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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
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0070 屍山血河

 深く広く大きい河と、その河を渡るのに用いる唯一の橋。その橋の向こう岸にある古城。そこから考え得る状況は、睨み合いによる消耗戦である。大砲は河の向こう岸に届くが、橋の上で使うのは憚られた。砲撃で橋を潰してしまったら、本末転倒である。


「偵察戦姫によると、マンツェルン城に居るクァンタム共和国軍は、1個師団程度。周囲に伏兵と思しき敵兵無し。との事です」

 作戦班からの説明を聞いているセバスタン・フォン・カシミール大将は、一つの結論に至る。

「グラント橋を破壊せずにレーン河を渡るには、力尽くで無ければ駄目だ。幸い、今の所確認されている敵は1個師団。橋の上にて銃剣突撃、そして竜虎騎兵の突撃を繰り返せば、敵は消耗しきって、撤退するか、消滅するかのどちらかだ。しかし、こちらの兵站と予算が許す期限は、ざっと2週間だ。そうでなければ、大きく迂回して行く必要があるが、その時間の間に敵は態勢を建て直して、本格的な反攻作戦に入るだろう。敵が戦備態勢を整える前に、打って出る」

 セバスタン大将は、命令を下す。

「敵はたったの1個師団。どう足掻いても我々が用意した3陣の総軍と戦って勝つ事なんて不可能だ。地からは歩兵と竜虎騎兵で、空からは戦姫で、なぶり殺しにしろ。数の力を見せつけてやれ」


 妙な話になったものだな。メリスト連邦王国の貧乏貴族から「角騎兵」として陸軍に入隊して、このヴィクター大陸にて最も巨大な海洋国家として君臨している国に仕える身になったのだが、あんまりな上司のあんまりな補給計画に辟易として、彼がこの世で唯一信じている相棒、ユニコーンの「バスクル」と共に降伏した。

 どうせ仕えるのならば、自分の期待に応えてくれる有能な人間の方が良い。何時でも最大の敵は無能な上司だと言わざるを得なかった。それでも、「バスクル」と別れて生きる事は出来なかった。だからこそ、外人部隊の募集には即答で応募していた。「バスクル」と共に、大剣を振り回して戦うのが、「角騎兵」のあるべき姿である。それが、収容所にて臭い飯を囓る生活なんて、御免被る。

 例え、仰ぐ旗を変えようとも、着ている軍服が変われども、このキリングスト・メリーベル、「バスクル」に乗って戦うのが、人生最高の喜びなのである。


竜虎騎兵は、歩兵部隊が一斉に撃ち放ったマスケット銃の弾丸の嵐が収まったところで、怒濤の如くグラント橋の石橋を渡ろうとする。それに対するクァンタム共和国軍が出してきたのは、巨大な三ツ目の軍狼ではなく、鋭い角を額に生やしたユニコーンにて、長槍を構える角騎兵であった。

 グロス皇国軍は、1分ほど混乱するが、すぐに建て直して石橋を竜虎の巨大な足で踏み拉きながら駆けてくる。クァンタム共和国外人部隊として、これが最初の晴れ舞台である。美味しい食事、美味しい酒、そして安眠床での睡眠、これらの恩に報いるのに、これ以上の舞台があろうか。


 それは正しく、河を血で染める死闘であった。長槍を持ってユニコーンに乗った騎士、大剣を持って竜虎に乗った騎士。どちらもほぼ互角の力を持つ。その互角の力が、狭い空間にてぶつかり合うと、こう言う血で血を洗う光景を産み出すのである。

 槍で貫かれて、大剣で叩き斬られて、角で貫かれて、噛み付かれて、次々と橋の上からレーン河の美しい清流を真っ赤に汚していく。巨大なユニコーンや竜虎だけでなく、騎士もボタボタとレーン河に落ちていく。


 戦姫同士の戦いもまた、熾烈を極めた。マンツェルン城に籠城している外人部隊の戦姫達は、頑なに城外に出るのを拒否しており、地に降りて戦わなければならなかった。

 剣を、槍を、斧を振るって、地上にて戦わされるのは、戦姫にとっては自分の利点を完全に潰した上での不本意な戦いであった。


 以上の情勢を見つめるレオポルド・ヴァスチーユ軍狼中佐は、通訳兼副官のガスチーユ・ダコード作戦少尉に対して、各々の部隊に命令を伝えさせる。

「戦況我等に有利。より奮闘すべし」

 傍に居る軍狼「アスカ」は、目の前にて繰り広げられる血生臭い戦いを見つめつつも、主人の意志に従って、主人を守るべく傍らに立っている。


 現実、ダロス皇国軍は思っている以上の損害に「劣勢」を確信していた。この橋としては大きいと言えども、狭い石橋の上での戦闘は、迂回も包囲も出来ない、出来るとすれば突撃くらいである。

 時間もかかりすぎている。第1陣の圧倒的な戦力さえあれば、1個師団の傭兵程度は易々と突破できるはずであるのだが、この傭兵部隊は戦意旺盛、やる気は勿論、技術も高い。とてもではないが、2週間程度で抜けられるものではない。

 戦姫についても、その本領である筈の空中戦を封じられて、地上での戦いを余儀なくされている。それも上手くいっていない。むしろ負けている。

 クソ、戦場がこうも限定されてしまうと、幾ら数があってもこんなにも戦いづらいとは。2週間程度で抜けられるというのは、とんだ思い上がりであったらしい。もう少し、否、もしかすれば永遠に渡れないかも知れない。

 この橋は、あの城は、思っていた以上に硬い。こちらも何か作戦を考えなければ、この清流が何時まで経っても血で汚れたままである。

 その為にも、一時退却だ。お互いに支援射撃のマスケット銃の一斉射撃を最後に、この日の戦いは終わりを告げた。


「恐ろしい損失だぞ、1日でこんなにも被害を蒙ったのは、国家創立後では初めてかも知れないな」

 セバスタン・フォン・カシミール大将は、作戦班に嫌味の一つでもぶつけたくなって、事実ぶつけていた。冗談じゃ無い、たった1日にて発生した損失としては、大きすぎる。

 竜虎騎兵360騎、戦姫109人、歩兵89人。これだけの犠牲を払ってでも、橋の一つも取れないのでは、レーン河を汚しただけではないか。皇帝陛下に何と報告すれば良いのか。


 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼中佐は、外人部隊の犠牲を見て、なかなか良くやってくれたと感謝していた。角騎兵100騎、戦姫58人。歩兵11人。上出来だ。まだ1日目、約束の1ヶ月の内、まだ1日しか経っていない。

 あの手この手で、幾らでも攻めてくるだろうが、こちらもあの手この手を使わせてもらう。ここから先には、1歩たりとも進ませるつもりは無い。1ヶ月、持たせてやろうじゃ無いか。

 レーン河の魚は、暫く食えたものはなくなるだろうが、仕方が無い。


 キリングスト・メリーベル角騎兵は、「バスクル」と共に、酒と水を飲んでいた。今日一日だけで、どれだけ戦果をあげたか。暖かい食事と美味い酒との引き換えならば、決して赤字ではない。バスクルの身体を洗ってやり、秣を与えて、自分の身体も血を洗い出す。

 角はまだ折れていない。長槍もまだ傷ついていない。まだ戦える。最後の1人になってでも、一宿一飯の恩義に報いるしかない。もう祖国に帰れないな。仕方が無い。あのまま無能な上司の命じられるままに飢え死にを許容するくらいならば、祖国の一つや二つは捨てても構わない。なんだって生きてさえいればこそなのだ。

 明日からが、また楽しみだ。


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