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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第5章 盤土戦争篇
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0077 凍る大地で

 レイド・サム公国。そう名乗る島国が、惑星「テラース」のアスラン大陸の東端に存在していた。この40年の間に改革・開放路線を敷いて、ヴィクター大陸やソメリト合衆国が齎す最新の技術・科学・理論をスポンジが水を吸う様に吸い込んでいった。それは正に、新しい帝国の誕生を意味していた。

 その新帝国が覇を唱えんとする聖華大陸のより北から、もう1つの帝国がその前に立ち塞がっていた。ロッシナ連邦と名乗るこの帝国もまた、政情不安定・混乱の極致にある聖華大陸の権益を狙っていたのだ。

 新帝国と大帝国は、お互いに釣り糸を垂らして、聖華大陸の光王朝を狙っていた。どちらもそれ相応の餌を使っていた。新帝国は「大帝国からの保護」と言う餌を、大帝国は「今後の協商関係の構築」と言う餌を、それぞれ釣り糸の先につけられていた。

 ギリギリの交渉が続く内に、先に戦争計画を練り始めたのは新帝国側、即ちレイド・サム公国であった。聖華大陸から公国へとにょっきりと生えたキノコの様な形の半島、秋唐半島の先にある「盤土」と呼ばれる冷たい大地を確保して、今後の国防上の問題を解決する。

 ロッシナ連邦は、その公国の動きを知って、まさかと考えていた。確かに、かの国はこの40年で恐ろしい程、文明・文化を発展させ続けた。しかし、経済的にはまだ三流、軍事的にも二流である。別に驕りでは無い。それは事実であった。よって、新帝国はこの「盤土戦争」と呼ばれる戦争の最初から最後まで、「防衛戦争」と言う立場を取ることが出来なかった。

 希泉46年4月12日。レイド・サム公国海軍は、秋唐半島に存在するロッシナ連邦大海洋艦隊の軍港に向かっていた。宣戦布告は、無論まだ発していない。


 聯合艦隊作戦班の事実上のリーダーであり、大型戦艦7隻、巡洋艦7隻の「七・七艦隊」の頭脳として生きている、飛鳥乃シゲノリ作戦大尉は、夜の海を征く公国海軍の黒鉄の浮かべる城を見ながら、その周囲を飛び交う水上戦姫部隊も眺めていた。 

 元々、改革・開放路線前にも、公国には水軍が存在していたが、水軍は「男の世界」として戦姫を忌避する帰来があったが、それを思い切り無視して、シゲノリはこの部隊の編成を承認していた。

 その内の1人に、飛鳥乃シゲノリ作戦大尉の「女」が居る。籍には入れていない。シゲノリがその意を告げると、その「女」はアッサリと言い放ったのだ。

「夫婦なんて関係、信用出来ないね。愛人の方が分かりやすくて良い。お互いに、その方が良いでしょう」

 その「女」、堀本之キリコ戦姫曹長の言う事を聞いて、シゲノリ作戦大尉は思い至った。キリコ戦姫曹長には、父親が居ない。と言うよりは、分からない。複数の男性と関係を持っていた母親は、誰が父親なのか分からない娘を産んだ。しかも、結婚式をあげる2週間前に、だ。

 堀本之キリコは、この世の森羅万象全てを信用していない。ただ、事実のみ、結果のみを信じて生きてきた。戦姫の家系であるが故に、彼女は戦いへの道を自然と歩み始めていた。彼女が振るうサーベルは、正確無慈悲に、相手の命を奪っていくだろう。これまでも、これからも。


 一方、こちらはその聯合艦隊の別働隊の護衛によって秋唐半島に上陸した、惑星「テラース」の歴史上初めての機甲部隊である。飛鳥乃マツカゼ機甲大佐である。弟のシゲノリ作戦大尉とは違い、頭脳であり兵士でもある。しかし、マツカゼ機甲大佐が使っているのは、全金属製の二本足の怪物である。

 大砲を1門、二本足を生やした箱に前方に向けて積み込んでおり、他にも機関砲も2挺、箱に両手の如く取り付けられている。これにて、惑星「テラース」の男性は、戦姫よりも強い力を怪物に頼らずに手に入れる事が出来ていた

 しかし、問題が1つある。これが、人類最初の機甲部隊の実戦投入である。「テラース」の歴史上、何でも「初めて」と言うのは上手く行く事よりも問題点が多く見つかる事の方が多い。

 ロッシナ連邦もまた、この「機甲」に対して大いに興味を持っていたが、世界最強とされる「紅熊騎兵隊」が、その存在意義と軍内部の立場を賭けて、「機甲部隊」の創設を阻止しようとしていた。

 他にも、マツカゼ機甲大佐には不安がある。これから向かう戦場は、極寒の「盤土」である。そこに存在するあらゆる水分を凍らせる寒さの、あの「盤土」である。最新技術に有りがちな初期不良を抱えた中で、果たしてこの新時代の「男の武器」が何処まで戦えるのか。

 途中、「盤鉄」と呼ばれる鉄道にて輸送される事になっている、今の所は「鉄の棺桶」と呼ばれている機甲に乗り込む男達は、夜の秋唐半島をノッシノッシ、ガシンガシン、ギリッギリッ、等々の複数の金属音を響かせながら、自分達の新しい相棒を歩かせ始めていた。周囲を警戒する「戦姫部隊」からも、敵の気配は無いと言う。

 レイド・サム公国軍大本営の作戦では、この度の戦争は電撃戦であり、「盤土」制圧の為に可及的速やかに重要拠点を制圧していき、理想的には1年以内に戦争を終わらせる、と言うものらしい。


 そんなに上手くいく物か。

 飛鳥乃シゲノリ作戦大尉は、胸の内にて絞り出す様に、口の中で呟く。ロッシナ連邦が秋唐半島の北部に位置する宿狩港に配置された大海洋艦隊だけでも、こちらとほぼ互角、更に惑星「テラース」の反対側に位置するヘルベドット艦隊も同じだけの物量を持つ。つまり、戦力比は2対1。これ以上無いくらいの劣勢である。

 短期決戦。これまで誰もがこの無理難題に挑戦し、と言うよりはこのギャンブルに対する誘惑に負けて手を出し、悉く敗北の歴史を重ねてきたのだ。1年以内? 冗談を言ってもらっては困る。相手があっての戦争である。こちらの都合通りに動いてくれる確証なんて1つも無い。


 まぁ、何とでもなるか。

 マツカゼ機甲大佐は、呑気に構えていた。海軍にいった弟はどう考えているのかは知らん、知りたくも無い。向こうは海軍、こっちは陸軍、育成方針も違えば発想も異なる。その畑違いの人間達を一束に纏める為に考案されて組織されたのが大本営である。連中がしっかりと責任のある作戦指揮をしてくれたら、あるいは勝てるかも分からない。

 でもまぁ、こんな無謀な戦争を始めた政府閣僚は、負けた場合の責任の取り方だけはしっかりと考えておいて欲しいところだ。それが戦時内閣の仕事である。実際に戦うのはこちらに任せてもらって、軍・官・民でのトラブルの解決や説得に専念してもらえれば有り難い。

 自分達の生殺与奪は、大本営の聯合作戦部の作戦班と、その提案に可否を与える司令官の手の中だ。「運命」を相手にして戦う場合、何処まで最善を尽くせたかで、生死は決まる。「運命」に勝ちたいと思ったら、そこまでやるべきなのだ。


 秋唐半島のロッシナ連邦大海洋艦隊の巡洋艦に、大型戦艦の主砲、20センチ連装砲が飛んでくる。紅蓮の炎を巻き起こし、そこにいた水兵を燃やし尽くして、砲弾にも引火して爆発が起こる。

 新技術である無線通信機を背負った戦姫が、上空より弾着観測を行う。一撃目を撃った聯合艦隊旗艦の戦艦「むらせ」に伝える。

「今の射撃、見事なり」

 この瞬間、「盤土戦争」が始まる。それは正しく、それから70年後に始まるテラース最終戦争にて主役となる、あらゆる兵器の実験場となる、ロッシナ連邦と他のヴィクター大陸の国々との代理戦争の始まりであった。



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