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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0056 負けるな

 軍や政府関係者は完全に焦っていた。これから先、何をするのにも「龍」の気分をお窺いしなければ、決められなくなっている事実に、遅まきながら気が付いたのだ。この世で最も強い生き物、怒れる大衆と言う「龍」を納得させるのには、今の戦時内閣では全く力不足となってしまっていた。「龍」は自分の逆鱗に1度でも触れた内閣は許さないし、信じない。この「龍」を天に帰して、静まらせる為には、並大抵の力では全く及ばない。

 新しい内閣を組閣するべきか。沖那波でも北海途でも、そんな話が出ていた矢先に、先に「龍」が口から火を噴いたのは、沖那波であった。


 テレサ・ミルウェイ首相は、かなり早い段階で、自分達の次の人事を決める事を、つまり自分達の後任を探し出す事を決めていた。要するに、今の内閣は解散させて、次の戦時内閣に後を託す事を決めたのだ。「龍」を相手にするのには、そうするより他ない。

 その問題については、内閣には今の所は伏せていた。折を見て仕掛けるつもりである。今は戦時なので、解散総選挙なんて出来ないが、与野党の代表と共に話を詰めるところから始めるしか無い。それこそ至難の業であろうが、やるしかない。政治的空白が生じるより先に、話を詰めなければ。

 そんな事を考えている間に、公用車にて移動している最中に、テレサ首相は不自然な光景を目にする。走行中の道路の先に、誰かがいる。デカい剣を持っている、まだ幼さが残る戦姫が1人、こちらを睨み付けている。

 誰なのか。考えようとした次の瞬間には、頭上から機甲が降り立つ。これもデカい剣を構えている。自分達が、否、自分が挟まれた事実に、この時ようやく気が付いていた。


 要塞惑星テラースにて、次何時来るか分からない出撃命令を待つ王光貞大将は、部下達の動きを完全に掌握していた。部下達は取り越し苦労だと笑ったが、光貞大将以下主要スタッフは、自分達の大将の見立てが正しかった事を知った。

 首都星より緊急声明が報じられると聞いて、超光速通信でもって届けられた映像には、両手足を拘束されて、身動きがとれなくなったテレサ・ミルウェイ首相を背にして、1人の戦姫が吠えていた。

「今すぐにでも、無意味な負担を終わらせるべきである。即ち、即時停戦、次の戦争が来るまでに力を貯めなければならない。平和内閣、講和内閣の実現の為に、戦時内閣には政権の座からは勿論、この物理宇宙からもご退場願います!」

 王光貞大将は、心底呆れ返る。「即時停戦」、それは結構。「平和内閣」、ごもっとも。「講和内閣」、宜しい。しかし、その為に政権奪取、軍人によるクーデターを起こすと言うのは、手術もしないで癌を治療するのと同じである。「平和の為の暴力」という言葉の矛盾を、どう処理するつもりなのか。

 この時、王光貞は油断していた。ここへ来ても、尚もクーデター犯がテレサ・ミルウェイを殺す事など有り得ない。変なところで、そんな確信があった。身近な人間が、過去を共有する人が、思い入れのある他人が、あっさりと死んでしまう、それも殺されると言う事実について、あまりにも鈍感になってしまうのは、それが人間と言う物である、としか言えない。

「では、ここでその我々の悪の象徴、殺すべき戦時内閣首相、テレサ・ミルウェイを処刑する」

 と言うと、口を塞いでいた猿轡を外して、戦姫が言い放つ。

「さぁ、最期に言いたい事があれば、言いなさい」

 無駄な粋がりだ。テレサはこの程度の事で音は上げない。そんな神経では戦時内閣で首相なんて大役を担えない。

「……暴力には屈しません。私を殺せば、あなた達の手は血で汚れます。そんなあなた達を支持する民衆が、どれだけ居る事かしら。もしたくさん居ると思っているのならば、それは自信過剰ね、人の心を甘く見すぎているわ!」

 テレサ・ミルウェイは、モニターの向こうに居る、絶対に観ていると思っている元恋人の元へ向けて、叫ぶ。

「愛しています、光貞! こんな奴等に、絶対に負けないで! あなたは何時だって、どんな戦いだって勝ってきた! こんな奴等に負けないでよ!」

 デカい剣を天に掲げる戦姫。おいおい、まさか本当に叩っ切るつもりなのか。ここで叩っ切っちゃったら、もう2度とお前達は許されなくなるぞ。

「負けないで! 絶対負けないで!」

 デカい剣は振り下ろされた。映像にモザイクがかかるものの、それでも隠しきれない真っ赤な血が、全てを物語っていた。


 皆、スタッフ全員が指揮官の顔を見ていた。「絶望」「失望」「哀しみ」「怒り」「憎しみ」、全てが「カオス」の中にてかき混ぜられて、混濁としている。

そんな、こんな事があっても良いのか。2人遺された彼女の娘は、長女も次女もまだ小さい。なのに、こんな形で終わるのが、良い筈が無い。まだ終わってはいけないのだ。残した仕事も多くて大きい、何でこんな所で、彼女の人生が終わってしまうのか。

 ここで終わってしまったら、元も子もないじゃないか。ここから先、一体どうやって2人の娘は、生きていくのか。母親があんな風に殺されるのを見せつけられて、今後どうやってその傷を癒やせば良いのか。

 サラティー・サラド・王戦姫少尉の声で、王光貞は現実に引き戻される。

「これから、首都まで進撃してクーデターを鎮圧しなければなりませんね。負けてはいけません。そうでなければ、彼女が、あの人があんな風に死んだ理由が分からないじゃない。ちゃんと彼女を葬らないと、これじゃあ、これじゃああまりにも」

 サラティー戦姫少尉のこれ以上の発言を、光貞は右手を挙げて制する。

「大丈夫、いや、そんな事は無いが、ああ、頼む、みんな、少し時間をくれないか」

「駄目です、今すぐ戦うんです。負けないで勝つのには、休む暇もないんです。こうするしか無いんです。自分の殻に閉じこもったら最後、2度と外には出られなくなります。泣いて弔うのは、勝ってからでも遅くはありません。力及ばずながら、私達も一緒に戦うから」

 サラティー・サラド・王の目元に、涙が溜まる。

「だから、戦うんです。負けたら、彼女は勿論、私達も自分自身を一生許せなくなります」

 王光貞は、娘の居る元彼女を殺された哀しみを、今の所は胸の奥底に引きずりおろす事が出来ていた。「大将」としての態度と表情を取り戻すと、スタッフ達に命じる。

「1時間後に会議だ。首都星の治安回復と秩序再建の為に、何をするのかを決めよう。それと、敵の正確な情報が知りたい。偵察等の情報収集も宜しく頼む」

 開拓暦148年8月8日。「北沖戦争」の沖那波宇宙軍が戦う、最後の一戦が始まったのである。


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