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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
最終章 テラース最終戦争篇
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0090 真実の価値

 ソメリト合衆国の民衆は、ラジオ放送にて、その戦争の始まりを知っていた。それから数日後の号外にて、キリト国に進駐していた「同盟軍」が南下、合衆国本土へと攻撃を開始した事実を伝えていた。

 民衆は、自分の土地が直接戦場になると言う恐怖と、自国の軍隊への期待とが、アンビバレントとなって自分の感情をかき回していた。合衆国軍は2,3年前から徴兵制を行って人的動員をかけていたが、それでも世界が敵だ。どうする、勝てるのか。世界を相手に戦って、勝てるのか。

 この状況下に置いて、一番脅えていたのは、この国のリーダー、マックス・ハリストン大統領であった。まさか、国防省から何度も警告は受けては居たが、本当に戦争になるなんて思ってもいなかった。しかも、陸伝いにキリト国から攻めてくるなんて、これも警告は受けていたが、現実になるとは思わなかった。

 マックス大統領は、とんでもない時期に大統領職に就いたものだと、自分の「運命」を呪い倒していた。ここで弱気になってどうする、お前は大統領なのだぞ。そんな声が胸の底から湧いて出て来たが、戦場となっている北部の州から次々と届く報告は、戦況が楽では無い事を示していた。

「防衛線を突破されている。応援を求める」

「包囲下に置かれた。援軍を求める」

「戦局、われに利あらず」

 次々と齎される「敗報」について、マックス大統領は、頼りになりそうな人間を頭の中で探し求める。だが、まだ選挙に勝ち、就任式を終えてから1週間程度しか経っていない。オマケに今回が初当選である。殆どコネも無ければ、頼みになる部下も居ない。こう言う時、一番当てになる筈の大統領補佐官だって、かなり混乱している。

 誰か、誰か居ないのか。この危機を救える人間は。マックス・ハリストン大統領は、自分こそが合衆国を救う人間だ。と言う程の自我を、まだ作り上げられずにいた。せめて、侵攻があと1年遅ければ、そこまで自信に繋がる経験を積む事が出来ただろう。

 それでも、虚勢だろうとハッタリだろうと、民衆向けには格好良い振る舞いと、相応しい態度を示さなければならない。その程度の義務感は保つ事が出来ていた。だからこそ、民衆向けにラジオ放送にて演説を行わなければならない。これも仕事だ。マックス・ハリストン大統領、否、マックス・ハリストン、一世一代の名演説にしなければ。


「我が国は、その歴史上初めて、自国を戦場とする戦いを強いられてります。同盟国は一国も無く、我が国はこれまでにない程の困難を迎えており、しかも現状、改善の見込みはありません。我々は、これから多くの物を失うでしょう。しかし、我々はこれまでより多くの物を作り上げました。我々は勝ちます。如何なる犠牲を払おうとも、我々はより多くの物を作り上げました。我が国は、世界で一番豊かな国です。我々は勝てます」


 メリー・マステアは、バフェルト州の軍事基地にて、負傷兵と共にそのラジオ放送を聞いていた。後に伝説となる女性記者は、この放送を聞いて、声が震えているのを感じていた。それはそうだ。自国の領土に他国の軍隊が攻めてこんでいるのに、冷静でいられる人間なんて、そいつは10年に1人の逸材だ。

「こいつの演説通りなら、まともな援軍が明日にでも届く筈なんだがな」

 そう言う機甲部隊のパイロットは、被弾の際に破壊された部品が破片となって身体に突き刺さった状態にて治療を受けている。基地には、被弾して壊れた戦闘用機甲ロボがゴロゴロと転がっている。中には修理可能なもの、あるいは直すくらいならば新品にした方が良いもの、様々な状態の機甲ロボが修理待ち、整備待ちで、メカニックマンが血眼になって指示を飛ばしまくっていた。それはまるで、無茶なスケジュールで納品を急がされているデスマーチに放り込まれた様な惨状である。

 西海洋艦隊は、ヴィクター大陸列強国と、キリト国派遣軍との補給線を断とうとしているが、なかなか上手くいかない。この惑星「テラース」に置いて、潜水艦という兵器は、その実用性を示せずに潰えていた。

 出来上がりたての潜水艦は、それまでの海軍の在り方を全て変容させると期待されていたが、水上戦姫部隊による対潜警戒網を仕掛けられたら、潜水して身を隠すより先に戦姫の攻撃で沈められてしまう。潜水艦に戦艦と同等の装甲なんて装備できない。戦姫が見つけ次第、体当たりなり斬撃なり加えれば、あっさりと沈んでしまう。

 その為に、現状では制海権を得るには艦隊決戦しかないと言う状態であった。西海洋艦隊は、同盟軍艦隊に対して艦隊決戦を仕掛けて、これを殲滅しなければならなかったが、そんなに大海戦の機会なんて転がってはいないのだから、今の所は、陸軍に頑張ってもらうしか無い。


 メリー・マステアは、次は海軍の取材にでも行こうかと思っていた。西海洋艦隊のマーポート軍港も良いかもしれないが、グレイス諸島のダイヤモンド湾にて待機している大海洋艦隊にでも取材に行こうか。同盟軍の中には、大海洋を挟んで睨み合っている東アスラン大陸の列強国、レイド・サム公国の連合艦隊がある。それだけで、同盟軍艦隊の3分の1を占める大艦隊である。

 その連合艦隊は、今何処で何をしているのだろうか。開戦から暫くして、何一つ動いていない。いや、動いていないのでは無く、動きが見えられないと言う事は無いだろうか。こちらの目が見えないところで、何かしら良からぬ事を考えているのではないか。

 メリー・マステアは、急ぎ本社に電話を繋げてもらう。


「ええ、これからグレイス諸島に飛びたいんです」

「ダンスでも踊ってココナツミルクでも飲むきか」

「いえ、ですが、大海洋艦隊と連合艦隊の一大決戦が見られる可能性があります」

「……お前、どの筋からその話を聞いた?」

「いえ、ただ、そんな気がして」

「そうか、それでだがな、今国防省の海軍部署が騒いでいるらしい。レイド・サム公国に潜入させたスパイからの報告では、どの軍港にも連合艦隊の船が、空母が居ないらしい。残っているのは古い戦艦と巡洋艦程度らしい」

「……まさか、ダイヤモンド湾に攻めてくる、なんて言うんじゃあ」

「お前もそう思ったんだろう。グレイス諸島では、戦艦を先に避難させて、最後に空母を逃すらしい」

「それって、逆じゃ無いですか」

「そうかそうか、お前も最近流行の飛行屋か。戦艦よりも飛行機の方が強いというのか」

「それもありますが、今2正面作戦を取られたら、幾ら世界一の経済大国に成長したこの国も、かなり苦しい立場に置かれませんか」

「せめて、何処かしらの列強が支持に回ってくれれば良いんだが、如何せんえげつない商いで敵を作りすぎたな。まぁいい、その場はテリーに任せるから。お前はグレイス諸島に取材に行け」


 受話器を置いた時、基地の近くで爆発が起きたらしく、轟音と爆風と悲鳴が同時に響く。どうやら、敵弾を受けて不時着したレシプロ機が爆発したらしい。

 戦姫部隊も、あんなに美しかったのに、戦地から帰ってきたら、心も体もボロボロになって戻ってくる。なかには、心が完全に壊れて戻ってくる戦姫も居る。

 誰も彼もが、プロパガンダで都合の良い事しか言わない中で、この光景だけが、真実を物語っていた。その点については、メリー・マステアも思わずにはいられない。自分の撮影した写真も、都合の悪い部分は修正を喰らうし、記事にする上でも編集のチェックが入る。

 それはつまり、この世に真実を呼べるものは無く、この世に生きる生き物全ての目と頭と言うフィルターを経ている以上、「客観性」だの「正当性」だのは報道に求めるのは、世の中に「正義」を求めるのと同じである。

 では、なんでメリー・マステアは記者の仕事を目指して、実際に就いたのか。それは、自分の手で世界を変えられる職業は何かと考えた時、ジャーナリストが真っ先に思いついたからだ。自分の書いた記事が、あるいは写した写真が、世の中を変える。メディアの力を信じている、と言うよりは、メディアより強い力はこの世には無い、と言う認識に近い。

 要するに、メリー・マステアのジャーナリズムとは、「真実を伝える」ではなくて、「世の中を変える」点にあった。即ち、純粋なエンターテイメント、サービス精神を動機づけにしたものである。


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