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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0057 2柱の「龍」

「龍」の怒りに対して、反乱軍はどう報いたか。最もやり易い方法であり、最も駄目な方法で報いていた。即ち、「暴力」である。流石に巨神はやり過ぎであったが、戦姫となると威圧感が足りない。と言う事で、身長7メートルの機甲、人型ロボット兵器が、大剣を振り回しながら、「龍」を追い払っていた。

 「龍」は、沖那波の各星系にて大いに暴れ回っていた。「平和内閣」、「講和内閣」、北海途との即時停戦を掲げつつも、やっている事は暴力的な統治であり、「龍」に対する最大級の挑発であった。「龍」は古来より、最も慕われた、いわば「神」である。怒った「神」に対して、統治者はこれを上手く説得して、乗りこなさなければならない。

 そして、「龍」は時折分裂して、2柱の「神」になって争う事もある。それで滅びた国は古来より幾らでもある。だがこの際、「龍」は1柱のみであり、その怒りの対象も定まっていた。いくら何でも、クーデターの為にまだ若い女性の、それも母親でもある戦時内閣首相の頭を叩き割るなんてデモンストレーションは、明らかにやり過ぎである。「龍」の逆鱗に火を付けるかの如き蛮行に対して、「神」は怒り散らかしていた。


「……と言う訳で、今の所、反乱軍は民意を得られていません。反乱軍を構成しているのは、主に後方にて育成中であった新規部隊であり、実戦経験も少なく、物量でも圧倒的に我々が有利です。一刻も早く首都星に赴いて、制圧、秩序再建を目指すべきです」

 デバッカー・サレント作戦中尉は、上官より先に結論を述べる。叩くなら今だ。そう述べていた。何しろ、前門には北海途宇宙軍と言う「虎」が居る。後門の「龍」が暴れている間に、「虎」までも暴れてしまったら、対応できなくなる。こちらに前門と後門の双方に備えるだけの予備の軍は無い。

「それが分かっているから、反乱軍は動いたんだ。何の成功の目算も無しに、衝動的にやった訳では無い」

 王光貞大将は、そう言って、スタッフ達に告げる。

「反乱軍は戦時内閣を全員処刑せずに、首相のみを殺した。閣僚の中に反乱軍を焚きつけた連中が居るかも知れないが、もしそうであれば早い内に名乗り出ている筈だ。反乱軍の背後には北海途宇宙軍の存在も居るべきものとして」

 と、そこまで喋った後で、突然、会議室に備え付けの電話からコール音が鳴る。受話器を取り出して、二言、三言、会話を交わした末に、王光貞大将は告げる。

「準備出来次第、全戦力でもって反乱軍を殲滅する。一刻も早く、だ。先程、北海途のメディアが一斉に「クーデター発生」と報道しているとの通達があった。大統領府と議事堂に、暴徒を扇動した反乱軍が突っ込んで、どうしょうもない状態らしい」

 対立する2国間、その双方にて起きるクーデター、内乱、果たして、この戦争は何処へ向かおうとしているのか。法も秩序も無い、「怒り」と「憎悪」に満ちた世界の中で、自分達は何の為に、何処へ「救い」や「正義」を求めれば良いのか。

 彼らは、彼女らは、そこで悟っていた。この世に「正義」も「悪」も無い。この複雑怪奇な世界の中で、唯一確かなのは、残酷な「運命」だけだ。


 開拓暦148年8月19日。反乱軍は大統領府と議事堂の見える交差点にて呼び寄せた「龍」に訴える。

「現在の、今日の「危機」を招いたのは誰か! 我々は何か罪を犯したのか! 何故戦争に勝てないのか!」

 「龍」はこの時、まだ黙って反乱軍の機甲の掌に乗って演説をする戦姫の言葉に耳を傾き続ける。

「全ては、あの「獅子王」の息子が、世襲でもって実力も無いのに権力者の座についた愚王ことセルドア・マークベルク大統領の采配が原因である! 我々が求めているのは何か!? 豊かな食事と、相応の平穏と、平和である! 戦時内閣にはそれが出来ない! そもそも民意で選ばれた訳でもない連中が、どうしてあの椅子にてふんぞり返っているのか!」

 「龍」の体温が熱くなっていくのが、肌で感じられた。戦姫の演説は、フィナーレに近づいていく。

「取り戻せ! 世襲で分不相応な椅子に座っている愚王を吊せ!」

 「龍」は怒りの矛先を向けるべき相手を見出した。逆鱗に剣を突き刺された「龍」は、次々と議事堂と大統領府に雪崩れ込んでいく。


 セルドア・マークベルク大統領は、その「龍」を前にして1歩も引かぬ構えであった。シークレットサービスや、大統領補佐官が退避を命じても、1歩もその場を動かなかった。

「逃げるわけには行かない。私の死体から新しい秩序が造られるとすれば、それは運命だ。受け入れざるを得ないだろう」

 内閣の議員達も、この言葉を聞いて、悔しさを滲ませていた。ここまで職務に忠実で、民意を大事にして、仕事を真面目にしている大統領を、20代にて務めている人間を、何故に「愚王」と呼ぶのか。何なら、やりたければ交替させてやっても良い。

 あの「龍」は、現実を受け入れられていない。盲目の「神」だ。この世の理が受け入れられていない。この世に「正義」と「悪」が存在して、自分達こそ「正義」だと思い込んでいる。そんな「邪神」に殺されるのなんて、馬鹿馬鹿しい。あんな「邪神」の選ぶ統治者よりも、ここに居る「愚王」の方が、どれだけマシな事か。

 その時、執務室に駆け込んできた人間が1人、居た。「ダンテの大将」と呼ばれている、今は後方勤務という懲罰人事に耐えている大将、ゼハーダンテ・カッシュ大将である。

「閣下、既に避難の準備が出来ています」

「無用だ。民衆の支持を得られていない戦時内閣の大統領が、生き延びたところで何になる」

「いけません。閣下は生き延びて、クーデターを鎮圧し、秩序を回復する義務があります。この義務を疎かにして、クーデターを容認するのは、文民として最悪の選択です。ましてや、閣下は汚職や失言、不正でもって弾劾されているわけではありません。連中の理屈を「民意」として受け入れているのは御立派ですが、「暴力」が伴った時点で、あそこに居る民衆は鎮圧するべき「暴徒」です。「暴徒」の意見を聞くわけにはいきません。閣下をそんな連中の手で殺させる訳には行きません」

 セルドア・マークベルク大統領は、沈痛な表情を浮かべつつ、「ダンテの大将」に応える。

「お前は、いつも正論を言うな。それは良い事だ。良い友を、良い部下を持った。分かった。ここは生きるとする。だが、「龍」を殺した後で、一体誰をもって統治者として生きろと言うのだ。我が国は民主主義国家だぞ。どんなに醜悪な「龍」だとしても、我々は従わなければならないのだ」

「そこは後で論ずれば良いでしょう。今は兎も角、逃げましょう。今後の議論は生き延びてからでも遅くはありません。連中の弾劾裁判の場にて述べたとしても、待っているのは「死」です。「死」を恐れないのは、単に鈍感になっているだけか、あるいは格好付けているだけです。現実の「死」を前にして、恐れるのが一番人間らしい反応です。そして、それを恐れない人間は「英雄」ではなく、それこそ「愚王」です」


 ゼハーダンテ・カッシュ大将がかき集めた兵力は、「邪龍」とこれを差し向けた反乱軍を前にして、壁の様に立ち塞がった。ここから先は通さない。と言う覚悟であったが、「暴徒」と化した「龍」の怒りに油を注ぐ羽目になっていた。これではまるで自分達が「悪」ではないか。冗談では無い、「正義」は自分達の為にこそある言葉では無いか。

 壁は其処彼処で殴られ、蹴られ、刺され、撃たれ、中には命を亡くす者も居た。このままではもたない。と言う段階に来たところで、ようやく大統領専用VTOL機が、大統領府の庭から飛び立っていく。

 北海途の首都星は完全にクーデター軍に占拠されていたが、他の星系も次々と「龍」が目覚めていた。しかし、それは2柱の「龍」であった。分断された「龍」は、お互いの尻尾に食らい付いて、相手の身体を噛み砕いていた。どちらが先に食い尽くされるのかを試すかのように。


 マリナ・マークベルクは、弟と愛する男性が、困難な立場に立たされていると言う事実を知り、「ダンテ」が上手くやってくれていると信じていた。弟の「義務感」と「責任感」と「意固地」がミキサーで混ぜ込まれた人格を、「ダンテ」は上手く説得してくれる筈だ。まだ幼年学校に入る前から、単なる友達同士だった頃から、あの2人はそうやってお互いを補完しながら生きてきたのだ。

 大丈夫、あの2人なら、何とかなる。何でも出来る。負ける事もあったけど、死んで帰ってくる事は無かった。大丈夫、何とかなる。


 開拓暦148年9月2日。臨時の大統領府に集められた閣僚達は、敵クーデター軍の規模を知って、顔を青くさせる。

「正規軍の3分の1が、反乱軍側に付いたか!」

 3分の1、それもこの間まで一緒に戦っていた仲間の内の、3分の1が、敵に回るのだ。

「なんとか、このあいた3分の1の空席を埋めなければなりませんな」

 その一言は、「限定的」ではあっても、「徴兵」と「徴用」の必要性を訴えている内容である。この瞬間、この「北沖戦争」に置ける北海途宇宙軍最後の戦いが始まっていた。


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