こそ残されているが、爆撃機と雷撃機を対空砲火で手酷く叩かれており、敵艦隊にかすり傷1つ与えられなかった。

 戦艦を相手に戦艦をぶつけるのも悪くは無いが、こちらの勝利を確信出来る程の戦力差では無い。まだまだ緒戦なのに、貴重な新型戦艦を傷つけるわけにはいかない。そんな意見が「聯合艦隊幕僚本部」にて支配的になっていた。

 結局、聯合艦隊は引き返した。


 帰港後、グレイス諸島の病院にて引き取られたフェルニナ・ケールは、戦傷により軍籍から外れる事になっていたが、メリー姉さんは編集にかけ合っていた。

「彼女をアシスタントとして雇いたい」

 と言う話であった。国防省が何か文句をつけてきそうであったが、意外と文句は出てこなかった。むしろ、奨励しているとも言えた。絶好のプロパガンダ、宣伝・広告になる。敵弾にて傷痍軍人になりつつも、前線にて働き続ける戦姫が居る。今回の戦法の失敗、水上戦姫部隊を戦闘機にぶつけて大量の戦傷者を出した事実を伏せる為にも、それが必要であった。


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