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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
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0066 幻の作戦

正直、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼中尉は、戦闘省の仕事についてそこまで信用していなかった。3個師団、なる程頭数は揃えている。しかし、軍装も武器もかなりガタが来ている。マスケット銃や大砲も、今では一線級とは言えない旧式も見受けられた。弾薬だって充分あるかどうか。

 それでも、これが精一杯だろう。東西南北に敵を抱えている状態では、これ以上の状態の良い3個師団を融通は出来なかっただろう。であればこそ、自分の思い通りの作戦が出来るに違いない。2線級の部隊であれば、大胆に使う事が出来るだろう。後ろから「あれこれ」と文句や注文を受けること無く、自由に使えるだろう。

 第8師団。第23師団。第7師団。これらを率いる中将、作戦班の代表である作戦士官にお目通りすると、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼中尉は自分で名乗ってからハッキリと言う。

「真っ正面からの力押しで勝てる戦力ではありませんね。これは」

「総合作戦本部のヤング・エリートは、頭数さえ揃えば安心してしまうものです。革命直後とは言え、もう少し戦備態勢にも本腰を入れてもらわなければ」

「仕方がありません、与えられた環境で全力を尽くさなければならないのは、メリスト連邦王国軍とて同じです」

「それで、レオポルド軍狼中尉殿には、何か腹案があるのですか。初陣であれだけの戦果をあげたのですから、もっと戦力があれば、もっと大きな仕事が出来ると思うのですが」

 そらきた。少ない予算で大きな仕事。初戦で寡兵にて大戦果をあげたのだから、今度はより大きい兵力で、もっと大きな戦果があげられるのだろう。そうで無ければ、お前は単に運が良かっただけの無能者だ。

 そんな嫌味が、この3人の中将と作戦士官の言葉の端々から感じ取れる。宜しい、その挑発、全力で受けて立とう。どうせ、何か失敗したりミスしたりすれば、責任は全部レオポルド軍狼中尉に負わせるつもりなのだ。であればこそ、こちらもこの3人の中将とその部下を良いようにこき使うことが出来ると言うものだ。

「では、本官が纏めた作戦案を示したいと存じます」


 敵は、大軍を共和国に上陸させて、一挙に首都へと向かおうとしているが、その兵站計画は半分が現地調達に頼っているだろう。海軍が通商破壊戦にて努力し続けてくれているが、相手は海洋国家である為、充分な護衛をつけられる事を考えると効果は薄い。

 我々は、敵の「前進部隊」こと「食糧調達部隊」を各個撃破していく。これにも充分な護衛をつけているだろうが、こちらは3個師団と本官の旅団、全てを一戦に投じて戦う。各地に分散して略奪行為をしている連邦王国軍を各個撃破していくのだ。もしこれに成功すれば、敵は飢え、戦力も削れる。一石二鳥である。


 メリスト連邦王国軍共和国派遣軍指揮官、クラスト・メイドリード元帥は、ゼハード海峡沿岸部に築いた橋頭堡となっている司令部にて、頭を抱えていた。

 今回、連邦王国がクァンタム共和国に侵攻させた総戦力は、3個軍。完全武装の12個師団の精兵である。その精兵を支える兵站は、半分が本国の倉から出されて、もう半分は敵国の倉から出される予定になっている。その為の「前進部隊」を各地に派遣しているのだが、これが悉くクァンタム共和国陸軍の餌食にされている。糧食は得られない、損失は増え続ける、全軍の士気が徐々に下がっている、正に負のスパイラルである。

 1度に3個軍も動かすとあれば、しかも海を越えさせたとあれば、兵站はより困難になる。だからこそ、軍務省には完璧な兵站計画を立てる様に要請したのであるが、海賊気分が抜けきっていないのか、あるいは農民からの反乱を恐れているのか、こちらが用意できるのは半分、残り半分は現地で調達せよ。と言うのは、あんまりにも雑である。真面目にやっているのかと、怒鳴ってやりたいのだが、そうすると「そこを何とかするのが軍の仕事だろ」と怒鳴り返されそうであるので、気が引ける。

 作戦班の士官や佐官も、顔色がさえない。矢張り、この状況の打開策が見えてこないのだろう。どの道、このままでは「敗走」する羽目になる。

 クラスト・メイドリード元帥は、作戦班に対して発破をかける。

「どうした、まるで葬式の様だぞ。まだ負けたとは決まっていないのだぞ」

 個人的に、半分ユーモアも含めたつもりだったのだが、滑り倒したらしく、作戦班の顔色はより葬式に近くなっていく。

「元帥閣下、申し訳ありませんが、このままでは派遣軍全員が飢えて墓場に葬られる直前の事態です。必要な糧食の半分がこちらに届いているとは言え、我が軍には錬金術師は居ません。1個のパンから2個のパンを作り出す魔法なぞ使えません。そうでなくても、食糧の貯蔵量は、もってあと4日と言ったところです。その4日の内に首都・ハリスを突いて、民主主義者を降伏させるのは困難、いえ、不可能に近いです。前進部隊が次々と各個撃破されている現状をどうにかしなければ、「対クァンタム同盟」による反革命闘争は大きく勢いを失います」

「つまり、如何しろと? まさか、このまま尻に帆をつけて逃げ出せと言うのか?」

「いいえ、戦力の逐次投入による各個撃破を終わらせて、全軍をもって首都・ハリスを目指すべきだというのです。悠長に兵站を現地調達しながら戦うのでは無く、4日で首都を落とすのです。食糧の現地調達はそれからやっても遅くはないでしょう」

「……それで、今の所、我が軍を翻弄しているのは何個連隊だと思う」

「連隊規模ではありません。恐らくは、3個師団でしょう」

「そこそこの物量を投じているな。ここから先、何かと楽しめそうだ。これまで我が軍を翻弄していた3個師団が、3個軍に対してどの様に抵抗してみせるのか」


 馬鹿か、こいつは。実のところ、作戦士官達は呆れ返っていた。3個軍の大所帯である。巨神部隊や砲兵は、そこまで機動力は高くは無い。つまり、先程の「首都直撃作戦」は、今回の出兵が完全に失敗したという事実を述べるつもりで言ったのであり、唯一の手段でも何でもない。むしろ、手段なんて無いと言いたかったのだ。

 3個師団。なる程、確かにこちらより寡兵であるが、1戦にて1撃で壊滅できれば良いのだが、出来なければ確実に時間切れだ。飢え死にか、殺されるか、どちらかしか残されていない。今の内に尻に帆をつけて逃げるべきなのだ。

 何が楽しめそうだ、だ。高みの見物のつもりなのか。人間、何が一番辛いのかというと、「飢え」が一番辛いのである。そこに想いが行かないというのは、貴族出身の元帥あるあるだ。クァンタム共和国の旧女王は、良い言葉を残した。「もう私が食べるケーキは無い」。いや、もう食わしてもらえるケーキが無いのだ。今度はケーキどころか、パンすら食えるのも怪しい3個軍、12個師団、約10万人の軍隊が、いい加減な兵站計画でもって敵地にて陣を張っているのだ。

 「飢え」は恐ろしい。「飢え」は人間を猛獣に変える。「誇り」も「使命感」も「節度」も、全部失うのだ。そんな猛獣が、武器を持っていたとすればどうなるのか。それこそ、見物であるとしか想えない。

 もう誰も元帥閣下は止められないだろう。約10万の飢えた兵隊がどうなるのか。軍務省の間抜けどもも1度思い知った方が良い。荒療治であるが、人間も組織も、1度地獄を見なければ学ばないものである。

 かくして、メリスト連邦王国軍共和国派遣軍は、全力を挙げて首都ハリスへの進軍を開始し、短期決戦を挑む形となった。短期決戦、これまで人類の歴史上、理想とされていた作戦であり、その度に失敗してきた作戦である。それはつまり、ご都合主義と希望的観測が作り上げた幻想に過ぎない。


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