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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
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0075 首都決戦

「なんなんだ、ここは!」

 マベルタ王国陸軍の兵隊達は、阿鼻叫喚の地獄絵図を描いていた。殺人要塞へと魔改造された百合の都、クァンタム共和国の首都・ハリスにて待っていたのは、十重二十重に準備された罠と防御陣地であった。

 街の中心に行けば行くほど、激しくなるマスケット銃の弾丸、大砲の砲弾、地上で戦う事を強要された戦姫達の剣や斧、槍による斬撃。奥へ行けば行くほど、密度が厚くなっていくのを感じる。次第に1歩進む度に味方の骸が数体必要な事態となっていくのを感じて、恐怖していた。

 このまま都の中心街まで進む内に、皆殺しの目に遭う。冗談じゃない。元々3カ国で1国を包囲して殲滅すると聞かされていたのに、ここまで壮絶な消耗戦なんて想像もしていなかった。敵は3手に分かれて、戦力を分散して来ると予測して、最初から3分の1ずつに戦力を分けて迎撃してくる。その過程で敵は兵力を分散してくるから、その隙に各個撃破を行って、首都・ハリスを突く。それが作戦班の描いていたこの作戦、暗号名「DECIDE YOUR DESTINY」の青写真ではないのか。

 それが、現実には敵は首都に立て籠もり、そして首都は殺人要塞へと魔改造されており、1歩進む度に損失が増える事態に陥っている。

 もう駄目だ。ここから先、進んでも辛いだけだ。急いで退散するべきだ。誰もがそう思った時、後ろから満を持して、と言う調子でその背中を軍狼部隊、それに角騎兵隊が猛烈な勢いで追い上げてくる。

 街道全てから、次々と敵がやってくる。そこを命からがら抜け出せそうに思えた時、出入り口には巨神部隊の群れが、殺人要塞・ハリスの周囲を取り囲む様に待ち構えていた。巨神は次々とマベルタ王国陸軍兵士を踏み潰していく。


 レオポルド・ヴァスチーユ少将は、外へと命辛辛逃げてきたマベルタ王国陸軍の敗残兵を見てから、自分の作り上げた殺人要塞に積み上げられた骸の山へと目を向ける。あそこで転がっている骸は、もしかすれば数日後の自分達の姿かも知れないのだ。一応、立場としてはヴァスチーユ軍の指揮官でしかないが、この場での作戦指導もまた、完全に任されていた。

 本来ならば、そんな越権行為は有り得ない。しかし、勝てる奴の指揮の下にて戦いたい、あるいは話の分かる上司の下で働きたい、と言うのは理解しやすい感情である。こう言う決戦であればこそ、臨機応変な対応が出来ていた。

何としても勝たなければならない。そして、何としても殺されたくない。その意識さえあればこそ、出来るだけ見込みのある人間の指示通りに動く。動きたい。動かなければならない。


「マベルタ王国陸軍、惨敗」

「百合の都は、殺人要塞に」

 その報は、メリスト連邦王国軍には勿論、ロッシナ連邦軍にも届けられていた。この先、このまま進んでも良いものか。重大な判断をする為の、この時が唯一の、そして最後のチャンスであった。

 しかし、そのチャンスは遂に訪れなかった。メリスト連邦王国軍が、殺人要塞・ハリスを眼前にして逃げ出してしまったのだ。これ以上の人的資源の損耗は、王政を脅かすものであると判断した連邦王国は、軍そのものを撤退させてしまったのだ。

 それは、1歩どころか10歩は先へと踏み越えた正解に辿り着いていた。先だって10万の兵を失い、その内の3万は外人部隊として敵側についた。これ以上の人的損害は避けなければならない。

 ロッシナ連邦軍は、ダロス皇国の領内を許可を得て行軍中であったが、それを知っても足を止めなかった。何なら、メリスト連邦王国軍には昔日の面影は無い。これから殺人要塞・ハリスを火の海にすれば、クァンタム共和国も負けを認める筈だ。


「……で、次の作戦、どうなんだって?」

「それがよう、うちの総大将が言うには」

「……そいつは、過激だな。やり過ぎじゃないのか。百合の都、いや、この殺人要塞を、そんな形で利用するのが、本当に良策なのか」

「既に遷都は済ませているから、構わない。と言う理屈だそうだ。本当にやるつもりか」

「もう準備を始めているらしい。メリスト連邦王国は軍を引いちまったし、残る敵はロッシナ連邦軍だけだが、あいつら一国だけで50万は準備していると言う話だ」

「つまり、これさえ叩けば」

「ああ、これさえ叩けば、俺達の勝ちだ」

「でも、どうするよ。この作戦、上手く行けば良いけど、失敗したら野戦になるだろう。そうなったら、普通に数が多い方の勝ちだぜ。連中、50万だろう? こっちより多いんだぜ」

「だから、この手しかないんだろ」

「……ああ、じゃあ、やってやろうじゃないか」


 ロッシナ連邦軍が、クァンタム共和国の殺人要塞・ハリスに差し向けた軍隊の数は、58万。推定値よりやや上程度であるが、こう言う数字の予測は人のする事なので、大体当たるものである。

 そのロッシナ連邦軍は、殺人要塞へと改造されたと言う百合の都を前にして、1つの疑問にぶち当たっていた。人の気配がしない。偵察戦姫を送り込んでも、敵の姿が見えないと言う。一体何処へ敵が消えたのだ。

 であれば、ここで選択肢が2つになる。要塞を占領するか。あるいは外へと出た敵軍を求めて周囲を探るか。

 結果として、ロッシナ連邦軍は両方を選んだ。この強力無比な殺人要塞を頂戴しつつも、敵軍への偵察を行う。その為に、全軍を二手に分ける事を考え始めた時に、突然、魔狼の遠吠えが聞こえる。殺人要塞・ハリスの中でも、唯一手が加えられなかったマグドゥス宮殿の方角から聞こえる。そら、敵が居たのだ。何処に隠れていたのか、そうと決まれば全軍をあげて突入である。


「……点けろ」

「はっ」


 宮殿の目の前までやってきた58万の内、40万近くが、その大火にて燃やし尽くされていた。ここに備蓄されている油と火薬を用いて、殺人要塞・ハリスは自爆に近い形で炎上、かつて百合の都と呼ばれた殺人要塞は、攻めてきた敵軍諸共、炎の中で燃やし尽くされていく。

 その炎から逃れられたロッシナ連邦軍の敗残兵を取り囲む様に、伏せていたクァンタム共和国軍の姿が見えた。もうやる気なんてこれっぽっちも残っていない敗残兵には、戦って死ぬと言う選択肢は無かった。

 残されたのは、燃え滓と焼死体の山のみである。あっさりと殺人要塞を囮にして、これ諸共敵を炎上させる。結局、今回もまたクァンタム共和国軍は、損失らしい損失も無いままに圧勝してしまった。


 マグドゥス宮殿にて、「魔狼」の「アスカ」と共にその光景を見守っていたレオポルド・ヴァスチーユ少将は、そこで繰り広げられる地獄絵図を見守っていた。これが終わったら、戦争も終わりだ。そうなったら、何処かで「アスカ」と共に暮らそう。18歳で少将ならば、それでもう充分ではないか。


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