表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
65/99

0065 天才の萌芽

 このヴィクター大陸にて、最も豊かな土地を持つ農耕国家とも言えるクァンタム共和国に置いて、兵站はどうやって確保するのか。別に悩む問題ではなかった。現地で略奪すればいい。この時代の「兵站」に関する認識はその程度であった。

 であればこそ、防衛戦争となれば、共和国側が絶対に優位を確保できた。自国の軍隊に食糧を提供するのは、そこまで抵抗する意識は湧かない。メリスト連邦王国陸軍は、海軍の支援の下に上陸して、豊潤な土地を練り歩いていた。

 そう言う時、現地住民が自発的に抵抗するのではないか。と言う感覚があるものであるが、民間での武装が珍しく、また武器になる農具も少ない時代にて、パルチザン闘争を市民に求めるのは無理がある。

 だからこそ、現地住民に協力を要請すると言っても、隠し場所を提供する程度のものでしかない。


 1人の敵の戦姫が、メリスト連邦王国軍の前に立ち塞がる。どう言うつもりでそこに居るのか。よく分からなかったが、こちらが動こうとすると、戦姫もまた移動する。戦姫には戦姫をぶつけるより他ない。前進部隊は、その持てる戦姫全てを動員して、これを追いかけた。今思えば、これが最大の、そして最初のミスであった。

 豊かな麦畑の中から、続々と隠れていたクァンタム共和国軍の戦姫が現れて、連邦王国陸軍の砲兵部隊に襲いかかる。急いで発砲準備に入るものの、この近距離で準備を初めても遅い。歩兵部隊がマスケット銃を準備して戦姫を迎え討とうとするが、その背後から巨大な三ツ目の狼、軍狼に乗った軍狼部隊が、巨大な牙と顎で歩兵部隊に襲いかかる。

 これに対して、一角獣、ユニコーンに乗っている「角騎兵」は、長槍を構え直して、どちらを援護しようか判断が遅れていた。その遅れている間に、矢張り麦畑に隠れていた歩兵部隊が、発砲準備を終えたマスケット銃を手にして現れて、デカい図体のユニコーンに次々と鉛玉を撃ち込み始めた。

 幸いながら、敵に「巨神」部隊は居ない。と言う事で、砲兵部隊は「角騎兵」に対して葡萄弾と呼ばれる散弾を発砲、あんなに優雅で優美で、見事だった軍隊はあっと言う間に無様な姿を晒す。

 囮に釣られた連邦王国陸軍の「戦姫」部隊が、自分達の過ちに気がつくのは早かった。大急ぎで引き返す。そうなると、待ち伏せしていた共和国陸軍の姿は即座に消えていく。戦場に転がっているのは、メリスト連邦王国軍の骸ばかりである。完敗だ。

 「前進部隊」、ではなくて、「食糧調達部隊」は、頭を抱えていた。無論、ゼハード海峡から輸送船団が必要な物資を運ばれてくるのだが、この大軍を維持するのには足りない。現地での「調達」を前提にした作戦計画なのだから、それが狂ってしまえば、戦う前に飢えて死ぬ。


 首都・ハリスの戦闘省の総合作戦本部では、作戦士官、佐官が侃々諤々の議論をしていた。まさか、「対クァンタム同盟」が、それもメリスト連邦王国がゼハード海峡を渡って攻め込んでくるとは、誰も想定していなかった。否、想定していた士官や佐官は居たのだが、ダロス皇国の方が脅威であるとする勢力に押し切られていた。

 全くもって油断していた、としか言い様が無い。ゼハード海峡にて警戒任務に就いていたのは、第11師団のみだ。しかも、これが弱兵の寄り合い所帯で、とてもではないが「世界最強の海洋国家」を相手にするのは無謀である。まともな神経をしているのであれば、時間稼ぎを行いつつ撤退戦を行うだろうと結論づけられていたが、その想定通り、少数の部隊が殿軍を務めつつ撤退をしている。

 それはそれで、総合作戦本部の面子を安心させていた。第11師団が、勇敢だが無謀な防衛戦を展開していれば、味方は敗北の事実を知って士気低下、敵は順調な勝利を飾って士気向上、と言う最悪な展開が待っていたのだ。何も猪武者になるのが「勇敢」の証明となるとは限らない。

 敵の「前進部隊」、もとい「食糧調達部隊」に対して演じて見せた一方的な戦いに対する評価については、総合作戦本部では「通常の措置」として受け止められていた。数的不利がある今、効率的に戦ってこれを覆すのには、兵科の相性に合わせて戦うしか無い。

 しかし、その「当たり前」が出来る人間は、実はそんなに多くない。仕事でも、勉強でも、遊びでも、正解と分かりきっていてもそれを選べない人間の方が多い。その原因で一番多いのが「感情」という奴である。あるいは、「環境」もあるかもしれない。

 では、その「正解」を選べた「優秀」な人材は誰なのか。調べてみて、その答えを知って、その時ようやくその場に居たヤング・エリート達は驚愕する。

 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉。昨年、陸軍幼年学校を卒業したばかりの17歳の軍狼少尉である。自分達より若くて、経歴もド素人同然で、まだ軍狼中隊を率いているだけの青二才がやったのか。

 こちらの海軍は、ゼハード海峡にて通商破壊戦を仕掛けようとしているが、そこは世界最強の海軍国、充分な護衛を配置するようになってからと言うもの、なかなか成果が上げられなくなっている。

 理想を言えば、この若き天才に1個師団、否、1個軍でも任せたいところであるが、少尉からいきなり将軍にまで昇進させるのはいくら何でも出来ない。それに、今は襟章の星や勲章よりも、援軍こそ欲している筈だ。もしこの軍狼少尉が「天才」であれば、同じ結論に至る筈だ。


「3個師団をこちらに増派し、尚且つ我々にも戦力を増派する。と言う話ですが、少尉殿、どうします?」

「素直に喜ぶべきね。巨神部隊さえ居れば、この間の待ち伏せ戦でも、もっと戦果をあげられたわ」

「軍狼1個大隊、砲兵3個大隊、戦姫1個大隊、歩兵部隊3個大隊、巨神1個小隊。これだけあれば、あの程度の敵軍は押し返せます」

「……楽観主義ね、それは。ああ、それと、本官は少尉ではなく、中尉に昇進したの。間違えないでもらいたいわ」

「はっ、申し訳ありません」

「次は「前進部隊」を増派して、こちらの戦法を真似してくるでしょう。同じ戦法をとったら、単純に兵力差が全てを決するわ。次はこの間の様な一方的な展開は望めないでしょう」

「……その、敵の「前進部隊」ですが、今は足を止めているそうです」

「うむ?」

「敵軍は足を止めています」

「……兵站が追いつかないのでしょうね。今頃、農民に剣や銃口を向けて、蔵の中にある大地の恵みを奪っているでしょうよ」

「野蛮人め」

「別に悪く言う事は無い。こちらの兵站態勢も同じだからね」

「それで、どうします?」

「どうもしない。奪う物が無くなったら、また南下しなければならない事実は変わらない。防御優位の法則は変わらないし、今度はこちらの後方には3個師団も控えている。戦闘省が有能で約束を必ず守る義理堅い部署であれば、完全に定数を満たした3個師団を派遣してくれるでしょう」

「それは、期待しても良いのでしょうか」

「ダロス皇国、ロッシナ連邦、それにマベルタ王国、「対クァンタム同盟」に囲まれている今、完全武装の3個師団を回す余裕があるのかどうか。まぁそんな事は私達が心配する問題ではない。無い物は無いのだし、足りない物は足りない、そこは工夫して乗り越えるしかない」

「中尉殿としては、南下してくるメリスト連邦王国軍にどう対処しますか」

「焦土作戦を取りたいのは山々だけど、この戦争、そんなに短くなるとは思えない。さっきも言った通り、「対クァンタム同盟」に東西南北取り囲まれている今、1国だけ破ったからと言って、戦争が終わってくれる可能性は薄い。だからこそ、序盤戦での勝利は必須よ」

 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉は、作戦地図を睨み付ける。相変わらず、青い駒は圧倒的な赤い駒を前にして、心細い状況に居るのは変わらない。約束通りに3個師団が届いたとしても、メリスト連邦王国軍を撤退させるのは、贔屓で言っても甚だ困難、正直に言うと不可能に限りなく近い。

 見込みがあるとすれば、各個撃破しかない。先述した東西南北を取り囲む様に位置する「対クァンタム同盟」が、全力でこちらに同時に攻撃を仕掛ける前に、1国ずつ叩いていけば、勝機はある。ただ、今の自分にはそんな事を考える立場でもなければ、地位でもない。預かっている戦力だって少なすぎる。

「後方の3個師団の作戦班や指揮官と話がしたい。至急、呼びつけて欲しい」

 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼中尉の中には、まだまだ勝機があると言う事だ。心許ない青い駒であるが、赤い駒を圧倒する時が来るのか。いや、こちらに振り向かせるのだ、運命の女神とやらを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ