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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第5章 盤土戦争篇
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0082 身内の争い

 「揚水」会戦と後世に呼ばれる戦いに置いても、宿狩港の五〇五高地攻防戦と同じ問題が発生していた。先ず、砲弾の使用量が想定を遙かに超える量で増えており、既に1ヶ月分の砲弾を1日で消耗する勢いである。

 ロッシナ連邦陸軍も撃ち返してくるが、どちらが先に砲弾の在庫が底を突くのか、この砲弾1発で牛の肉がどれだけ食えるのか、思い悩みつつも、レイド・サム公国陸軍の砲兵は、野戦砲でもって「揚水」を攻撃し続けた。

 五〇五高地にて大活躍したと言う「機甲部隊」は、今「盤鉄」にて輸送中という話である。あの神話的な逆転劇は、既に公国陸軍の間では勿論、連邦陸軍の中でも語られている。その代わりに、こちらに配置されたのは「機関砲」と言う新兵器である。威力は兎も角、使い方は訓練をして覚えている。後は実際に使ってみるだけだ。

 味方の砲撃が止まる。遂に砲弾が尽きたのか。あるいは、あまりの消耗量に耐えきれずに作戦班が支援砲撃を止めたのか。どちらにせよ、味方の砲撃が止んだのは確かだ。それに合わせて、「揚水」の城塞から、赤い絨毯が視界を埋め尽くす様にこちらに迫ってくる。

 「紅熊騎兵隊」だ。遂に、あの「世界最強」と言われる巨大な熊に跨がった騎兵隊が、こちらに向かってきているのだ。こちらの騎兵隊、機甲部隊はまだ輸送中。砲弾は弾切れ。最後の頼みに出来るのは、開戦前に大急ぎで輸入した、この「機関砲」だけだ。

 まだだ。まだ引きつけるんだ。輸出してきた国の軍の教官が言うには、あまり引きつけなくても威力は充分らしい。それでも、あんまり遠いと照準が甘くなる。歩兵部隊も、ボルトアクションライフルを構えて、狙いを定める。

 まだ、まだだ、もう少し、もう、今だ。


 それは五〇五高地の様に、今後の戦争を変える光景であった。騎兵隊と言えば、陸軍の花形、陸戦における切り札、戦いの要、男の子の憧れであるが、その騎兵隊が、銃弾の雨霰の中で、次々と毛深い皮膚を貫かれて、身体に大穴を開けられて、次々と「盤土」の冷たい大地の上に斃れていく紅熊。そして、それを相棒としている騎兵。

 「盤土」の土地が、血で汚されていくのを、公国陸軍は固唾を呑んで眺めていた。「機関砲」だけでなく、小銃隊も遠慮無く弾丸を使いまくっていたが、これも砲弾と同様、尋常では無い消費量を記録していた。公国陸軍兵士の足元に転がる空薬莢は、山脈の如く積もっていく。

 補給担当の兵士は、その光景を見て背筋が凍り付く。こんな贅沢な使い方をされては困る。軍隊だって予算で動いているのだから、ライフルも機関砲も、弾丸は1発たりとも無駄撃ちなんてしてはならないのだ。出し惜しみして、あの恐ろしい顎と爪で身体を引き裂かれるのは怖いだろうが、こんなに贅沢な戦い方を何時までも続けられる筈が無い。その内に限界が来る。

 紅熊騎兵隊は、仲間の骸を乗り越えて突撃してくる。「数」で押し切ろうと言うつもりらしい。対する公国陸軍は、あらん限りの火力でもって壁を作る。どちらが打ち砕かれるのか先か。


 この時、一番肝を冷やしていたのは、作戦班であった。補給計画については、もう破綻している。1ヶ月分どころか、半年分は撃ちまくっている。補給部門の中には、匙を投げる奴も出て来た。好きにしろ、次の補給が来るかどうかは知らん。その気持ちはよく分かる、自分が同じ立場でも、この豪勢な使い方を見たら臍を曲げる。苦労して持ってきた銃弾や砲弾を、こちらの財政も知ったこっちゃないと言わんばかりに湯水の如く消費している。

 「紅熊騎兵隊」が大きな犠牲に耐えかねて踵を返して「揚水」に引き返した頃には、既に大地は一面の死体と骸が転がっている、地獄絵図であった。


 「盤鉄」にて「揚水」に近い駅で降ろされた時、飛鳥乃マツカゼ機甲大佐は出迎えの伝令から、細かい事情を聞かされていた。

「砲弾・銃弾不足が深刻である」

「敵の戦意はまだまだ衰えるところを知らず」

「敵に打撃を与えたものの損失の割合はごく一部」

 そら来た。絶対に言われるだろうと思っていた、「弾薬不足」が、遂に表面化してきている。「紅熊騎兵隊」を退けられたのだって、半分は「運」でしかない。五〇五高地攻防戦の様な一方的な展開を期待されているらしいが、こちらとて無敵の超兵器に乗った歴戦の勇者ではない。ましてや、「弾薬不足」なんて、こちらではどうにも出来ない。

 五〇五高地攻防戦にて、主役を張った第3軍が、未だに「揚水」での戦いに参加できないのは、矢張り「弾薬不足」が原因である。海軍がやったとされている「組織改革」、あれは陸軍もやるべきでは無いか。そんな声すらあがっていた。今のままの態勢では駄目だと言うのは確かであった。

 無論、軍の組織は勿論、国内の軍需産業についても、そしてその基礎体力となる工業化についても、色々と反省すべき点がある。この「戦闘用機甲」だって、全部輸入品である。自前で造れる様に、国産化に向けて動かなければ、国防上の問題となる。輸出入に頼っていたら、いざその国々との関係が悪化してしまったら、その時点で終わりだ。

 飛鳥乃マツカゼ機甲大佐は、諸々の思念を抱えたまま、複雑な気持ちで野戦陣地に向かって、二足歩行機構に箱を載せて大砲を積み込んだ風体の「戦闘用機構」を歩かせた。


「なんだ、あれが五〇五高地で大活躍だった機甲部隊か」

「「二足歩行の棺桶」なんて言われていたのは、もう昔の話だからなぁ。これからは、新しく陸軍の花形になるだろうよ」

「巨神部隊と戦ったら、どうなるかね」

「どうだろうなぁ、今は勝てないだろうが、将来的にどうなるのかなんて、誰にも分からないからなぁ」

「これからも、どんどん新しい技術が産まれてくる。10年、いや、5年も経てば旧式のポンコツになる未来だってあるんだ。あの紅熊の様にな」

「そいつは、あんまり嬉しい未来像ではありませんね。その内、人間様だってお払い箱ですよ」

「良いじゃないか。人が死なない戦争なんて、最高じゃ無いか。毎回こんな地獄絵図になっていたら、戦争が終わる前に、大人の男が1人も居なくなっちまうぞ」

「本当、未来の人間は楽が出来るでしょうね」


 時期尚早。

 作戦班が下した決断は、そうであった。このまま全軍突撃を命じても、弾薬不足にて犠牲の多い白兵戦となる。「人的資源」の損失は穴埋めが出来ない以上、補給を待った方が賢い選択であった。

 これに一番切歯扼腕したのが、大本営である。この戦争は電撃戦であり、短期決戦の筈だ。それをダラダラと補給を待って敵陣の前でゆっくりしているのは、何とも許しがたい傾向であった。

 矢張り、今のままの大本営態勢では限界がある。いっその事、大本営システム自体を全面的に見直して、陸軍も海軍がやり切った改革を行うべきでは無いか。それで補給体制の見直しや、海軍との協調路線も上手く行くのであれば、今すぐそうするべきである。

 向こうは、「聯合艦隊幕僚本部」は官僚から優秀な人材を引っこ抜いて、後方からの命令や作戦案を現場に伝えて、軍人に実行させるシステムを構築している。最初は国内の商社、つまり民間から優秀な人材を引っ張り出すつもりだったらしいが、宜しい、こちらは民間から引っ張り込んでやろうでは無いか。公国陸軍は、海軍よりも柔軟で臨機応変であると、つまりは話の分かる優秀な組織であると証明する絶好のチャンスである。

 「陸軍幕僚司令部」。それが、新しく作られた組織である。と同時に、産まれたばかりの大本営は事実上その実体を失っていた。司令官に選ばれたのは、国内有数の大手商社から引き抜かれた女番頭、橘之ナナミである。

 この陸海軍の「競争意識」は、より率直な表現を使えば「縄張り争い」は、この頃より始められていた。海軍が官僚の事務次官なら、陸軍は大手商社の女番頭。こんな部分で争っているのだが、この争いはテラース最終戦争まで続く。


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