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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第5章 盤土戦争篇
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0087 敵影無し

 海は広いな。大きいな。

 聯合艦隊は、様々な形で、その事実を噛み締めていた。この広くて大きな海に置いて、敵を探し出して戦うのが、如何に困難なのか。海戦を行うのに、何処でどうやって戦うのか。こちらの思惑通りに事が運べば、否、相手の思惑通りに事が運んでも、どちらでも奇跡そのものである。

 堀本之キリコ戦姫曹長は、無線機を背負いながら、「聯合艦隊幕僚司令部」の座間之タカノリ代表が桒島沖を通るのには、絶対にこの航路を通るとされている海域の上空にて待機していた。因みに、水上戦姫部隊には他にも重要な役割が幾らかある。波も穏やかで、ユッタリした光景が広がっている。

 その「天気晴朗にて波静か」と言う海原に、幾筋もの煙が見えていた。これは、軍艦の煙突から出てくる蒸気機関の排煙である。間違いない。あはは、間違いない。本当だ。あのやり手独走エリートマン、本当にロッシナ連邦海軍ヘルベドット艦隊の来るコースをあてやがった。

「敵艦隊発見。現在、桒島海峡に向けて接近中。現在の天候、天気晴朗にて波静か」


 聯合艦隊旗艦「むらせ」にて、キリコ戦姫曹長の無線報告は受けていた。波静かならば、桒島海峡の物理的封鎖は可能だ。こいつは良い、良い傾向だ。

 現場監督の任に就く第1艦隊司令官松斗之カミグサ大将は、艦橋にて自分の周囲に並ぶ部下達の顔を見る。自信のある表情なんて1個も無い。全員、不安や恐怖で染まりきっている。それは自分も同じだ。誰か代わってくれないだろうか。

 そんな自分にも言い聞かせる様に、カミグサ大将は叫ぶ。

「訓練通りに、訓練通りに動け! そうすれば勝てる、簡単じゃないか、やれば出来る!」

 座間之タカノリ代表。海軍省の事務次官を引っこ抜いてきたエリート官僚は、とんでもない才能を示した。あとは現場の細かい指示はこちらが出さなければならない。やれば出来る。

「A旗をマストに掲げろ」

 それは、「公国は貴殿の勇気を欲する」と言う、メリスト連邦王国海軍の英雄の名文句を真似た意味の旗だ。飛鳥乃シゲノリ作戦大尉は、その旗を見上げながら、波が静かなら、何とかなるかなぁ、くらいには考えていた。あとはカミグサ大将の采配に任せるほかない。


 ヘルベドット艦隊の上空に張り付いている水上戦姫部隊は、無線報告にて次々と敵情を知らせてくる。

「敵艦隊は陣形がバラバラで、桒島海峡の突破を図っている」

「敵戦力は戦艦8隻を中心とする大艦隊である」

「このまま前進を続けたら、真っ正面からぶつかる形となります」

 松斗之カミグサ大将は、双眼鏡にて敵艦隊との距離を測る。まだだ、もう少し引きつけないと、こちらの砲弾が当たらない。週7日休み無しで猛特訓した結果、判明したのは「近づかないと弾は当たらない」と言う厳然たる事実である。

 そうこうしている内に、敵が先に撃ち始めた。酷い砲撃だ。狙って撃ったのであれば、より酷い砲撃だ。矢張り、距離を詰めなければ、当たるものも当たらない。それでも、敵も撃てば撃つほど、狙いが正確になってくる。何時だ、何時「砲撃開始」を命じるのか。餌の前で「お手」「お座り」「待て」と来て、これ以上何を要求するのか。

「全艦隊一斉回頭、砲撃開始」

 そう命じる頃には、もう砲戦距離としては接近戦と言わせても良い距離まで詰めていた。


 砲戦は大成功だった。

 7隻の戦艦と7隻の巡洋艦による丁字戦法は8隻の戦艦を主力とするロッシナ連邦海軍ヘルベドット艦隊を、散々にうちのめしていた。この時代の戦艦を沈めるのには、戦艦の主砲でさえ困難、いや、不可能であった。それでも、レイド・サム公国海軍聯合艦隊の砲弾は悉く敵戦艦に命中、なかには本当に沈むのでは無いかと思う損傷を負い、炎上する戦艦もあった。

聯合艦隊の主力、第1艦隊と第2艦隊の丁字戦法と正確な砲撃を前にして、ヘルベドット艦隊は隊列を乱した、と言うよりは、隊列を崩して個々の艦の判断で桒島海峡の突破を図ろうとしていた。となれば、もう戦艦も巡洋艦も、舞台の演目は終わりだ。後は第3艦隊、駆逐艦と水雷艇による雷撃戦である。


 どうにか、凌いだ。

 ヘルベドット艦隊の8隻の戦艦のセーラー達は、そう思いながら、其処彼処にて燃え上がり、焦げて、焼け爛れた自分達の周りを見舞わしながら、良くもまぁ自分が生き延びたものだと、天に感謝していた。

 もうそろそろ、陽も落ちる。戦艦や巡洋艦の、あの恐ろしい砲撃はもう間に合わない。あとは駆逐艦や水雷艇による夜戦襲撃だけだが、桒島海峡の突破は1隻、いや、2,3隻でも出来ればこちらの勝ちだ。

 艦隊を分散して、兎に角目的地であるミラジルスティク港に向かうべしとして分散した今、敵の水雷戦隊は、海峡としては狭いとは言え、海の上に散らばったごま粒の様な戦艦を全部沈めるなんて不可能である。


 全く同じ事を、聯合艦隊は想定していた。こちらの第3艦隊の駆逐艦、第4艦隊の水雷艇を全て動員しての夜襲作戦では、ヘルベドット艦隊の全てを海の底に引き摺り込む事は出来ない。幸い、「天気晴朗にて波静か」であれば、例の罠はちゃんと機能する筈だ。


 無線から次々と味方の艦艇からの「悲鳴」が聞こえてくる。

「敵雷撃を受ける。艦が傾いている。もはやこれまで。連邦万歳」

「敵駆逐艦に見つかった。振り切れない。応援を求む」

「敵水雷艇に包囲下に置かれている。これより突破を図る」

 助けてやりたい。出来れば、そこまで飛んでいきたい。でも、この戦艦はまだ無事だ。このまま桒島海峡を抜けて、味方の港まで一直線だ。他にも2,3隻は抜けるだろうし、損傷は港でなおせばすむ。勝った。

そう思った直後、戦艦の船底から突き上げる様な衝撃が感じられた。こいつは、機雷だ! 気が付いた頃には、艦に穿った大穴から大量の海水が流れ込んで、暗い闇の海の中に全てを呑み込んでいった。


 念の為に、桒島海峡の出口付近の上空にて待機していた水上戦姫部隊からの無線連絡が、海戦の終わりを告げる。

「目標は完全に殲滅。周辺海域に敵影無し」

 後に言う、「桒島沖海戦」は、ここに終わったのである。


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