0089 世界の覇を賭けて
旧式戦艦「アステア」の甲板にて、36.8センチ砲3連装砲の隣に立ちながら、その女性記者は天を仰いでいた。「アステア」は、この戦争、テラース最終戦争にて最も活躍した軍艦の内の1隻となった。それは、主砲の半分を下ろして対空装備を増やして防空戦艦に仕上げて、当時絶対的に不足していた空母の穴埋めの為に、戦姫を多く乗せられる様に改造したからである。
メリー・マステア。彼女は自分の相棒であるカメラを持ちながら、天を仰ぐ。多くの地獄を見てきた。英雄なんていなかった。軍服を着ていなければ、「悪魔」と見分けが付かなかった。東アスラン大陸で、大海洋で、西海洋で、ヴィクター大陸で、そして、自分の領内にて、世界中でソメリト合衆国は戦ってきた。合衆国暦と言う暦も採用されたが、それはこの惑星「テラース」にて唯一残された文明国が、このソメリト合衆国のみとなったからだ。
テラース最終戦争。それは正しく、この惑星にて「頂点」を決めるべく戦われた、全世界対ソメリト合衆国と言う構図の戦いであった。圧倒的経済力にて世界征服を目指していたソメリト合衆国に対して、世界中の列強国が「武力」でもってそれを阻止しようとしたこの戦いは、「最終戦争」と言う名に相応しい規模で行われた。
合衆国暦。この暦の名前に、メリーは居心地の悪さを感じていた。なる程、これからはソメリト合衆国の時代だ。しかし、この暦が未来永劫続くとは、到底思えなかった。この惑星「テラース」の人類が滅びるまで、合衆国暦が続くという保障は何処にも無い。
メリー・マステアは、初めての女性戦場記者として、デイリー・ステート新聞社から派遣された先は、同じ大陸にある北の隣国、キトラ国の国境線であった。
「テラース最終戦争」の兆候は、キトラ国へのヴィクター大陸の列強国が続々と軍隊を派遣し始めた所から始まっていた。元来、「孤立主義」を掲げて、「血は流さないが商いはする」と言うスタンスでもって次々と世界中の市場を支配していたソメリト合衆国は、それと同時に「怨み」と「憎しみ」も買っていた。
後に伝わる「同盟軍」は、こうして組織されていた。このままでは、「テラース」に流通する商品全てが「ソメリト合衆国」の印付きになってしまう。
だからと言って、戦争になんかならないだろう。と、世界中の人間が楽観的になっていた。「盤土戦争」と呼ばれる戦争では、戦争には多額の金がかかる事、そしてその負担に市民が耐え抜けない事を証明している。そんなリスクを負ってまで、戦争なんてしやしない。キトラ国への軍の派遣も、恫喝以上の意味はあるまい。
当時はまだ新人で、まだこの仕事で給料を貰えていないメリー・マステアは、それが文字通り「楽観的」な判断であると気が付いていた。
国境線沿いにある、「同盟軍」基地に集められた軍隊は、「恫喝」なんて生温い目的の為に集められたとは思えない陣容である。大量の機甲部隊、戦闘機、戦姫部隊、巨神部隊、それに歩兵、そして積み上げられた補給物資。全てが、「本気」である事を示していた。
他の記者仲間もまた、同じ意見であった。ありゃ本気だぜ。「恫喝」の範囲を超えている数だ。揃っているのも、最新鋭の武器ばかりだ。あれはダロス皇国空軍が、世界に先駆けて実戦配備したジェット戦闘機じゃないか。うちの軍隊で、あれに勝てる戦闘機なんてあるのか。つい最近、正式採用されたシューティング・イーグルくらいじゃないか。軍事機密で詳しいデータは知らないが、数で押せばどうにかなるだろう。なぁ、メリー、お前はどう思う?
「隣接する州に対して州兵の動員が始まっている、と言う噂が流れているわ。噂であれば良いけど、もし本気であれば、お上もいよいよもって本気でやるつもりだわ」
州兵か。あれは使い物になるのか。旧式の機甲部隊に飛行機で何が出来るのか。
「3日前、私はこの州の州兵の基地に取材したけど、装備は全部最新鋭のものに更新されていて、目下の所、訓練中だったわ。それに、この2,3年で国防費は2倍、3倍に増やされている。建国以来最高の好景気にあるから、国防費も増えるのは自然の摂理だけど、それにしても増えすぎよ」
て事は、やっぱり起こる訳か。
「今後の惑星「テラース」にて、ソメリト合衆国の国運を賭けた世界大戦が始まるわね」
じゃあ、そろそろここからお暇しなければな。「記者」の腕章がある限り、「マーベリスト条約」にて捕虜にはならない。だが、銃弾から守ってくれるわけでは無い。命あっての物種だ。お前もそろそろ帰る準備でもしておけ。
「……ちょっと待って。あれって、野戦重砲よね」
ああ。それがどうした。
「砲身があがっているわ」
……そうみたいだな。あれだけじゃないな、全部の重砲が砲身をあげているな。
「逃げましょうか」
ああ、そうしよう!
それから数分後、キトラ国に進駐していた「同盟軍」は一斉に南下、支援砲撃と航空支援の元、機甲部隊、戦姫部隊、巨神部隊が、ソメリト合衆国本土へと雪崩れ込んでいた。
今後の惑星「テラース」の権益を賭けた泥沼の戦争の始まりであった。




