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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第5章 盤土戦争篇
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0080 最大級の人的損害

 宿狩港の505高地での戦闘の結果は、レイド・サム公国大本営を揺るがしていた。先ず、「新時代の騎兵」とされた「機甲部隊」の威力が証明された。「二本足の棺桶」と揶揄されていたが、今回の戦で晴れて「勝利の女神」として認識される事になった。お陰様で、当初は激しい消耗戦が想定されていた宿狩港制圧作戦は、必要最低限度の人的損失にて成功した。

 と、良い報告は此処までであった。次に示されたのは、支援砲撃にて消耗した砲弾の数であった。この戦争を通じて使用すると想定していた数の砲弾が、たった1度の支援砲撃で使い果たされたのだ。お陰で、第3軍の砲兵隊は事実上戦闘力を失っており、補給されるまでは第3軍は投入出来ない。「揚水」に進軍中の第1軍、第2軍、第4軍の砲兵隊が、同じペースで砲弾を用いた場合、軍の予算が、否、国の財政が傾くレベルで金がかかる。

 であればこそ、シー・レーン、海上輸送路の安全が最優先である。だからこそ、505高地の制圧は最優先事項であった。宿狩港を見下ろせる、絶好の観測地を手に入れたのだから、港内に引き籠もっている大海洋艦隊は、これで終わりだ。

 と思っていたら、その直後にとんでもない報告が、近海にて展開している聯合艦隊から齎されていた。

「ワレ ロッシナ連邦大海洋艦隊ト交戦状態二入レリ」


 水上戦姫部隊からの無線報告を聞いた旗艦「むらせ」の艦橋では、切迫した議論が始まっていた。

「あいつら、こっちに向かっているのか! 何で陸軍は奴等を港内に居る間に撃たなかったのか!」

「戦力比が1対1とは言え、奴等を1隻でも逃したら、秋唐半島と本国とのシー・レーンが危険に晒される。やるしかないだろう!」

「だが、ここで犠牲を出せば、後詰めのヘルベドット艦隊と戦う際により不利になるぞ!」

 聯合艦隊司令長官、聖人之カツマタ大将は、その中で、作戦班の事実上のリーダーである飛鳥乃シゲノリ作戦大尉に意見を求める。

「やるしかありません。戦いましょう。連中は港から出て、他の港に行く事だけを考えているでしょうから、いけます」


 堀本之キリコ戦姫曹長は、上空から見るロッシナ連邦大海洋艦隊の陣容を眺めて、1つの気付きを「むらせ」に無線で報告をおくる。

「敵艦隊は陣形がバラバラです。秩序だった艦隊を組んでおりません。戦艦の隣に水雷艇、駆逐艦が殿になっている状態です」

 そのキリコ戦姫曹長の報告が齎されたのは、いよいよ敵艦隊のマストを確認して、そろそろ砲戦距離まで詰めてきたと言うタイミングであった。


「キリコ戦姫曹長の報告は確かだな。ありゃ酷い陣形だ。取り敢えず急いで北の港のミラジルスティクに逃げ込みたいという腹だろうが、あれじゃあ組織だった戦闘にはならないだろうなぁ」

「大丈夫だ、いけるぞ! 砲戦用意! 丁字戦法だ、散々訓練したのだから、いつも通りにやるぞ!」


 七・七艦隊、戦艦7隻、巡洋艦7隻を主力として、駆逐艦21隻、水雷艇44隻を持つ、列強が皮肉を込めて「借金艦隊」と新聞の一面に書いた、文字通り「借金」で主力艦艇を発注した艦隊は、この時、初めて大規模な艦隊決戦を行う羽目になっていた。

 丁字戦法、こちらが敵の頭を抑えて、こちらが側面を晒しつつも全火力を指向できる、公国海軍がロッシナ連邦海軍との戦いにて準備した戦法である。この日の為に、厳しい訓練を経てきた聯合艦隊のセーラー達は、こちらとほぼ同数の敵を相手に砲口を向ける。


「あら、やるじゃない」

 堀本之キリコ戦姫曹長は、思わず呟く。丁字戦法は大当たりだ。敵は組織的な抵抗が出来ないままに、新型の「下野瀬火薬」を用いた砲弾でもって、鋼鉄の城を燃やしていくその光景は、もし自分が男であれば興奮してしまうところであろう、良い光景であったが、残念な事にそれでも戦艦は沈められない。

 戦艦の主砲であっても、この時代の戦艦の装甲は撃ち抜けられない。やろうと思ったら、駆逐艦や水雷艇にて雷撃しなければ沈まない。無敵の海の王者である。その6隻の戦艦は、散々に撃たれつつも、沈まないままにどうにか宿狩港へと引き返そうとしている。他の小型艦艇は、次々と丁字戦法で散々に沈められている。

 こいつは完勝だ。自分の「男」である飛鳥乃シゲノリ作戦大尉もまた、今頃大喜びだろう。

 と、油断した直後に、旗艦「むらせ」に被弾の閃光が光る。あらら、死んじゃったかな。もう海戦がこちらの勝利に終わろうとしているタイミングで、何と間の悪い被弾であろう事か。


 旗艦「むらせ」の艦橋は大パニックに陥っていた。こちらにとってとびっきりの重要人物、聯合艦隊司令長官聖人之カツマタ大将の頭に、先程命中した敵弾の破片が、頭を直撃していた。衛生兵を呼ぶ声が飛び交い、聯合艦隊首脳部は大混乱に陥っていた。もしもう少し早い内に、この事態に陥っていれば、ロッシナ連邦海軍は一発逆転の勝利を飾る事が出来ただろう。

 飛鳥乃シゲノリ作戦大尉は、顔面蒼白になって、この物理宇宙から死後の宇宙へと旅立とうとしている司令官を見て、動揺を抑えきれずにいた。どうする、これからどうやって戦う。指揮官のいない軍隊なんて、山賊のそれである。


 この司令長官の名誉の戦死は、大本営に速報で伝えられていた。沈痛な空気の中で、先程の戦勝気分はアッサリと吹き飛んでいた。この「人的損失」の大きさは、果てしなく大きい。今は副司令官がその任に就いているが、そこまで信頼できる人材かというとそうでも無い。

 どうする。誰に任せる。敵の大海洋艦隊はどうにか処置できたが、敵にはこれと同規模のヘルベドット艦隊が残っている。次の海戦で、同じくワンサイドゲームを演じられるかどうか。

 ここが正念場だ。頼りに出来る人間を失って、尚も戦い抜けるかどうか。これから先、どうするべきか。何と運の悪い結果なのだろか。次はもっと「運のいい男」にやらせるべきだ。


 結局、黒焦げにされた戦艦6隻以下、数隻に至るまでうちのめされたロッシナ連邦海軍大海洋艦隊は、降伏という形で最期を迎えていた。黒焦げになった戦艦の其処彼処には、真っ黒に焼けた骸が転がっている、悲惨な姿を晒した上での敗戦である。

 しかし、彼らは「敵」に対して最大級の「人的損害」を齎した。その意味で、彼らは五分の星を残していると言えた。


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