表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
69/98

0069 皆で戦う

1個師団。わずか1個師団にて、一国の用意できる陸軍のほぼ全軍を相手に戦え、と言うのだ。しかもこの1個師団は、精兵と言うよりは降伏した他国の軍人を雇った傭兵である。外人部隊、ヴァスチーユ師団、色々と呼び名をこねくり回しても、要するに烏合の衆であるのには変わりは無い。

 だが、それを差し引いても、元メリスト連邦王国陸軍は良く訓練されていた。士気を保てるかどうかは、それ相応の待遇を用意できるかどうかにかかっているが、そこはクァンタム共和国の軍務省が責任を取ってやっている。

 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼中佐は、この師団で独りだけのクァンタム共和国軍人として、このメリスト連邦王国の元陸軍を前にして、通訳兼副官として宛がわれた、ガスチーユ・ダコード作戦少尉を隣に、訓示を垂れる。

「この数日の訓練、見事だった。我が国の軍隊にも匹敵するか、それ以上の技量を持つ者達であるのは、良く伝わった。しかし、敵はあの「鉄の国」、ダロス皇国の全軍である。我が国も急ぎ人的動員を進めているが、それが使い物になるまでの間、我々はこの「城」にて防戦を行う。それが我々に、ヴァスチーユ師団に課せられた任務だ」

 それが今回、クァンタム共和国戦闘省総合作戦本部の纏めた作戦案であった。今の所、首都防衛として動かせない第17軍と第9軍以外にも、兵役に耐える市民を動員して、訓練し、技術を磨けるまでになれば、もう寡兵にて敵軍とぶつかる必要は無くなる。その準備が終わるまで、捕虜の中から募集して雇った外人部隊、ヴァスチーユ師団によって、古城とされる、マンツェルン城にて敵軍を阻止せよ。兵站、弾薬、武器は1ヶ月の籠城に耐えられるだけの量を揃えた。後は天命を確信して奮闘せよ。幸運を祈る。

 何が幸運だ。馬鹿馬鹿しい。人的動員の行は本当だろう。だとしても、1ヶ月分の籠城に耐える、と言う事は、1ヶ月は最低時間がかかると言う事だ。これより長く事にはなれども、短くなる事は無い。下手すれば、部下達はダロス皇国に降るかも知れない。いや、降ると考えるべきだ。

 使い捨て。言い方は悪いが、そう言う事になる。果たして、この外人部隊に何処まで期待して良いのか。よく分からなかった。

 だから、訓示の最後に、優しい笑顔を浮かべて言う。

「皆で生きましょう」

 生きましょう。奇妙な言葉であった。本当ならば、上層部の作戦ミスで殺されるか、飢え死にするかの2択を迫られて、3択目の降伏を選んだ自分達に、生きましょうと言うのか。

 ……良いじゃないか。上等だよ。今回の戦いだって、生き延びてやる。逃げる奴が居たら、あの「アスカ」とか言う軍狼に食い殺されるのは分かっていた。あのマンツェルン城とか言う防御拠点にしても、そこまで信用出来る代物ではない。城攻めのノウハウは既に「要塞攻略戦」へと成長しており、安心材料としてはあまりにも脆すぎる。

白いユニコーンが、空に向けて嘶く。それが、外人部隊、ヴァスチーユ師団の心意気を示していた。


 第1陣の数は、クァンタム共和国戦闘省総合作戦本部が推測した通りであった。不明であるとされた第2陣の数も、度重なる戦姫による空からの偵察や諜報機関からの報告により見え始めていた。

「歩兵部隊4万5千、砲兵9千、戦姫部隊1万5千、竜虎騎兵2万、巨神部隊300」

 第1陣よりも多少は少なめであるが、それでも時間稼ぎを命じられたヴァスチーユ師団よりも圧倒的に多い。第3陣も似た様な陣容か、あるいはより強大な戦力であったとすれば、こちらも最大限ジタバタして、人的動員を急がなければ。

 クソ、何だってこんな時期に。この国の人口の過半数を占める農村での働き手を奪ってまで軍隊に動員しなければならないこの時期に。いや、この際、それを最大限利用した上での開戦であろう。メリスト連邦王国海軍による海上封鎖も、クァンタム共和国に対して一定の効果はあったものの、農耕国家として食糧自給率は高く、そこまで影響が与えられなかったからこそ、「対クァンタム同盟」の軍事介入への運びとなったのだろう。

 こちらの準備が整うまでは、古城のマンツェルン城にて1ヶ月、頑張ってもらうしか無い。ダロス皇国軍にとって、マンツェルン城の地政学的リスクは理解出来るところであろう。クァンタム共和国にて最も大きな河、レーン河の最大の橋の傍にあり、この最大の橋、グラント橋を通らなければ、大きく迂回しなければならない。船を運んでこなければ、橋が無ければ渡れないくらいの大きく深い河なのだ。

 

 ダロス皇国軍野戦司令部は、取り敢えず第1陣の侵攻を、そこで止めさせていた。レーン河のど真ん中を通るグラント橋の施工工事は、それだけで本が一冊書ける程の困難とスケールを誇っている。そのグラント橋を渡りきったところに、マンツェルン城がある。古城ではあるが、これでもクァンタム共和国がまだ王国だったり分裂していたりな時代で、何度も敵を退けてきた戦歴を持つ名城である。

 野戦司令部のテントを背にして、第1陣司令官、セバスタン・フォン・カシミール大将は、双眼鏡にてマンツェルン城を見る。その塔の頂きには、クァンタム共和国の旗が風に靡いている。奴等は、あそこに軍を派遣して、ここで時間稼ぎをするつもりだ。もし戦うつもりならば、あんな名城だが古い城に部隊を布陣させるなんて有り得ない。

セバスタン大将は、作戦班の面々に対して言う。

「さて、数は揃えた。補給計画も万全だ。あとは地の利の問題だ。そして、時間もそんなに長くは無い。悠長に籠城戦を行う余裕は、我が軍にも無い」

「しかし、地続きで、前線から後方への距離もそこまで長くはありません。あのマンツェルン城の収容能力を見込んでも、敵はザッと見積もって1万、1個師団程度です」

 作戦士官の1人がそう言うものの、セバスタン大将はこの楽観論を退ける。

「ゼハード海峡は狭い。何なら、ここから後方の補給拠点との距離と同じか少し遠い程度だ。確かに沿岸部に橋頭堡を築いたのは誤りであったが、我々が同じ轍を踏まないと言う保障は今の所は無い。運命という奴はな、何時でも我々の首に鎌の刃を突きつけているんだ。命が惜しければ、最大限度の努力と用心を心がけるのだ」

 セバスタン大将は、改めて命じる。

「我が軍にとって、最も犠牲を少なく、効率的な戦い方を考えろ。ここに居る1個師団で足踏みする程度の軍隊が、ヴィクター大陸にて覇を唱える資格が無いものと知れ。全ては皇帝陛下と、祖国の為だ」

 まだ士気も充分、やる気も充分、兵力だって充分、何も遅れておらず、何も足りている現状で、作戦班が戦意に欠ける筈もなく、意気揚々とテントに戻り、作戦図を広げてああでも無いこうでも無いの議論を行う。この時点にて、ダロス皇国陸軍には自分達が負ける可能性なんてこれっぽっちも考えていない。極端な話、この戦力比ならば馬鹿が指揮しても勝てる。作戦班も本来不要である。

 その活気の溢れる雰囲気に、思い切り水を差す音が轟く。大砲の音だ。それも礼砲だとか号砲でも無い。実弾を撃ち込んでいる。


「うーん、橋の近くに居る鉄野郎には当たったかな。もう少し照準を遠目に設定しないと」

「何だお前、やる気がないのか」

「ある訳無いだろう、これも食っていく為さ。何より、収容所で臭い飯を食って暇を持て余すよりもマシな事がしたいんだ」

「それで、いや、まぁいいか、もう1斉射するぞ。そしたら、一旦退避だ。ここで死んだら損だからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ