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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0060 「受容」と「共感」

「良いのですか、悪夢が現実になりますよ」

「敵は首都星に閉じ籠もっている。こちらの呼びかけにも応じないし、交渉にも応じない」

「……首都星での市街戦、となりますよ。字面にするだけでも恐ろしい、最悪の悪夢ですよ。閣下の名声だって」

「名声はどうでもいい。どうせ戦争はすぐに終わる。発生する犠牲は大きいだろうが、それは全部私が責任を取る。諸君は、何も気にする事なく戦いたまえ」

「……良いのですか」

「反乱軍が市民を盾にしている今では、こうするより他ない。盾の対象が、成人から子供や高齢者、果てには政府閣僚にまで拡大してからでは遅い。反乱軍はこれまで犯罪行為のフルオーケストラを奏でてきた。この際、目的が何であれ、「秩序回復」「治安維持」と言うこちらの錦の旗には、間違いはない。どちらかが支持を得るのかは目に見えている。例えどんな被害が出ようとも、最終的な責任はこの事態を防げなかった本官と軍上層部、それに反乱軍にある。どんな悪夢よりもトラウマになるだろうが、終わらせるのならば早ければ早いほど良い」

 王光貞大将は、スタッフ達一堂に告げる。

「すまない。だが、どんな悪夢でも何時かは終わる。どうせなら、早く終わらせよう」


 開拓暦149年1月13日。沖那波宇宙軍は、反乱軍が制圧下に置いている首都星に向けて、強行着陸を行っていた。先ずは宇宙港を制圧して、反乱軍に使用される怖れのある宇宙船を全て爆砕し、巨神部隊、機甲部隊、戦姫部隊でもって、市街地の反乱軍の殲滅に入っていた。

 最初は、まだ「受容」と「共感」の余地があると思われていた反乱軍であるが、もう誰もそんな「建前」を実行に移そうとはしなかった。「虐殺」「ハイパーインフレーション」「拉致・連行」、犯罪行為のフルオーケストラで聴衆の耳と心を痛めつけた連中に対して、もはや「優しい」感情や「同情」の念は一切湧かない。殺して土に返して、彼ら、彼女らが殺した市民達を弔う人柱にしてくれる。

 何よりも、正規軍が慕う総司令官、王光貞大将の心を大きく傷つけた。戦時内閣首相、テレサ・ミルウェイを殺した光景を全宇宙に放送して、その生命と尊厳を踏み躙った。公僕の一種である軍人のすべき事ではない。許すわけにはいかない。

 それは正に、「憎しみ」と「流血」の悪夢であるが、仕掛けてきたのは奴等だ。これ以上、無駄死にを増やす前に始末しなければなるまい。


 成人男性や女性を人質にして、こちらに突っ込んでくる正規軍に対して脅しをかける反乱軍であったが、正規軍は一切相手にする様子は見せない。これ以上「調子に乗る」前に、土地に塩を撒く勢いで反乱軍を叩かなければ、同じ事は今後幾らでも起こる。

 犠牲覚悟。批判上等。責任は全て指揮官が持つ。それでも、この「悪夢」を振り払うのには時間がかかりそうだ。命乞い、悲鳴、罵声、そして断末魔の叫び。こんな事、あってはいけない。許されてはいけない。それでも、こうするより他ない。「もののあわれ」を理解している人間であれば、「首都星での市街戦」なんて、誰が相手でも「悪夢」に他ならない。

 半世紀。短ければ、20年か30年。王光貞大将が予想する復興に必要な時間であるが、この光景を見る限りでは、1世紀はかかるのではないか。いや、今後何世紀かかろうと、もう2度とかつての覇権をとなえるだけの力を失う事になるだろう。何かしらの「奇跡」でも起きてくれない限りは、かつての栄光を取り戻す事は出来ないだろう。

 崩れるビル。押し潰される人。燃え上がる車。その光景のBGMとして流れる市民の悲鳴。全てが、「人の営み」を否定し、壊すものであった。


 サラティー・サラド・王戦姫中尉は、遂に見つけ出した。反乱軍の中で、首相官邸にて指揮官と思しき女を守っている戦姫が居る。あいつだ、あいつが王光貞の元彼女であり、認知させて貰えなかった2人の娘の母親を殺した、あの戦姫だ。

 生きたまま裁かせるか。いや、この際、法の手続きを省略してでも、自裁なんて許すわけにはいかない。殺すのだ。この手で、こちらの手で、正規軍がやらねば、誰がやる。

 サラティー戦姫中尉は、大剣を振りかざして、その戦姫に突っ込んでいく。相手は、その大剣を同じサイズの大剣で受け流す。

「大将の御夫人が相手とは、恐れ入ります!」

 相手は何処からそんな余裕と自信が出てくるのか。戯言を述べてくるが、聞く耳は持たない。打ち込む、打ち込む、ひたすら打ち込む。

「軍人が私情で戦っても良いのかしら!?」

「そんな事を言う資格はあんたにはない!」

 斬撃が互いに幾度も交わされて、互いの刃がぶつかり合う度に甲高い金属音が響く。一撃でも受ければ、致命傷になる。鍔迫り合いになりながら、お互いに言葉の応酬を始める。

「なんで殺した! あんな形で人を殺して、ここでも民間人を盾にして、あんた達は何が憎くてそんな事をしたのよ!」

「有能な敵より無能な味方が嫌いなだけよ! 無謀な作戦ばっかりたてて、犠牲だけ増やして、私の兄も姉も父も母も弟も妹も、家族で過ごした家も、全部奪っていった! 挙げ句の果てに増税や人的動員と言って、私の人生も僅かな遺族年金も全て奪っていく! こんな国の為に死にたくない! 死ぬべきなのはお前達だ!」

 これには、少しだけ「受容」と「共感」の精神が浮かんでしまうが、サラティー・サラド・王戦姫中尉は、それでも返答する。

「私達の大将は、「負けない」とあの人に約束した、私は絶対に負けない!」

 脚を使うサラティー・サラド・王戦姫中尉。体勢が崩れて、大剣を持つ手が明後日の方向に向く。戦姫の大剣の一撃は、致命傷になる。

 こうして、彼女は、夫がかつて愛した女性の約束を守り抜いた。


 反乱軍は、その「憎悪」の炎で、己を燃やし尽くした。そして、「悪夢」は終わった。生き残った人間は、自分達の作り上げた地獄絵図を眺めて、思わず呟いた。

「終わった」

 沖那波の歴史と栄光が、である。ついでに、戦争も終わりだ。


 サラティー・サラド・王戦姫中尉は、テレサ・ミルウェイの仇を討った事実を、王光貞「元帥」に伝えた。元帥閣下は、その場に居た部下達全員に背を向けて、旗艦の艦橋の端の方にいくと、今度こそ涙腺を全開にさせて泣いた。それを見て、咎める部下は1人も居ない。泣けば良い。泣く暇があれば戦うべきだとして戦い、自分達はそれに勝ったのだから。そして、その役割を見事務め上げたのだから。


 開拓暦149年1月29日。第二次戦時内閣がスピード発足、「治安維持」「秩序回復」「避難民救助」に全力をあげるのと同時に、宇宙統一機構・日本に特使を派遣していた。北海途との休戦条約の締結の為だ。



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