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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第4章 名誉皇帝篇
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0064 責任の居所

 メリスト連邦王国が先陣を切ったのは、他の「対クァンタム同盟」よりも武力も財政も充実していたからである。「世界最強の海洋国家」の称号は、この時代、メリスト連邦王国にこそ相応しい。その力を物語るのが、この水平線を埋め尽くす帆船のマストである。ゼハード海峡にて警戒任務に当たっていた、クァンタム共和国陸軍第11師団は、その光景を見て、この世に「絶望」と呼んでも良い絵がある事を知った。

 第11師団の首脳部は、急ぎこの状況を首都・ハリスにある戦闘省に伝えるべく、連絡員の戦姫を1人、後方に飛ばして、これから自分達は如何するべきなのかを議論し始めていたが、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉の所属する第3軍狼中隊は、首脳部の右往左往の混乱を知って、然もありなんと感じていた。

 そうでなくとも、クァンタム共和国は革命直後と言っても良い状態であり、人手不足・経験不足・予算不足、何一つ充実しているものはない。第11師団もまた、その実態は定数を満たさない弱兵の寄り合い所帯である。

 平和ボケでそうなった訳では無く、むしろ周囲360度敵だらけと言う事態の中で、共和国陸軍は急ぎ軍備を最適化しようとしていたが、「トゥリトル・トゥレイト」の法則は、ここでも残酷なまでに機能していた。

 そんな中で、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉は野戦司令部に呼びつけられていた。一体何を言われるのか、あまり期待しないままにやってきたが、その予感は完璧に的中する。作戦士官、佐官、将軍、全員渋面をこちらに向けている。

「少尉殿、メリスト連邦王国の上陸部隊を邀撃するのに、いや、邀撃しても良い物かどうか、我々はどうすれば良いと思う」

 そうか。こいつらの魂胆が見えた。こいつらは、自分達が責任を負うのが嫌なだけだ。邀撃戦になって負けても、逆に数的不利を理由にして撤退しても、言い出しっぺが全責任を負う事になるのだ。その言い出しっぺの責任者を探していたのだ。そして、それにこのレオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉が選ばれた、と言う事なのだ。

 別に怒りはしない。呆れもしない。軍隊に限らず、人が集まって組織を作り、群れて何かし始めると、こう言う事は良くある話だ。だからこそ、言ってやった。

「全力で阻止戦を展開するべきです」

「その根拠は?」

「勝っても負けても、時間稼ぎとなって友軍に貢献できます。何もしないで潰走するよりも、絶対に戦った方が良いです」

 レオポルド軍狼少尉の表情は、鉄面皮のそれである。一切の感情を排しているが、胸の内には第11師団首脳部に対する嫌悪感と憎悪感にて満ちていた。こんな根性で、よくもまぁ革命なんて起こしたものだ。「対クァンタム同盟」なんて代物を組織された時点で、こうなる日が来るのは運命付けられていた。なのに、責任を負う事すら忌避して、グダグダな意志決定をしているのは、同じ国の人間としてかなり歯痒い事実であった。

 指揮官である、中将の襟章をつけている中年の男性は、レオポルド軍狼少尉に言う。

「では、少尉殿の中隊がその先陣をきるというのか」

「必要とあらば」

 クソ、こいつ、本気か。中将の表情はそう語っていた。そして、こうも語っていた。こんな戦闘狂と心中なんか出来るものか。

「……分かった。私の責任に置いて、一時退却を命じる。このままここであの大軍と戦えば、我が第11師団に勝ち目は無い」


 無責任な上官が、ようやくその責任を認めて動き出そうとした時、既にメリスト連邦王国の本国艦隊が護衛する輸送船団は、続々とクァンタム共和国の大地を軍靴で踏み拉いていた。

その先陣を切るのは、並の馬の1.7倍はある巨軀を持つ一角獣、ユニコーンに乗って戦う「角騎兵」と呼ばれる部隊である。先陣をきる一角獣に乗った近代の騎士達は、長槍を手に持ち、見事な隊列にて敵地を練り歩いていた。その光景は、観る者に対して「力」とは何かを教えていた。


「……と言う事で、私の意見として、何の抵抗もしないままに後退するのは、あまりにも消極的に過ぎる。何かしらの抵抗はするべきである、となる」

「……それで、本官の中隊に殿を務めろと?」

「第3軍狼中隊だけではなく、第8砲兵大隊、第2戦姫小隊、それに2個大隊の歩兵部隊もつける。巨神部隊は残念ながら割けない。今はこれで我慢してくれ」

「一体、誰が現場で指示を」

「少尉殿がやっても構わん。気に入らないのならば、今この場で昇進させてやってもいい」

「……それは必要ありません。然るべき時と場にて昇進させてもらいます」

 レオポルド軍狼少尉は、さっさと野戦司令部から自分の持ち場に移っていた。もし自分が出世した折には、あんな腰抜けを中将になんか昇進させない。


 スコープにて「敵」を見つめるのは、クァンタム共和国陸軍の偵察戦姫である。上空から、雲の多い所からの偵察なので、今の所はバレていない。しかし、メリスト連邦王国が世界に誇る軍隊は、見事としか言えなかった。七つの海を支配して、膨大な富を築き上げた王国の軍隊である。

 「角騎兵」が、歩兵を伴って、戦姫も連れて、共和国の大地を行進している。見事だ。見事だが、何か違和感が拭えない。無警戒だ。囮か、誘因作戦か、よく分からないが、これは何かある。

 彼女がそこまで考えたところで、任務を切り上げて野戦本部に引き返していた。雲が晴れ始めていたのが、その主な理由である。


 レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉は、その偵察戦姫の報告を聞いて、作戦地図と睨めっこをしていた。青い駒は、大量の赤い駒を前にあまりにもか弱く展開している。果たして、この配置の意味する所は一体何なのか。

 敵の前進部隊が、あまりにも無防備な形で前進をしている。偵察戦姫の報告を前にして、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉は、今暫く時間と情報が欲しいと思ったが、すぐにその思念を追い払う。

 どの道、自分に与えられた戦力では「時間稼ぎ」にしかならない。だったら、素直に「時間稼ぎ」をすれば良いだけの話だ。偵察戦姫の報告が、こう言う形になるのは仕方が無い。敵の意図なんて、この情報だけで分かる筈がない。そもそもそんな情報、ノイズでしかない。前進部隊だろうと後方支援部隊だろうと、嫌がらせの「時間稼ぎ」を行う。それが自分達に課せられた任務である。

 良いじゃないか、この話、乗ってやろう。誰もが「責任」を放棄している今、自分だけでも与えられた責務を果たさなければならない。茨の道で、しかも報われる事の無い生き方であるが、仕方が無い。これが運命だろうと、茨を踏み潰して歩く、否、駆けるのだ。

 第11師団の殿にて、敵軍の前進を暫く止める。それが自分の役割である。その損な役割を引き受ける事になった、砲兵、戦姫、歩兵部隊を前にして、レオポルド軍狼少尉は述べる。

「さぁ、行くよ。色々と面倒だろうけど、死なない程度には働こう。ここから先、こう言う場面には何度も立ち会うだろうけど、諦めないで頑張ろう」

 そこまで訓示を述べた後で、レオポルド・ヴァスチーユ軍狼少尉はその最後をこう締める。

「みんなで、生きて家に帰ろう」

 その時、「女」として育てられた「男」の浮かべた笑顔を、その場に居た兵隊達は一生忘れなかった。これから、この共和国は未曾有の危機に陥るだろう。そして今正に、その「危機」が行列を組んで進軍中だと言うのに、こんな透き通った笑顔を浮かべられる人間が、どれだけ居るだろうか。

 自分達は、とんでもないカリスマを前にしているのかも知れない。そうとまで思う者も居た。いや、それを知る為にも、この場は生きて帰らねばなるまい。人間、暖かいベッドで一生を終える以上の幸せはないのだ。


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